完了、そして…
え、そんな危険なスキルを私にほいっとつけて大丈夫ですか?…なんでそこまで。でも、きっと使うのでありがたくいただきたいところ。何から何までほんと、感謝しかない。ただ、念の為ちゃんとアステルに確認しておいたほうがいい。
「…ふむふむ。わかりました、それでお願いします。
世界辞典は誰にも見せないので隠蔽お願いします。ただ、そんなに危険なスキルを私につけて大丈夫ですか?絶対にバレないようにはしますけど、あれだったら全然なくて大丈夫ですよ。ただ、私から欲しいと言っておいてなんですが……理由が、知りたいです。なんで私につけようと思ったのか」
なくて大丈夫なんて嘘。ほしいです。とても。
でもアステルが危ないって言うレベルの世界の情報が載ってるスキルはちょっと私には荷が重い気もする。だからこそアステルがどういう思いで私につけることにしたのかはちゃんと聞くべきだろう。もし私が言ったから仕方なくとかだったら辞退しよう。
「っ、情報は全ての要です。持っていて損はないです。それに鑑定ではわからないこと、もう少し広く知りたい時かなり使えます。それだけなら世界辞典じゃなくてもできますが…何か、あるんですよね?
…だから付けたんです。優美だから。優美なら安心してつけられるから。それじゃ、ダメ…ですか?」
アステルは困ったような悲しそうな顔をしてそう言った。
アステルには隠せないか…
私がわざわざ世界辞典にしたのには理由がある。くだらない理由でもあるから今は言わないけど。それをアステルは察してたんだ。
私はアステルに言わなかったことを少し後悔した。欲しいと言ったのは私なのに責めるように理由を聞いてアステルを傷つけた。
「っ、ごめんなさい」
アステルの話を聞いて私は素直に謝った。
「私から欲しいって言ったのに責めるような聞き方をして、本当にすみません。確かに情報は全ての要ですね。アステルがそこまで言ってくれるなら私はありがたく受け取ります」
アステルがここまで私を信用してくれている。なんでそこまで私を信じてくれるのかはわからないけど、これで貰わない方がもっとアステルを傷つけることになる。
「いえ、優美が疑問に思うのもわかります。すみません。ありがとうございます」
謝罪もお礼も私の方が言うべきなのにアステルは申し訳なさそうに謝り、ほっとしたようにお礼を言った。そんなアステルを見て心が痛んだ。私はなんてことをしてしまったんだと。こんなに心の綺麗な、優しい人を傷つけたなんて。私は知ってたのに…アステルが私のことをちゃんと考えてくれてるって。知ってたのにっ。
私はアステルの手を取り、両手で包んで言った。
「アステル、本当にごめんなさい。私から言ったのに。アステルが私のことをちゃんと考えて言ってくれてるって知ってたのに…」
少し声が震えてしまった。
本当は抱きしめたかったけど、多分私はまだそこまで許されていない。だから、できない。
「優美、それでいいんです。私たちはまだ会ったばかりです。だから、なんでって思うのは当然です。そんな辛そうな顔をしないでください。ね?」
アステルは優しく私の名前を呼び、そう言ってくれた。
「っ、ありがとうございます」
「いいえ。ではスキルの設定に戻りましょうか」
アステルは私に気を遣って明るくそう言ってくれた。
「はい、お願いします」
私がそう言うとアステルは笑顔で頷いた。
「スキルのレベルはどうしますか?状態異常無効に関しては耐性ではなく無効のスキルなのでレベルはありません。参考までにですが、現在の最高レベルはVIIです」
「そうですね…
暗視II、テイムIII、体力・魔力消費量軽減IV、魔法・物理攻撃耐性V 、魔法・武術系統補助IIIでどうですか?」
「うん、大丈夫です。では付与を開始しますね」
アステルはそう言うと私に手をかざした。
その瞬間ぽわっと体が温かくなり、何かが体に馴染む感覚がした。これがスキルの付与なんだろう。
「スキルの付与ができましたので、お見せしますね」
「ありがとうございます」
これでようやく私の初期ステータスが完成した。
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ステータス
名前 − 年齢 − 性別 男
種族 人間族
職業 アトランテ帝国グレルイド大公家三男
体力 A 24,000
魔力 A 28,000
筋力 B 9,600
俊敏 B 9,800
知力 B 9,700
【状態】
無
【魔法適性】
火A、水A、風A、土B、光B、闇A、無
【スキル】
鑑定EX、魔眼EX、収納EX、暗視II、テイムIII、体力・魔力消費量軽減IV、魔法・物理攻撃耐性V 、魔法・武術系統補助III、状態異常無効
【固有スキル】
成長限界突破、成長促進、超回復、世界言語、(世界辞典)
【称号】
−−
【加護】
・神の愛子
・神の寵愛を受けし者
・神が全てを捧げる者
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「おお〜!いいですね!ありがとうございます!」
いや〜!長かった!
