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第5話 幹線

 木に直撃したレオパルドは気を失ってしまったようだ。

 ――え!? 何が起こった?

 とっさに握りこぶしにして力んでみたサブは、背後で横たわるレオパルドを見て何事が起きたのか理解するのに時間がかかった。


「おいおい、……何て力だ!」

 カナルは驚き叫び、森賊に戦慄が走る。あまりの衝撃にカナルを握りつぶそうとしていた森賊はカナルを離した。カナルは急いでサブの肩の上に乗ってきた。


「貴様……いや、あんたすげーよ! さっき俺が剣で切ろうとしたときに使ったように魔力が使えるようだな」

 確かにサブは体内から何か出てきたような感覚があった。カナルに切られかけた時も、思わず力んで強靭な皮膚を何かで纏ったようなイメージが残っていた。


 しかし、これは技ではない。本能的に動いたというべきか。サブにとって、そんな感覚であった。

 肩に飛び乗ったカナルは叫んだ。

「再び手を出すようなら、今度はお前たちだ!」

 森賊に追い打ちをかけようと、意気込んでいる。

 ――俺そんな戦う気ないけど……


 しかし、カナルの作戦通り、森賊たちは震えあがり一目散に逃げていった。気を失ったレオパルドを置いて。

 サブはリーダー格を吹っ飛ばしてしまい、周りのユキヒョウたちも去ってしまったが、内心はびびりまくっていた。

「転生したらこんな力も手に入るの!? これってばスーパーヒーローじゃん」


「本当スーパーヒーローだよ。ありがとうな、あれ、名前何だっけか?」

「サブ」

「そうだ、サブだ。渋い名前だな。改めて礼を言う。先程は無礼な発言失礼した。俺はカナル。急ぎ、サブを救わなければならなかった。ここはじきに夜になる。さすがに武器もなく生身でいるのは危険だ。俺のテリトリーへ逃げるぞ」


 カナルが態度を一変したのに驚いたが、一安心する暇もなく再び草むらの円形蓋を開けようと何かを唱えた。


 よく見るとこの蓋、人間の世界にあったマンホールと一緒だ。鉄でできているようで、常人では開けられないだろう。

 この世界は人間の技術も取り入れているのだろうか。重そうな鉄蓋はゆっくりと宙に浮いて、見事に開いた。

 ドスンと鉄蓋が草むらに落ちる。


 さぁ、行くぞ。カナルがそう言って中に入っていった。ちゃんと足掛があり、降りられるようになっている。


 だが、中は真っ暗で、先が見えない。本当にここを降りるのだろうかと、サブは不安であった。

 それに先程のレオパルドは今も天を仰ぎ、気を失っている。

「カナル! ちょっと待って! あいつはどうするの? レオタルト」

「おいしい名前だな。奴はレオパルド。この辺じゃ有名なユキヒョウさ。一度決めたことは、目標を達成するまで諦めない。あの目を見ただろう。彼らは容赦ない。頭も見捨てるぐらいの連中さ、放っておこう」


 それよりもユキヒョウに大やけどを負わせた何かがやってくるかもしれない。夜道の森はより一層危険だ。あとで詳しく話すから、とにかくここを離れようとカナルは言った。


 ――しかし、人間嫌いなんて何か嫌だな。俺は人間なくして生活できなかったからな。この展開、早速ユキヒョウから追われる身じゃないか。

 サブの転生は波乱の幕開けと言えよう。


 カナルの指示に従い、最深部まで続く足掛を降りていく。

 何か臭い。犬だったから獣臭に慣れていたが、これは違う臭さであった。上の方では鉄蓋が閉じる音が聞こえた。自動で閉まったようだ。

 果てしない闇の中に再び戻ったが、一人ではない。今度はカナルが一緒にいる。


 ――どれぐらい降りただろうか。深さにして30メートルは越えただろうか。それにしても、ここにきて話す言葉や頭の中にある知識がどうも犬の頃にないものばかりだ。


 サブは自分が犬の頃に身に付けた知識以外の知識を持っていることに気付き始めていた。

 ひょっとすると体を自由に動かせることを知っているのと一緒で、人間の知識もある程度持っているのかもしれない。

 言語は自然と脳内変換しているのか。ネズミや森賊と会話ができていたのもそのためか。この世界に言語はないのか、と疑問は続く。


 暫くして、次第に音が聞こえるようになってきた。ごおぉぉぉぉーーと、滝のような音だ。一体カナルはどこを目指しているのか。

 そう考えているうちに、下の方からカナルが何かを唱える声が聞こえた。

「リット!」


 唱えた瞬間、カナルのいる位置から直線的に伸びる、光の道しるべができた。よく見ると豆電球みたいな光の粒だ。最深部がようやく見えた。


 川だ。いや、川にしてはさっきから感じていたが、とにかく臭い。

 これは硫化水素の臭いである。

 犬の頃の嗅覚は多少残っているようで、臭いの嗅ぎ分けはできるようだ。それに人間の知識が相まって、大方理解が進む。


 これは所謂下水道である。幹線とは大型の下水道のことであった。マンホールから降りた時に感じた臭いは人間世界と一緒で大型の下水道に通じているからであった。

 カナルはここを通り抜けていくようである。


「サブ! 気を付けろよ! 落ちたら深さ2、3メートルはあるし、流れもそこそこあるから足を滑らせたら終わりだ。糞まみれで死ぬなよ!」

 カナルはゲラゲラと笑ってサブを驚かせた。象の糞には気を付けろ! たまに固いのがあって、でかいからあまり水に分離しないから! 足場だと思って乗った暁には死亡だ。


 ――老衰して死んだ当日、今度は下水で死ぬなんて、表現することが困難な次元だ。

 カナルの付けた光は最深部から左右に続く一方のトンネルを照らし、果てしなく直線的に続いていた。上流に向けて進もうとしているらしい。


 下水道はきれいな長方形に加工されていて、何かに覆われているわけでもなく、土がしっかりと固まっているような感じだ。

 カナルが言うには、これは地中に伸びる結びの木の魔力で支えられているそうだ。木とか、魔力とかまた難しい話についていけず、サブはあとでまとめて聞くことにした。


 トンネルの高さは家一軒分ぐらいあって、なかなかでかい。よくもまぁ掘ったものだ。水面から3、4メートル上に通路が用意されていた。

 人が一人歩ける幅がある。これも土でできているが、足元は固くて歩きやすい。ただ、柵がないので転落する恐れもある。


 カナルは身が小さい分、転落することはないだろう。先導されて5分程走ると、通路が拓けて大広間に出た。

 おお、何だここは! 家が5、6軒程建ち並びそうな広さだ。驚くのは広さだけではなく、木造の建物まである。隣には倉庫のような置き場が見える。


「ここが俺の家さ」

 家の前には階段があり、高床式になっている。恐らく下水の量が増したときに流されないようにするためだ。

 サブでも入れるようなドアの高さになっている。カナルは感心してないで中へ入れと、招き入れた。

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