この世界とアステル
「あの、何とお呼びしたら良いですか?」
「お好きなように」
「では、ラウディエルとお呼びしても?」
あ?
誰が名前呼びを許可した?
しかも呼び捨だと?
お前とは今日、初めて会ったと記憶しているが?
いつそんなに親しくなったんだ?
いくらこの国の第一皇子だとしても、少々礼儀を欠きすぎてはいないか?
「…っ!
で、では、なんとお呼びすればよろしいですか…?」
おっと、顔に出てしまったか。ハハハ
まあ、『何勝手に呼び捨てにしてんだよ』っていうのを、ちょっと伝えたかっただけだから許してやろう。
ちゃんと伝わったみたいだし。
『お好きなように』とか言っておいて何言ってんだよっていう意見は聞かないし、聞こえない。
それに第一皇子にこんなことしたから、他の貴族も下手な真似はしないだろう。
会場の端にいてもこの見た目と身分だとお互い目立つからね。皇子という身分、ありがたく使わせてもらったよ。
ま、皇子なんだからわかるだろ、それぐらい。
…。
身分での偏見ハヨクナイトオモウヨ…
「いえ、従兄弟ということで名前呼びでいいですよ」
でも、呼び捨ては許可しない。
「あ、ありがとうございます。」
それにしても、皇子にしては俺に対して、気が弱すぎないか?変なところで強いけど。
俺が大公家の人間だからか?
まぁどうでもいいけど。
どうせ学園で会うかも知れないし、気が合ったらここで仲良くなっておくのもいい。
…気が合えばね。
…面倒だけど。
そういえば、イグノード殿下も誕生日会開いてたんだっけ?
まぁ、うちの人は誰一人行かなかったけど。
懇意にしていると思われたくないし、そんなホイホイ出ていかない。
なによりも面倒だし。
我が家は閉鎖的だから行かなくても何も問題はない。
というかしたくてもできないだろうな。
…ハハハ。
「あ、あの。
ラウディエル公子、入場時に見えた紋様のようなものは、愛子様の紋様だとおっしゃられていたと思うのですが、」
…もう俺は何も言わないよ。
「…ええ、そうですね。」
「今は見えてないと思うのですが…」
「あまり人目に晒したくないので」
「そ、そうですか…」
触れるなということだ。分かれ。
偶然みたならいいけど、見せろなんて言われて見せる気はない。父さんにも言われたし。
「…あの、何かお好きなことなどありますか?よく読む本とか…」
あからさまに話題変えたな。
でも、続けなかったのはいい判断だ。皇子なだけある。
「うーん、そうですね…
最近は魔法の本を呼んだり、この国の歴史書を読んだりしています」
「そうなんですね。
もう勉強をしているなんてすごいです。
難しくはないのですか?」
「いえ。面白いと思うので、難しいと思ったことはまだありません。」
「そうですか。すごいですね。
これから何か習ってみたいことなどありますか?」
「そうですね、
剣術や魔法はもちろんですが、世界の歴史や魔物の生体などに興味がありますね」
「すごいですね、みなさんあまり進んで学びたがらないのに、それを学びたいなんて。
それに魔物の生体にご興味があるなんて流石大公家のご子息です。」
なんかちょっとその言い方は嫌だな。
棘があるように聞こえるよ?
言い方は考えないと危ないからね。
「そうですかね、
まぁ、ありがとうございます」
そんな感じで皇子からの質問に答えていた。
あんまりいい情報は得られなかっただろうけど。
なんか、ちょっと面接を受けてる気分だった。
「あの、よろしければ私が開催するお茶会に招待してもよろしいですか?」
え、正直面倒くさい。
でもなー、友人を作っておくのもいいよなー
「行けるかどうかはわかりませんが、受け取ることはできます。」
「ありがとうございます、その時は断っていただいて大丈夫です」
「わかりました、ありがとうございます。
あの、事前に招待者リストをいただくことは可能ですか?」
めっちゃ失礼なこと言ってる自覚はある。
けど面倒な人とは関わりたく無いから。
「はい、大丈夫です。
では参加できる人が決まり次第、連絡させていただきます。
ラウディエル様が参加するかどうかは、それを見て判断してくださって大丈夫です。」
おお、それはありがたい。
「ありがとうございます。」
皇子と話していたらソノットがきた。
「お話中のところ失礼します。
ラウディエル様、大公閣下がお呼びです。」
ソノットが小声で言ってくる。
しっかり皇子に聞こえてますが?
小声って意味わかる?
