はじめまして
歩ける。
ほっ
完全には戻っていない視界で少しふらつきながらもなんとか椅子にたどりついた。
あまりに必死で気づかないかったけど、全身に大量の汗が吹き出ていた。
でも今は何にも考えられない。
こんなことなったことがないから、どうしていいかわからなかった。咄嗟の判断は結構できる方だったけど、自分においてはできないらしい。
それでもこの状態では帰れない事くらいはわかる。
だから、ちょっと迷惑かもしれないけど落ち着くまでここで休むことにした。
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何分経ったかな。
長い時間休んだ気がする。
かなりぐったりしていたからか、通る人が心配そうにみてきたけど声をかけられることはなかった。
一気に大量の汗をかいたから喉が渇き、水を買おうと自販機に向かった。今度はしっかり歩くことができた。
よかった、なんだったんだろ…
買った水をゴクゴク飲む。
久しぶりに美味しいと思った。
それからまた少し休憩したことで、体も心も落ち着いたから帰ることにした。結構長い時間椅子に座ってたから駅には人がほとんどいなくなってた。
駅を出て駐輪場に向かう。いつも止めている駐輪場は少し遠く、今の私には普段より遠く感じた。
自転車に乗って駐輪場を出る。
夜風が気持ちよかった。
人もほとんどいないし、道も広いからさっき起きたことなど忘れてちょっとだけ目を瞑って風を感じる。
「ふぅ〜、気持ちいい〜」
夜風を堪能していると直後突然目の前が明るくなった。
っ!
びっくりして目を開ける。が、そこにはなにもなかった。いつもと変わらない景色だ。
ふぅ。気のせいか。
私は安心して胸を撫で下ろした。すると途端にまた目の前が明るくなってり、今度はぎゅっと目を瞑った。
その瞬間ふわっと体が浮いた。
「…っ!」
驚きで目を開けた瞬間唖然とした。だって目の前には白い空間が広がっていたから。あまりにも唐突すぎるこの状況が私には理解できなかった。
「…は?」
なにが起こった⁉︎
どうなってんの!
さっきまで自転車を漕いでたのに!
ここどこ!
どう言う状況よ!
だって自転車漕いでただけよ?
てか、自転車ないし…
なんでこんなとこいんのよ。
「どこ、ここ…」
私は少しでも情報を得ようとあたりをキョロキョロしたが、何も見えない。見渡す限りなにもない。そんなところに私一人。
え、どうすればいいの?
純粋に疑問が生まれたが、とりあえず何もできないので座ってみる。
ちょっとパニック気味になったけど、今は冷静な自分がいる。
でもこの感じ…なんとなく察せないことはない。
心当たりがありすぎる。
だって小説や漫画で嫌と言うほどみてきたし。
…これはあれよね、死んで転生する人が来る場所よね。
でもおかしい。私死んでないよ?
てか、もしここが本当に転生する人が来るところだったとして、なんで私しかいないの?他の人はいないの?
それに普通神様とか天使とか、それに準ずる誰かがいるはずでしょ?なのになんで誰もいないのよ。
「っし」
ん?
なんか聞こえたな。
すると、ここに来る前同様に突然目の前が光った。それに驚き目を閉じ、再び開けると目の前には人?が立っていた。いや、浮いていた。
『え、誰…』そう思ったが、この状況、登場の仕方、姿形をみるに『…あ、神様とかか』と勝手に納得した。
私がそう納得したと同時に神様が口を開いた。
「初めまして、私はアステル。一応神として世界を創造・管理しています。よろしくお願いします」
そういうと神様はペコッとお辞儀した。神様もお辞儀をするんだとか思ったことは置いといて、やはり想像通り神様だった。しかも創造神。最も位の高い神だ。そしてもちろん強いのだろう。
『アステル』と名乗った神様はとても中性的な顔をしていて性別はわからなかったが、ずっと聞いていたくなるような心地のいい声色をしていた。
背中からは大きな翼を生やし、血色のいい綺麗な白い肌に、シルクでできたような質の良さそうな布をまとっていた。
白金色の髪はウルフカットにし、後ろ髪が足首まで伸びている。瞳はとても鮮やかで澄んだ赤色だった。
その姿は今まで見てきた誰よりも、
美しく、綺麗だった。
神とはこれほどまでに美しいものなのか…
神様だからなのかもしれないけど、今まで出会った人の中で一番綺麗で私の好みにドンピシャだった。ここまで見惚れた人は過去に1人もいない。
しばらく見とれていたら神様が少し恥ずかしそうに困った顔をした。そこでやっと自分の名前を言ってないことを思い出す。と同時に少し可愛いなとも思った。
「あ、どうも、神城優美です」
「うん、知ってます」
そう言って神様は笑った。
すっごい綺麗な顔で。
「なんとなく察しがついてると思いますが、あなたには私が創り、管理している世界に行ってもらいたいと思っています。
あ、先に言っておきますが、交通事故などで死んだわけじゃないです。たまたまできた次元の歪みに突っ込んできたので私が連れてきました。
他にも理由はたくさんありますが…」
神様は私がここにきた経緯と今後のことを簡潔に説明した。
突っ込んだ?…あぁ、自転車だったからか。
でも、態々この空間で『管理している世界』って言うってことは行くのは地球じゃなくて別の世界ってことだよね?
