剣
「ソノット」
「はい」
「ちょっと寝るから何かあったら起こしてくれ」
「かしこまりました」
『っ!な、なんでっ!』
『すごく会いたいので』
『ぅ…ゃ///』
そんなやりとりをして、少しだけ眠りにつく。
「アステル」
「…」
うーん、全然こっち向いてくれないな…
「来ちゃいました」
「…」
…返事、してくれないの?
「嫌でした?」
「…」
「アステル…?」
「…」
…あれ、もっと喜んでくれるかと思ってたんだけど…勘違いだったかな?
…もしかして本当に嫌だったのか?
アステルはずっと背を向けて全然こっちを向いてくれない。しかも、しゃがんで両手で耳を覆っている。
それほど俺の声を聞きたくないってことかな…
あぁ、やっぱり迷惑だったか…帰ろう…
これは…嫌われたかもな…
…はぁ。
「すみません、急に来られてもご迷惑でしたね。戻ります。お邪魔しました。」
あぁ、やっちゃった。
強引だった、失敗した。
もう、しばらくは会えないだろうな。
自業自得だ。
「っ!あ、まっ」
目が覚める。
戻る前にアステルがなんか言ったけど、途中からは聞こえてなかった。
けど安心して欲しい。今夜からはもう会いに行かないから。俺を見たくもないかもしれないし。
最後に伝えることがあるから、指輪に魔力を通してアステルと繋ぐ。
『最後に言うことがあったので、ご迷惑かもしれませんが、失礼します。
私は、あなたが嫌ならもう何もしません。なので今夜からは会いにも行きませんし、どうしても必要になってしまったとき以外は声もかけません。本当にすみませんでした。言いたいことはこれだけです。では失礼します。』
『!まっ』
そう言ってアステルの返事も聞かずに一方的に切った。
はぁ、
何もする気が起きず、しばらくそのまま寝転がっていた。
あぁあ、嫌われちゃった…
もう会えないのかな…
嫌だって言ってたんだし、やめとけばよかった。
そんなことを悶々と考えていると、突然『眠り』に引きずり込まれる。
っ!なん!
「ラディ!ひどいです!私の話も聞かずに行くなんて!それに私がいつ嫌だなんて言ったんですか!私はそんなこと言った覚えはありません!」
目を開けた途端、アステルが涙ながらに訴えてきた。
…でもさ、
アステルは…いや、
「あなたは私の問いに対して何も返事をくれなかったではないですか。私を見ようともしなかったではないですか。それなのに、嫌じゃない?そんな訳ありません。なぜここに私を連れて来たんですか。私にはわからないので、戻ります」
「っ!待ってください!私は…私もラディに会いたかったです!でも恥ずかしくて言えなかったんです!嫌だった訳じゃありません!
…誤解させてしまうようなことをして、本当にごめんなさいっ!もう、もうしないからっ!」
アステルが戻ろうとする俺の腕を掴んで言う。
「…」
「だから…これからも私に話しかけてくださいっ…
私に会いに来てくださいっ…
…私の、私の名前をちゃんと呼んでくださいっ!」
「…」
「うぅ…ラディ、お願いです…
そんな他人行儀にしないでください…私は…私は…」
綺麗な顔を崩して、大粒の涙をボロボロ零す。
膝をついて手で隠していた顔をあげ、俺を見る。
「っふぅ…そう、だったんですか。俺はてっきり俺と会うのがもう嫌になったのかと」
「そんなことある訳ないじゃないですか!私はいつだってラディをみているんです!ずっとずっと、前から見ていたんです!ラディだって知ってるでしょう!会いたいに決まってるじゃないですか!私だって…!」
涙で濡れた瞳で言う。
あぁ、この人はなんて可愛いんだろう。
こんなにも俺を思ってくれるなんて。
「アステル」
名前を呼ぶ。
「!はい…」
「すみませんでした。俺、勝手に勘違いして、アステルを傷付けてしまいました。もう二度としません。」
「いえ!私こそ勘違いさせてしまうようなことをして、本当にすみませんでした。」
そう言ってお互いに頭を下げて謝った。
「アステル、抱きしめていいですか?俺、今すごくアステルを抱きしめたいです。抱きしめて、全身でアステルを感じたいです」
「…ぅ、はい///私もラディを抱きしめたいです…///」
「ふふっ、嬉しい、ありがとうございます。失礼しますね」
そう言ってアステルを抱きしめる。
俺の方が小さいから逆にアステルに全身が包まれるんだけどね。
あぁ…めっちゃ幸せ。
「アステル」
「はい」
「アステルに包まれて、俺は今すごい幸せです」
「…うぅ、私もすごく幸せです///」
「あぁ、可愛い。アステル。
それにすごくいい匂いする。ずっとこうしていたい。アステル、はぁ、かわいい。アステル…」
アステルを堪能しながら、包み隠さず伝える。
可愛い、可愛いすぎる、すごく可愛い。
あぁ、やばいな、これ。
持つだろうか、耐えられるだろうか。
「〜〜っ///
ラディ…恥ずかしいのであまり言わないでください…///お願いしますっ///」
赤くなった顔で、うるうるな瞳で、上目遣いに、恥ずかしそうな可愛い声で、言ってくる。
…。
…ぅぐっ!