…。
まぁ今は助かるから、そういうことにしておいてやろう。
「父上に呼ばれましたので、ここで失礼しますね。」
「はい、お話できてよかったです。」
「そうですか、それはよかったです。では失礼します」
そう言ってその場を離れる。
『俺もです』なんて言わない。
実際、一方的でそんなに楽しくはなかったから。
今はあいつが仮面をつけてるから好きじゃないけど、お茶会を機にお互いを知っていけば、もしかしたら親しくなるかもな。
ある程度人がいなくなったところで、
「…ソノット」
「…はい」
「父さんに呼ばれたというのは嘘だな」
「…申し訳ございません。そろそろお部屋に戻りたくなることかと思いまして。余計なことをいたしました。」
「いや、それに関しては助かった。
…だが、お前が簡単に父さんの名を使うな。
このような事で使われていては大公家の威信に関わる。次からは名を使わずにそうしてくれ」
「…っ!はい、申し訳ございませんでした。以後気を付けます。」
「それでいい。だが今回は助かった。ありがとう」
「あ、ありがとうございます!」
俺をあいつから離すためとはいえ、父さんや母さんの名は一使用人が簡単に口にしていいものではない。
母さんと談笑中の父さんのところに向かう。
「父上、母上、少々お時間よろしいでしょうか」
近くに人はいないけど、一応外向きの言葉で話す。
「ああ、問題ない」
「どうしたの?」
「そろそろ部屋に戻ろうと思いまして」
「そうか。いいんじゃないか」
「うん、戻って大丈夫だよ。今日は色々あって疲れたでしょう?クラウたちには僕達から言っておくから、部屋に戻ってゆっくりしてね」
そう言うと、2人は俺の頭を撫でてキスをしてくれた。
「はい、ありがとうございます。お先に失礼します」
やっぱり俺の父さんと母さんは本当に最高だ。
会場を後にして部屋へ向かう。
「ソノット。
部屋に戻ってゆっくりしたら、直ぐに風呂に入るから準備してくれ」
「畏まりました。」
風呂を終えソファで本を読む。
いつもなら魔力のトレーニングをするけど、ステータスが魔力や知力に偏りすぎているから、少しだけやってから書庫で借りてきた本を読み、知識を増やす。
世界辞典があるんだからそれを使えよって思うかもしれないが、あれは知りたいことを調べるもので、知りたいこともわからないうちは使いようがない。
だから適当に良さそうなのを借りて、幅広く知識を得る。そこから疑問に思うことを調べる。
この世界にきてまだ5年だ。
しかも未だに洗礼以外で屋敷の敷地から出たことがない。
それもあって知らないことの方が多い。
本を読んでわかったことがいくつかある。
まず、この世界には世界の中心に世界樹がある。
この世界樹は、世界樹自身が張っている結界によって護られており、神と繋がっているため、とても神聖な場所であると言われている。
世界樹の結界内には、未だ人が入れたことはなく、世界樹は世界中に見えない根を生やしていると言われている。
次に精霊についてだが、過去には見える人が多くいたが、今は見える人がほとんどいないとのことだ。
昔は見える人が多くいたので、精霊も世界各地に多くいた。そのため精霊を敬い、大切にしてきたことで、その土地は豊かだったそうだ。
しかし、最近では見える人も稀になり、扱いも酷くなってしまったことで、精霊は徐々に姿を消していった。精霊が姿を消したことで、豊かだった国が廃れ、滅びたところもある。
この出来事によって、精霊は再び神や天使の次に敬われようになり、その一言は大変大きな影響力を持つようになった。
ただ、あまりにも姿を見ないので、今では精霊は世界樹にいるという説やもう既に消滅してしまったという説など、様々な説が飛び交っている。
そして、この世界は各国・教会・ギルドで成り立っている。
国は全部で10カ国。そのうち人族が5カ国、獣人族は2カ国、人魚族が1カ国、魔族が2カ国ある。
どの国でも奴隷制度が根付いているが、基本的には犯罪者や借金を返せなくなった人が落ちるもので、自分で自分を買うこともできる。
また、父さんと母さんがそうなように、恋愛・結婚に性別は関係しない。そのため同性でも子を成すことは可能である。
その方法は、2人の血液を教会が提供している植木鉢にたらし、2人の魔力を注ぐことにより、生えた植物が卵をつけることで子を成している。だが、必ず卵をつけるわけじゃないし、性別だって生まれるまでわからない。
教会でもらえる植木鉢には、卵の元となる種が入っている。