なんか最後の方は小さくゴニョゴニョ言っていたけど、しっかりか聞こえてますからね。聞こえなかったりとかテンプレみたいな、そんなのありませんよ。
うん。現実はそんなに都合良くありません。
てか、理由いっぱいあるの?
…うん、まぁそれは後でしっかり聞くとして、、
神様の説明で理解できたことは少なかった。というよりも『ん?』という疑問がいくつか増えた。とりあえずこの出てきた疑問を神様に聞くことにした。
「… よくわかりませんが、異世界?ってやつに行くんですか?元の世界に戻す事はできないんですか?そもそも次元の歪みってなんですか?あと、名前は『あなた』じゃなくて呼び捨てでお願いします」
思った疑問を一気に神様に質問した。少し多かっただろうかとも思ったが、神様だからきっと大丈夫だろう。
あと、名前は…まあ、一応相手は神様だから、、というのは建前で、私は私の名前がちゃんとあるので名前で呼んでほしかったというのが本音だ。
「ありがとうございます、優美。まず、私の創った世界、優美でいうところの異世界に行くかどうかは優美にお任せします。私としてはできれば行って欲しいのですが…強制はしません。私の個人的なお願いです。
そして元の世界へ戻す事は可能です。ですが、次元の歪みに入った事で優美の体は負荷に耐えられず消滅しました。そのため現在は前の姿を参考に、私が仮の姿を与えています。あと、優美が乗っていた乗り物も消滅してしまいました…すみません…
…なので元の世界に戻るとしても記憶を消され、新しい体で一から人生をやり直すことになります。
それで…もし異世界に行ってもらえる場合、記憶はもちろん保持されますが、こちらも同様に新しい体で赤ん坊からのスタートになります。なので転生という形になります。
こちらのお願いを叶えてもらうことになるので、できるだけ優美の要望にお答えします…
……。
また、次元の歪みについてですが、私たち神のいる空間と優美のいた世界がたまたま同じ波長になってしまったことでできたものです。このような事は本来あり得ないことで、今まで一度もなかったので油断していました。すみません」
神様は私の名前呼びのお願いにすごく綺麗な笑顔でお礼をした。そして少し多い質問に全て丁寧に答えてくれた。全ての質問を覚えていたことにも、それに対して全て丁寧な返しをしてくれたことにも少し驚いた。
なんかちょっと変な間があったけど…今は気にしない。でも、なんとなくだけどいい神様なんだな。
ふふっ、私には好感触よ♪
というか、『私たち』ってことはやっぱり神様って何人?かいるのね。という事は世界はそれなりの数あるってことだよね。
神様の場合呼ぶ時の単位は人じゃなくて柱っていうのかな?まあ、今はなんでもいっか。
「私がこうなった経緯はわかりました。でも強制じゃないんですね。こういうのって相手の意思を聞くのは建前で基本強制だと思ってました。
…まあ、戻るにしても記憶を消されるなら転生でお願いします。特にやり残したこととかないですし…
でも、なんで異世界に行って欲しいんですか?いくら次元の歪みに突っ込んできたと言っても、私じゃなくてもいいんじゃないですか?
それに、さっき言ってた私がこっちにきた理由ってやつについても詳しく聞きたいです」
正直、異世界には興味しかない。ぶっちゃけなくても、ものすごく行きたい。なのに「私じゃなくても」なんて自分で言って悲しくなる。なんで言ったんだか。もしこれで「じゃあ別の人にするので記憶消しますね」とか言われたら立ち直れる気がしない。絶対来世でも引きずる自信ある。
でもまあゴニョゴニョ言ってた「理由」とやらがめちゃくちゃ気になるから聞きたいし…
基本的に私は気になったことは最後までしっかり聞きたい質である。ただ、それをずっとやってると人間関係が崩れそうになるので、極力気になっても聞かないようにしていた。でも今は聞くべき場面だと思う。ので、あえて痛いであろうところを突かせていただきます。
小さい頃からずっとあった一面が少し顔を出す。私は少し口角をあげ、神様を見た。
なかったことになんて、しませんよ?