「お疲れ様でした。ステータスの設定は以上です。少し休憩にしましょう」
うん、そうだな。
結構頭使ったから、休憩にしようかな。
「そうですね、少し頭を休めたいです。休憩の間に気になったこととか聞いて大丈夫ですか?」
「わかりました、大丈夫ですよ。いつでも聞いてください。何か飲みたいものや食べたいものはありますか?」
「ありがとうございます。うーん、緑茶が飲みたいです。食べ物は、今は大丈夫です。ありがとうございます」
「わかりました」
そう言いながらアステルは机と緑茶を出した。
ちゃんと急須からだったよ。
「ありがとうございます」
私はアステルが出してくれた緑茶を手に取り、口に含む。熱くもなく冷たくもないちょうどいい温度でとても飲みやすかった。喉越しはすごく滑らかでスルスル入ってきた。
「美味しい」
「!よかったです」
私がそう言うとアステルはすごく嬉しそうな顔をした。もしかして、魔法で作ったんじゃなくてアステルが自分で淹れたのかな?
それから数十分くらいソファにもたれかかってゆっくりした。ずっと座ってはいたんだけど背筋よくしてたから。2人とも話さないで無言の時間が続いたりもしけど全く気まずくなかった。むしろ心地よかった。
ふわふわとリラックスしていると、アステルが何かを思い出したように私に顔を向けた。
「?」
「あの優美、さっき質問があるとおっしゃってましたが、」
あぁ、そう言えばそんなこと言ったな。
アステルといるのが心地よくてすっかり忘れていた。
「あ、そうですね、結構あるんですけど大丈夫ですか?」
「もちろんです」
快く承諾してくれたアステルにお礼を言ってから、私が生まれる上で1番と言っていいほど重要な問題について質問した。
「私が生まれるのはグレルイド大公家の三男なんですよね。私が生まれるせいで元々生まれるはずだった三男を私が乗っ取ったってことになりますか?もしそうならだいぶ悲しいのですが…」
「あ、それは大丈夫です。本来は次男までなんです。でも大公家ではもう一人欲しかったようですので、私が手伝って優美が生まれるようにしたんです。なので、心配はいりません」
本来生まれる三男を私が奪ったのかと思って心配したけど、アステルの言葉を聞いてほっとした。
「あ、そうなんですね。よかったです♪
あの、私が読んでた小説とかでは、適性のある魔法属性によって髪の色や瞳の色が決まっていたのですが、セルディナでもそうですか?」
私が読んだ小説の中には火に適性があれば赤色に、水なら青のようにそれぞれの色に髪が染まる物があった。魔力量によって髪色が変わることもあった。多ければ多いほど黒に近く、少なければ薄くなっていく。ただ、この世界では努力次第で魔力量を増やせるからその量に応じて髪色が決まるなんてことはないだろう。もしそうであれば会う度に髪色が変わって初めて会う人は覚えるのが大変だ。
「いえ、属性によって見える部分の身体的特徴はありません。ただ、火に適性がある人の場合は熱さに強くなったりします。
髪色は基本的には両親の色を受け継ぐことが多いですが、稀にどちらにも似つかない色の子が生まれることはあります」
どのくらいの割合でいるかにもよるが、どちらにも似つかなかった場合自分の子供として扱われない可能性がある。そこは少し気心配だ。が、アステルのことだからそんなところに私を選んだりしないだろう。
「ほぅ、ありがとうございます。あと、ステータスの体力などの説明で『測れなくなったら、私のみXと表示される』って言ってましたが、どうしてですか?」
鑑定とかのEXと同じようにアステルの好意とか配慮だと思うけど、とりあえず気になったから聞いてみた。
「元々測れなくなった場合には、unknownと表示される予定だったのですが、それではステータスをみた時に寂しいかなって思ったので、そう表示されるようにしてみました」
なんとなくわかってたけど、本当に私への配慮だったとは。
「気遣ってくれてありがとうございます。すごく嬉しいです」
「いえ、喜んでくれて私も嬉しいです。作ってよかった」ニコッ
うん、いい笑顔。
「次の質問なんですけど、私以外に転生者っていますか?」
これはちょっと聞くの嫌な気もするけど気になるので聞きました…嫌だけど。さっきのアステルの発言でそれに近い人はいるだろうと思ったけど、確証はないから。だいぶ嫌だけど知っておきたい。
「過去に4人いましたが、現在はいません」
「あ、そうなんですね。わかりました、ありがとうございます。あの、私ダンジョンにすごく潜ってみたいんですが、セルディナにダンジョンはありますか?」
思った通り転生者がいたと知り、私は少し…ちょっと胸がモヤッとした。
自分から聞いたくせにあまり長く聞きたくなくて早々に次の質問をした。
「もちろんありますよ!結構な数がありますので、充分楽しんでいただけるかと思います。ただ危険なところもあるので、潜る時は気をつけてくださいね」
お!あるのね!よかった〜
なかったらショボくれてたわ。
「よかったです!心配してくれてありがとうございます。気をつけますね!