この種は世界樹からもらうことができ、今では聖獣が土と一緒に種をもらってきて、教会の大元に届けている。それを世界各地の教会に届け、子が欲しい人は自分のところの協会でそれをもらう。もちろん、無料だ。
卵はそれぞれ柄や紋様が異なり、決して同じものはできない。卵には一日3回は魔力を必ず両親で同じ量ずつ注ぐ必要がある。
注いだ魔力な少なすぎるとより生まれにくくなる、もしくは虚弱体質で生まれる。虚弱な子供は魔力の波長が合う人に、定期的に魔力を流し入れてもらうことで、少しずつ改善する。
両親で魔力を同じ量注ぐため、生まれる前は家族愛のない家庭の方が少ないが、産まれてからは放置されることや、捨てられることはある。
注ぐ魔力の純度や密度により、より強い子供(固有スキルを保持していたり、魔力が高かったり、ステータスに影響が出る)が生まれる。
植物に卵がついた時は、10cm程度の大きさだが、魔力を与えることで成長し、生まれる頃には30〜40cmほどの大きさになる。
なんかもう何を言っていいのか…
世界樹と卵と聖獣と精霊と…
というか、俺たちって卵で産まれてたんだ。
言われてみれば、この世界にきた時なんか変な音してたな。『パキパキッ』って…そういうことね。
とりあえず、俺も世界樹に行ってみたい。
冒険者になって活動できるようになったら、たとえ入れなくても絶対に見に行く。
読んでいた手を止めて、ベッドに入る。
…ちょっともう寝るわ。なんか疲れた。
翌朝
「ラディ、お前も5歳になった。
だから家庭教師を呼んで様々なことを学んでもらおうと思ってる。もちろん、座学だけでなく実践的なものもだ。
剣術はクラウ達と同様に俺が教える。
始めるのは5歳のうちならいつからでもいいが、ラディはいつからがいい?」
父さんが朝食中に聞いてくる。
「先生方が来られるまでの期間にもよるけど、できるだけ早めに始めたいかな。
剣術は父さんが教えてくれるなら、今日か明日くらいには始めたいな。もちろん、父さんが大丈夫ならだけど。」
始めるのは早いほどいい。
子供だから吸収が早いだろうし。
何よりも知識や経験が欲しい。
「ふむ。わかった。
剣術は今日の午後から始めよう。」
「ありがとうございます。」
「ああ。教師はすでに手配してあるから、遅くても3日以内には到着するだろう。」
おお、早いね。
「早いですね、ありがとうございます。」
その後は普通の会話に戻り、食事を進める。
朝食を食べ終え、屋敷から少しだけ離れたところにある小山に向かう。
小山はふわふわな芝が生えていて、頂上には太い大きな木が一本生えている。
ランニングしてる時に見つけて、絶対にここにくるって決めてた。
ずっと来たかったから来れてよかった♪
木葉で影になったところに寝そべり、くつろぐ。
たまにはゆっくりする時間があってもいいよな。
昼食までの時間は少しだけゆっくりする。
手をかざし、指輪を見る。
『アステル』
魔力を通して呼びかける。
『はい、どうしました?』
『いえ。特に用はないんですけど、声が聞きたいなって思って。
忙しかったですか?』
『い、いえ。特に忙しくはないので大丈夫です。
それと…私もラディの声を聞きたかったので嬉しいです///』
『あれ、俺のことを見てる時って声聞こえないんですか?』
『聞こえるんですが、ラディはあまり話さないので…
あと、私と会話している訳じゃないので、その…寂しいというか…』
『ほぅ…可愛いこと言いますね。
…俺ってそんなに話さないですかね』
『…///えっと、1人でいる時もあまり声に出してないですよ』
そうだったか。
言われてみれば結構心の中で考えてた気がする。
『言われてみればそうだったかもしれないです。
でも、アステルも俺の声を聞きたいって思ってもらえてて嬉しいです。』
『うぁ…っはい///』
やばい、かわいすぎる。
声だけなのに。
あぁ、会いたい。
今すぐ会って抱きしめたい。
アステルの香りに包まれたい。
『アステル』
『はい』
『会いたいです、とっても』
アステルが好きそうな、いい声を意識して言ってみる。
『〜〜〜っ、はぅ…///
ラディは、ずるいです!』
うん、かわいい♡
『ん?何がです?何がずるいんですか?』
『もう!いじわるしないでください!
…私だって』
『ふふっ、
私だって何ですか?聞きたいな』
『言いませんよっ!』
あら、怒った。
可愛い♪
特にやることもないからちょっと会いに行っちゃお。