見事に撃ち抜かれたました。
「っ!アステル、それは反則です。可愛いすぎます。もしかして煽ってますか?煽ってますよね。すごく可愛いです。
でも言わないのは無理です。全部じゃないにしても、思ったことはアステルにちゃんと伝えるって決めたので」
可愛いすぎる。
何度でも思う。
蓋をするって言ったのに…全くできてない。
溢れちゃう。
やばいな…すごく可愛い。
でも、
アステルは神で、俺はただの人間だ。立場が違う。それは忘れちゃいけない。
…これは叶わない。叶えられない。いつかはちゃんと消さなきゃいけない。
でも、今だけは…
今だけは、少しだけ、許して…
「っう…///ラディ…
ラディに言われるのは恥ずかしすぎます///
私がもちません…」
…え、もたないって何が?
ちょっと、え?
それは、やばいよ…
やばすぎるよ…
「アステル、それは煽りすぎっ…
俺だって、もうもたないかもしれないんですから。
危ないことはやめてくださいね」
「…それはラディも同じですっ」
だからさ、それダメだってばっ!
至近距離でこのやりとりはまじでやばい。
さっきからやばいしか言ってない。
でもやばいんだから仕方ない。
「…っ俺、やめてって言いましたよ?
アステルがいけないんですからね」
そう言ってアステルの顔を両手で優しく包む。
「〜〜っ///」
赤くなった顔で口をパクパクさせている。
抱き合っている状態でしてるから余計に恥ずかしいんだろうな〜
ふふっ、可愛い♡
頬を撫で、耳を揉み、片方の手を首の後ろに回し、髪を撫でる。顔を近づけ、おでこを合わせ、見つめ合う。
アステルは恥ずかしいのか、さらに顔を真っ赤にした。そして少し涙を溜めていた瞳を閉じた。
っ!
それはまずい。
危ないよ。
勘違いするよ、勘違いしちゃうよ!
…これは、して、いい…の?
いや、落ち着け!
多分これはそう言う意味じゃないから!
荒れまくる心をなんとか落ち着かせて言う。
…ふぅ〜
「アステル、目を閉じたらダメです。
勘違いしますから。わかりました?」
「…?が、頑張ります///」
だからダメだってその顔は!
っはぁ〜、めっちゃ可愛い…
アステルの額に優しく、触れるように唇を落とす。
額に触れた瞬間、アステルがピクッとした。
あぁ可愛い。
これは…ほんとにまずい…
今度は再び閉じてしまった瞼に、鼻に、頬に、耳に落としていく。
これはもう、アウトだろってほど顔中に落としまくった。
でも唇にはしなかったよ。そこは褒めて欲しい。
…思わずしちゃいそうになって危なかったけど。
俺が好き勝手している間、アステルは動かず、目を閉じたままじっとしてた。
閉じないでって言ったのに。
それに少しは嫌がらないと。
やり続けちゃうよ?
