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超人外–SUPER EVILDOER-  作者: エス
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第3話 自我の記号

「おいで」




白い部屋。テーブルと椅子、パイプベッドしかないそこはまるで病室か独房のようだ。ノックもなく扉が開いて、中から死神が顔を出す。昨日までの出来事は全て夢だったのか、と思えるような暇もなく、いくは夢から引きずり出された。体を起こすと壁に取り付けられた鏡の中の自分と目が合う。女児と見間違うほどに長く伸びていた髪の毛はバッサリと切られ、見慣れない少年の姿がそこにはあった。





「……」


「返事ははい、だよ。私はキミの上司だからネ」




ふざけるな。自分の母親を、母親同然の存在を殺しておいて上司だなんて、そんなの馬鹿げてる。


そう思う反面、どうも現実味がなくていくの思考はふわふわしている。母親はまだどこかで生きているんじゃないか、とか。この腕の中で冷たくなる母親、もとい誘拐犯を見ておきながら、天晴れな現実逃避である。




「……はい」




しかし、妄想でも現実でも、今、いくはこの人のもとでなければ生きていけないというのは紛れもない事実であるようだ。


いくは固いベッドの上からのそのそと起き上がり、死神の後ろに着いて部屋を出る。目の前を歩く死神は黒いコートのような服と革のブーツをキッチリ着こんでいるのに対し、いくは支給された白い病院着とスリッパのみでどうにも居心地が悪い。




「私の名前はハイ。これからキミとペアを組んで行動する相手に会ってもらう。」


「はい」




ハイ、という上司にはいと返事をするのは呼び捨てにしている感じがして妙だ。いくより頭一つ分以上背の高いハイに置いて行かれないように、いくはやや駆け足になって追いかける。




「キミの名前は……」


「いく、です。三木いく」


「ア、ウン。その名前、没収ネ」


「え?」




突如としてハイの歩みが止まり、いくを振り返る。ぎょろりとした黒い瞳に見つめられるとどうしても足がすくんでしまう。名前を没収、なんのことだかいくにはわからない。




「キミは今日からミギ、ネ。」


「……み、ぎ」


「”右腕”のミギ、寄生獣っぽくていいんじゃない?」


「キセイジュウ……?」


「ありゃ、知らない?ジュネレーションギャップ? ……マァ、何にせよ名前なんて持ってるだけ無駄さ。個体判別できる記号だけあればそれで十分」




さ、着いたよ、と言って、ハイがドアノブに手をかける。今、ほんの数秒の間にいくの名前がなくなった。それに対して何らかの感情も、実感も持てないまま扉が開く。扉の向こう側で、会議室のような部屋に一人、髪を明るく染めた少年が佇んでいた。




「アシ、来____」


「お前だな!! この俺様のバディとやらは!!」




耳をつんざくような大声に、ハイといく、もといミギは咄嗟に耳を塞いだ。アシ、と呼ばれたその少年は、瞬く間にミギ達との間の距離を詰める。本当に、瞬く間に。あまりにも素早く移動したせいで、ミギには瞬間移動でもしたかのように見えた。




「随分とチビで貧弱そうだな!! 前の奴は三か月と持たなかったぞ!! そこで俺様は前回の反省を活かして今度からはバディをビシバシ鍛えてやることにした!! 俺様についてこい!! 死にたくなければな!! ワハハハハハハハ‼」


「ハイハイ、仲良くネー。喧嘩はしないようにネ。」




豪快に口を開けて笑う少年に、ミギはついていけない。何せ、同年代と話すのはこれが初めてだし、そもそも今まで関わってきた人間も母親とハイ程度しかいない。アシは一息で喋り終わると、満足したのか少し落ち着いてミギを見つめた。襟足を伸ばして結んだハイトーン。目も口も大きく、彫りの深い顔立ちは主張の強い彼の性格を表すにふさわしい。




「俺の名はアシだ‼ 左足のアシだ‼」


「……え、と、いく……じゃなくて、ミギ……」




左足のアシ、彼の名前も、名前ではなく記号に等しい。ハイも記号なのだろうか。ミギはどもりながらも自己紹介を済ませる。すると、突然拳が眼前に突き出される。




「うわっ⁉」




咄嗟に右腕を変形させて顔をかばうも、何も触れた気配がしない。




「え……?な、何……?」




恐る恐る目を開けてみると、アシがきょとんとした表情でミギを見つめていた。




「どうした?相棒になった暁には拳を撃ちかわすのが常識だろう?」


「アシ、また変な漫画読んだね?」




ハイが呆れ顔で、禍々しく変形したミギの手を取り拳をアシのものと軽くぶつけた。




「ハイハイ、仲良し仲良し。……キミ達たった2人ぽっちの同い年なんだ。良いトモダチになれると思うヨ。」




じゃ、早速。と言い、ハイは黒い制服をミギに手渡した。




「午後2時45分、異骸の出現が観測された。初仕事、ヨロシクね」

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