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超人外–SUPER EVILDOER-  作者: エス
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第6話 未知からの歓迎


「うぅ〜っ、うぇ、うぅうぅ……」


「みっともないな‼︎ 到底同い年とは思えないぞ‼︎」




対戦区域外のベンチに座るミギの背中をアシが容赦なくバシバシ叩く。目の前では街と対戦区域とを分ける白い壁を取り払う作業が進められている。何事もなかったかのように活気を取り戻す街並みに、ミギは余計に恐怖を感じた。




「それにしても爽快だったな‼︎ 覚えているか⁉ アイツの頭が潰れた瞬間!!」




ミギは右手に今も残る生々しい感触に、ぉえ、と小さくえづいた。




「そんなのでこれから大丈夫か⁉ 全く軟弱だな!!」


「ぅぇ……ちょ、ちょっとそっとしといて……」




当然そんなことくらいでアシは黙ったりせずに一人で話を続けるので、ミギは座ったまま頭を抱え込む。母親がいつもそうしてくれたように、今度は自分の手でかき混ぜるようにして頭を撫でる。冷たい風が火照った頬を撫でていくのが不思議な感じがした。





「相棒!!」




暫くして、ミギの目の前に何かが差し出された。いつの間に移動したというのだろうか。茶色いカップの上に、山盛りのクリームが乗っている。




「今日は奢ってやろう。先輩は後輩におごるもんだ!! そうだろう⁉」


「……知らない、けど」


「遠慮するな!! 食え!!」


「うわっ⁉」




アシがミギの背中をバシッと叩いた衝撃で、鼻先がクリームにぶつかった。




「……あれ、冷た……」




ところが、クリームは想像の何倍も冷たく、ミギの体温に触れると直ぐに溶けてしまった。




「お前、ソフトクリームも食ったことがないのか!! 今まで何して生きていたんだ⁉」




再び隣にどっかりと腰をおろしたアシは豪快にソフトクリームにかぶりついた。口の周りが白くなっている。ミギもそれを真似して、渦巻いたそれの先端に控えめにかぶりついた。




「……あま」




下の上で溶けて、優しい甘みが口に残る。母親が仕事終わりに 買って帰ってきた10本入り200円のソーダアイスに比べて、ソフトクリームは遥かに甘くて、滑らかで、幸福だった。ふと上を見上げると、今までは重たいカーテンに閉ざされていた青い空がどこまでも広がっている。




「綺麗だな……」




何をするにも母親を思い出してしまうのに、戻れるならあの日、母と2人きりのアパートに戻りたいのに。その気持ちが強ければ強いほど、ミギの瞳に外の世界はどうにも魅力的に映った。







______________________________




「ビルが6棟と、カフェが一軒、あと道路も数十メートルに渡ってアスファルトが割れてるネ」


「信じられない……」




元いた施設の近くの寮らしき場所にて、ミギとアシは正座させられていた。今までミギを押し込めていた白い部屋とは違い、飲みかけのマグカップが置かれた木製のテーブルやクッション付きの椅子、カラフルなシールで予定が記されたカレンダーなど、そこかしこに生活感がある。


しかし、そんな温かみのある部屋に似合わない陰惨とした雰囲気でバインダーの資料を捲るハイ。そしてその横にハイより頭二つ分も背の低い、栗毛色の長い髪を持つ女がため息をつきながら腕を組んでいた。




「獣型の異骸一匹、そのうえクラスも1だったのによくもまあここまで街をめちゃくちゃにできたわね……」


「フン、主役はいつだって派手に戦うもんだ!!」


「黙りなさい!今は説教中よ」




クラス、というのはおそらく異骸の強さか何かだろうか。そうだとすると、あれよりも強い異骸がいると考えるとおぞましい。出来れば出会いたくないものだ。


目の前の長い髪の女は、ともすればミギよりも年下に見える小柄な体に反して神経質そうな顔の眉間に皺を寄せている。




「……まず初動が遅れている。君たちが対戦区域に到着した時点ではまだ異骸は出現していなかったはず」




アシ、ミギの順番に女が鋭い目を向ける。ミギにとって、異性から責め立てるような視線を向けられるのはこれが初めてで縮こまる。一方でアシは慣れているのか腕を組んで鼻を鳴らした。




「ウーン、新入りにテンションあがっちゃったカナ。まだまだ気分にムラっけがあるケドまえよりは確実に進歩してるヨ。コユビもあんまり責めないでやってもイイんじゃない?」




あのハイがフォローに回っていることに、ミギは驚いた。しかし、今度はコユビと呼ばれた女の鋭い視線がハイに標的を移す。




「……あなた、何他人事みたいな顔してるのよハイ」


「私?」




ハイが目を丸くして首を傾げた。頭の上に結んだ二つの触角が揺れる。その様子に気を悪くしたのか、コユビの顔はますます険しくなった。




「そうよ。あなた、ミギウデに仕事内容もロクに教えていなかったらしいじゃない。新人教育に興味があるとか言うから任せてみたら……!」


「だって、流石に異骸を知らないレベルで世間知らずだとは思わなかったんだヨ」


「だから! そう言ったすれ違いを防ぐために事前の話し合いをきっちりこなすべきで……!」




もはやミギとアシは置いてけぼりである。アシは早速正座を崩して胡坐をかきながら、制服のほつれを弄んでいる。




「まぁまぁイイじゃないの」




ハイがバインダーでコユビの頭を軽く小突くと、まだ何か言いたげな顔をしながらもコユビが口を噤む。ハイとコユビの力関係はよくわからないが、立場的にはハイに軍配が上がるのだろうか。




「ミギ」


「は、はいっ」




不意に、ハイに名前を呼ばれて背筋が伸びる。ミギときちんと名前を呼ばれたのはもしかしたらこれが初めてかもしれない。いくではなく、これからミギとして生活することになるのだ。




「初仕事成功オメデトー。これでキミも晴れて日本特異生物排除隊1区第7班の仲間入りだネ」




ハイは口角を上げてそっと微笑んだ。柔らかい笑みは、何故だかいつも母親の笑顔に重なる。




「歓迎するよ」

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