俺はそんなに耐えられる人じゃないからね。
「アステル、目を閉じちゃダメって言いましたよ?」
「っ…だって///恥ずかしっ…///」
「!その顔はダメだってばっ…」
そう言ってこれ以上しないために、アステルに顔を埋めた。
心を落ち着かせるため、一旦アステルから離れて出してあったソファに座った。でも、そのすぐ隣にアステルが座ってくる。
いや、今はちょっと離れて欲しい…
そう思って少し距離をとった。
「っ!な…なんで離れるんですか?もう…嫌になりました?」
「それは違います。俺がアステルを嫌いになることは絶対にありません。ただ、これ以上アステルに触れていると、俺がまずいことになるので。」
「…?そうなんですか?そしたら仕方ないですね。我慢します。」
こうやって深く聞いてこないところも、アステルのいいところなんだよな。
「ありがとうございます。助かります」
その後は2人でゆっくり過ごした。
「…ラディ」
「はい?」
「多分ですが、もうそろそろ戻った方がいいかと」
「もう、ですか?わかりました…」
そんなに時間がたったか。
「アステル」
名前を呼んで抱きしめる。
「っ!…///」
「また夜に会いに来ますね」
そう言って額に唇を落とす。
そして、ぎゅっと抱きしめて
「ちょっと行って来ます」
「〜〜っ///いってらっしゃい、頑張ってくださいね///」
「ありがとうございます」
…可愛い。
目が覚める。
…可愛いかったな。
そんなことを思いながら、体を起こし、木の根元に腰掛ける。
持って来ていた本を読んでいると、ソノットから声がかかる。
「ラウディエル様、お食事の準備が整いました。」
「わかった。向かおう」
そう言い、食堂に向かう。
読んでいた本はソノットに預け、後で部屋に運んでもらう。
いつものようにみんなで話しながら食べていると、父さんが話かけてくる。
「ラディ、
ご飯が終わったら、訓練所に行くぞ。動きやすい服に着替えてからきなさい。
食べてすぐに動くのはあまりよくないが、そうは言ってられない時もあるからな。慣れるためだ」
「わかりました。よろしくお願いします」
「あぁ」
「ラディ、頑張ってね!」
「ありがとう、母さん。頑張るよ」
食事を終え、着替えを済ましてから父さんと一緒に訓練所に向かう。
訓練所はいくつもあるが、俺たちが行くのはその中でも小さい方のところだ。今日は剣の扱いを学ぶだけだからね。
「ラディ、お前は初めてだから、まずはこれがいいだろう」
そう言って5歳の体にはちょうど良さそうな、短めの軽い木剣を渡してきた。
「ある程度使えるようになったら、その都度適切なものに変えていこう」
「はい、ありがとうございます」
少し振ってみる。
結構軽いから、今の俺でも十分振り回すことができる。
「ラディ、初めは剣の基本的な握り方からだ」
「はい」
まずは自分の思うように握ってみる。
「うん、いいぞ。すごいな」
そう言って頭を撫でてくれる。
お、褒められた。
スキル持ってるってすごい。
「次は構えだ。」
そう言ってお手本を見せてくれる。
それを真似てやってみる。
「うまいな。
ん、そう言えば、ラディは魔法・武術系統補助のスキルを持っていたな。頑張ればすぐ伸びるぞ」
そう言って頭を撫でてくれる。
相変わらず父さんの記憶力に驚かされる。
「ありがとうございます。スキルを持っていても驕らずに頑張ります。」
「ああ。いい心構えだな。えらいぞ。
さて、次は基本的な型だな。これを土台に応用の型を教える。基本が大事だからこれからもちゃんとやるように。ただ、実戦中は型なんて意識してられないから型に捉われすぎないようにな。」
「はい、気をつけます。ありがとうございます。」
ちゃんと褒めるところは褒めて、よく無いところは分かりやすく言ってくれる父さんがすごく好き。
頭ごなしに叱るなんてしないから、安心して間違えられる。
こういう育て方だと子供はいい方向に育つのかな?




