第21話 クラウスの復活
後ろに立っているのは、どう見ても人型のナマケモノだった。
サブと身長は同じぐらいで、緑色のローブを纏い、目の周りの黒い斑点がパンダのような垂れ目を思わせる。
細長い手足があり、右手に樫の木で造られた腕の長さはある杖を握っている。
「サブ、待ちくたびれたわ! ありがとな!」
「え、誰!?」
サブは威勢良く、馴れ馴れしいこのナマケモノを知らない。
「匂いが一緒だぞ」
カナルが後ろから左肩に飛び乗ろうとした。しかし、左耳にあった真珠の輝きに圧されて、右肩へと飛び移った。
サブは人間になり嗅覚が衰え始めていた。むしろ、ほぼ人間になったと言ってよかった。
「いや~300年も若返ったから、元気爆発~? な感じ!」
「300年? もしかして、さっきのナマケモノ爺さん!?」
「誰が爺さんだこら! ナマケモノ兄さんだろ。兄さん!」
――カナルの元気の良さを凌ぐ、うるさいお兄さんだ。
「誰がうるさいお兄さんだ? サブ、お前は一から叩き直してやるからな!」
「何がどうなってるんだよ!」
カナルが肩から叫ぶ。
「サブが復活させてくれたんだよ。俺をな」
――俺が? さっきの光で?
「俺はな。その真珠のピアスに魔法を込めていた。かつてこの牢屋に入れられた際に、【このピアスを与えたら魔力を復活させよ】と念じ、当時の魔力をそのまま封印しておいた」
まさに現役バリバリの魔法使いに戻ったと、大はしゃぎをするナマケモノ兄さん。
「その真珠はかつてお前が付けていたものだよ。サブ。お前がな」
――かつて? どういうことだ?
「俺のことは覚えていないか? クラウスだ。クラウス」
「し、知らないです」
「……クラウス……え、あのクラウス……?」
カナルが何かに気付いたのか、サブの耳元で囁く。
監獄内でも光の先にクラウスがいるぞ! と声が上がり始めた。
随分と騒ぎになっている。
サブの全身から漲る緑色の魔力にクラウスの姿かたちがはっきりと見えていた。
すると、クラウスが突然身構えた。
「お前ら、下がれ!」
何かを察したのか、サブとカナルを後ろにし、クラウスが牢獄の入り口に向かって杖を向けて臨戦態勢を取った。
ヒューーーーン!!
突如目の前に監獄長ヘルデライアと、もう一人白い重装備をした人型のトラが現れた。
カナルは呆気にとられた。
「グレイ騎士団長!」
カナルが頭を下げる。
「ん? お、おうカナル!? 何をしているこんなところで!」
「何をなんて、捕まったのであります!」
騎士団同士のやり取りを余所に、クラウスは身構えた杖を離さない。
「……おい、こいつはまさか……」
監獄長ヘルデライアがグレイに囁く。
「ええ、まさかのまさかです。クラウス殿! ご復活なされたのですね!」
「騎士団のものか! 今もあるんだな! 俺をクラウスと分かるものは数少ないはずだが!」
そう言うと、右手で構えていた杖を下ろした。
「現騎士団で団長をしていますグレイと申します。歴史であなたの功績は学ばせていただきました。ナマケモノで凄まじい魔力をお持ちと伺っていたので、今しがた監獄上空まで発生したオーラを見て駆け付けた次第です」
実はサブが先程放った緑色の魔力の光彩は、監獄の外部まで突き抜けていて、上空を照らしていたようだ。
騎士団のメンバーがそれを発見し、団長であるグレイに連絡をして、すぐに赴いた。クラウスの復活は騎士団の重要任務の一つであり、いつかの復活に備え、常に準備をしていた。
「グレイ君。さっきの魔力と言ったが、俺の色じゃないだろう。確かに復活はしたが、光の元にいたのはこの子だよ」
クラウスは後ろのサブを前に連れ出した。
「え? 人間ですが?」
グレイは驚きを隠せない。隣にいるヘルデライアも、まさかという顔をしている。
グレイはじっくりとサブの顔を見た。
「この人間が?」
トラの顔が近づくにつれて心臓が高鳴る。見るからに恐ろしい顔つきである。
「真珠の色を見てみぃ」
クラウスが言う。
「な、なんと……犬の転生者!!!」
「いかにも」
驚くグレイに対し、冷静な表情で見つめるヘルデライア。
「まだ真珠の使い方を知らないから、俺の魔力で抑え込ませてもらったんだ」
「そうでしたか。大変失礼いたしました!」
グレイが人間のサブに深く頭を下げた。
――ええー-、騎士団長でしょ! 頭下げられるぐらいな存在なの俺は?
「グレイ騎士団長、彼はサブと言います。私の魔宙剣を打ち砕き、レオパルドを倒し、そして今我々が探していた灰色真珠を緑色に輝かせたのであります。これ即ち、犬の転生者で間違いございません!」
カナルはグレイとの連絡以降、証明する何かを探していた。それが今目の前で証拠として共有できたことに確信を持ち話すことができた。
「うむ。確かにな。クラウス様も言うように、エメラルドグリーンに輝くその真珠は間違いなく犬の転生者だ」
グレイもさすがに信じざるを得なかった。しかし、一人空気の読めない者がいた。
「犬の転生者だったとしても、罪を犯したことに変わりはない。クラウスだ、犬の転生者だ? 結びの木を傷付けたことは重罪である!!」
ヘルデライアは罪には厳しい。断じて許さない男だ。
「ヘルデライア殿! 結びの木を傷付けたとしても、サブの魔力ならすぐに元通りにできるはずだ! それを知っていて、逮捕するというのなら良心に欠けるな!」
クラウスはサブを無罪放免にしてほしかった。
「良心など、存在しない。それにその口の利き方、お前も逮捕されたいのか?」
クラウスに対しても高圧的な態度は変わらない。
「融通が利かないな~。緑色の真珠を見ただけで、事の重大さがわかってないね君は! 監獄長も廃れたもんだ! 国王の命令で、無罪放免OK。そうだろグレイ君?」
ヘルデライアが魔法を唱える構えを見せる。
「お二方、落ち着いてください! この監獄では魔法は使えないはずです! それに国王様はクラウス様の仰るように、犬の転生者を探しております。特にその緑色の真珠は"あのお方"の物ですし、裁かれることはないでしょう!」
「ふん、裁きを決めるのはこの俺だ」
「いつから監獄長はそんなに偉くなったのかね!」
クラウスはそう叫ぶと、グレイに呪文を唱えた。
「操り人形!」
グレイはクラウスの言いなりになった。
「無罪放免で万事OKです」
「ではグレイよ。国王様へ、例の者が現れたので少し旅に出ると伝えてくれ。あと騎士団のカナルも連れて行くからね!」
「はい……」
「解!」
グレイの言いなりが解けた。
「ちょっと待ってください! 言わせるなんてずるいですよ!」
グレイが弄ばれているのを、にやけながら見つめるカナル。
――俺も旅に連れて行ってくれるのか、やったぜ!
クラウスの実力では、監獄で魔法が使えないことは問題ではなかった。その効力を無力化する力を持っている。
なぜなら、監獄に魔法が使えないようにしたのはクラウスだったからである。
「お茶の子さいさい」
と言うと、詠唱時間もないままテレポートでサブとカナルを連れて飛んで行ってしまった。
残ったグレイはすぐさま、国王様の元へ。
ヘルデライアはクラウスに対する怒りで、周囲で笑う囚人にその鬱憤を晴らしていった。死刑に値しない罪にも関わらず。