あ、あと結構前から思ってたんですが、ステータスの状態が『無』なのはなんでですか?」
「優美は現在、私が与えた姿をしていますが、この空間は精神世界です。優美はまだ生まれていないので肉体を持ちません。そのため、状態が無になっています」
「…そうなんですね、ありがとうございます。あとの2つはこの空間に来た時から思ってたことなんですが、神様って相手の心が読めると思うんですが、アステルは私の心を読んだりしないんですか?」
多分だけどアステルはわざと私の心を読んでいない。
「…よ、読むことは、できます。でも、優美に失礼かと思って読んでません」
やっぱり。思った通りアステルは私の心を読んでいなかった。でも、今まで散々私をみてたのに、ここで?とも思う。ちょっと気遣うところ変な気がする。
いや、そこがまた可愛いからいいんだけどね。
でもむしろ、読まないでくれてありがとうね。
内心結構暴れてたし。
読まれてたら終わってた。
「気遣ってくれたんですね、ありがとうございます。読まないでくれて助かりました」
「え?」
私の言葉にアステルはちょっと疑問に思ったようでどういうこと?という顔で私を見た。でも、これは深く聞かれると困るのでさらっと流して次に行く。
「いえ…最後なんですけど、最初に私の前に現れるまで結構な時間かかってたと思うんですけど、何かあったんですか?」
この質問はかなり失礼かもしれないが、気になるのだからしょうがない。いつも通り過ごしてただけなのに急に変なところにいるし、私以外誰もいないしで、だいぶテンパったんだ。だからもう少し早めに来てほしかったと思いもする。
「っあ、それは…その…心の準備をしていたんです…」
アステルは私の質問に少し恥ずかしそうに答えた。
…え、
何それ、可愛いかよ…
うん…すごく可愛い。
「優美にやっと会えるっていう期待での緊張と、私の所為で寿命をだいぶ縮めてしまったことへの申し訳なさですぐに姿を見せることができなかったんです…」
っ、へぇ、…てことはあの『っし』って、そういうことだったんだ。
ずっと見るだけだった私にやっと会えると緊張して、それでもアステルが勇気を振り絞ってあの凛とした振る舞いをしていたと考えると、なんと言うかすごく胸がゾクゾクした。
あぁ、アステル。
あなた最高に可愛い♡
「ふふふっ、そうだったんですね。やっぱり、アステルはすごく可愛いですね」
私は完全に惚けた顔で、声でそう言った。
私の心を読んでいないなら、ちゃんと言葉にして伝えてみよう。
「…っっっ!か、かわ!っ…うぅ//// …あ、ありがとうございます////」
アステルは急な私の言葉に驚き下を向いていた顔を私に向け、瞳を見たまま噛み締めるように自分でも口にした。瞳は徐々に潤み、顔も赤みをましていく。アステルは途中で耐えられなくなったのか顔を両手で隠し、恥ずかしそうに小さい声でお礼を言った。
っぅ…!
やっぱり、ちゃんと伝えたら気を失いそうなほど可愛いお顔を拝めるけど…その分私が死にそうになる…
自分で仕掛けておいて自分がぶち抜かれるとは…
まったく…私は、何も学ばないな。ま、これに関しては一切学ぶ気がないだけなんだけどね。
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それからは2人でまったりした時間をたっぷり過ごした。他愛無い話をしたり、一緒にカードゲームで遊んだりもしてすごく楽しかった。
ソファで2人寄り添って寝たりもした。すごく心地よかったし、久しぶりにぐっすり寝むれた。
そうしてソファでまったりしていると、不意にアステルが体を起こした。