ゾワッ
「っ!」
私が心でそう言った瞬間、少しだけど場の空気が変わった。
が、そのまま神様に笑顔で圧をかけてみる。
あくまでかけてるつもり。実際かかっているのかはわからない。
でも…
「あっ、そ、そうですよね…その、まずは、私の勝手なお願いを聞いてくださり、ありがとうございます」
そう言って神様は頭を下げた。つもりだった圧が若干かかったようだ。気のせいかもしれないけど。
それともほんとに突かれて痛いところだったとか?
でもまぁしっかり頭を下げるあたり、やっぱりめっちゃ丁寧だ。神なのに。
さっきからずっと結構失礼なことを思ってるけど気にしない。反省もしない。だって神様も何も言わないし。
それにしても何度見てもすごく綺麗。ずっとみていたくなる。
というか、神様ってこんなに下手に出るもんなの?普通タメ口か高圧的か自分勝手なんだと思ってたけど。この神様大丈夫かな?他の神から舐められてない?心配よ、私。
私の読んでいた小説に出てきた神様達が普通だと思っていたけど、それもあくまで作者たちのイメージってことなのだろう。人間みたいにその神様によって態度はそれぞれ違って、相手する人に応じて話し方とかを変えてるのかもしれないけど…多分後者だろう。でないとこの神様はきっといじめられてしまう。神様に「いじめ」という概念があるかは謎だけど。それでも神様達の中で少し下に見られてしまうのは確実だろう。
私が勝手に心配になっていると、神様はさっきした私の質問に答え始めた。
「その…歪みに優美しか入ってこなかったというのも理由の1つです。他は…その…個人的に優美が異世界で生活したらどうなるのか見てみたかったのです。
失礼ながら時々他の世界を眺めては人の思考を読み取ったりしていたのです。
それでたまたま優美を読んだとき『異世界に行ったらこんなことをしたい』とか『こんなふうにすれば楽しいのにな』とか考えていたので会ってみたいと、話してみたいと思ったのです。そしてあわよくばそれを見てみたいと、できれば私の作った世界でやってほしいと。
あとは、えっと…その…私の所為で優美の体に負荷をかけすぎて…その…負荷に体が耐えられずもうすぐ…し、死んでしまうところだったのです…
そしたら偶然にも世界の亀裂からこちらに入ってきたので、それをいいことに身勝手な希望と償いでここに連れてきたというわけです。本当にすみません…」
神様は本当に申し訳なさそうにそう話し、頭を下げた。大量の涙をその瞳に溜めながら。なんだか私がいじめてるみたいな気分になった。
私はそんな神様を見て思った。
触ってみたい。
頭とかほっぺとか、もういろいろと…
何を考えているんだと言われそうだけど、それほどに可愛かった。優しく触れて抱きしめてあげたくなった。
もうほぼ泣いているのに、それでも綺麗なのはほんとにすごい。普通はそうはならないけど、神様はありえないほどに美形だからなせるのだろう。
まあ、顔からして謝罪は本心だという事はわかるけど、聞きたいこともいろいろある。
でも、
「もう起こってしまったことはどうしようもありません。なので頭をあげてください」
「っ…!すみませんでした。本当にありがとうございますっ」
申し訳なさそうに神様は謝り、お礼を言った。溢れそうになっていた涙がぎゅっと目を閉じたことでこぼれ、頬を伝う。それを少し隠すように神様は頭を下げた。
え、なにそれ…
めっちゃ可愛い。
そして思う。
もしかして私って変態だったり…する?
そんな自分の変態さを若干自覚したところで、思うままに行動してみた。
こぼれた涙を恥ずかしそうに隠す神様の頬に触れ、撫でるように顎に持っていき、優しく持ち上げる。すると神様は少しぴくっとしたが、されるがままに私を見た。頬は少し赤くなり、瞳は涙に濡れていた。
そんな神様に見られ私の中のSが少し起き上がった。神様も抵抗しないからそんなに嫌じゃないのだろう。
私は笑みを浮かべ、顎の下を指の腹で少し押しながら撫でるように触れ、全ての指で撫で終わると神様からゆっくり離れ何事もなかったかのように続きの質問をした。




