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第18話 裏向きの顔

 それからレオパルドは自らの力で立ち上がり、里へ帰ると言い人孔を登り始めた。

 森の鉄蓋から出ると、雨上がりで太陽が眩しかった。


 レオパルドは別れ際にこんなことを言った。

「いつか結びの国を再び建国する日が来れば、我らは必ず力を貸す。サブ、死ぬなよ」

「一度死んでる身、早々に死なないように頑張るよ」

「ふっ、強かったぞ」

 鼻で笑い飛ばすと、その場を後にする。


「おーい! 元気でな!」

 カナルが自分には声掛けしないので、少しムッとして叫ぶ。

「お前さんは下水に落ちようが、俺に潰されようが、絶対に死なないよ」

「説得力ねぇ~!」

 カナルはユキヒョウの真実を知りレオパルドと言う男を見直した。


「行っちゃったね」

「ああ、あいつ強かったな」

 カナルは重たい腰を下ろした。サブも隣に安座で座る。草むらがふかふかで丁度良い。

「それにしても黒のフードの者とは何なんだろ? 黒の国の黒魔術がどうのってよくわからなかった」

 サブは戦いの後だが、潜在的な魔力により体力回復も早いようだ。呼吸は整い、今しがたまで戦っていたとは思えない。


「黒魔術は禁術なんだ。本来転生者は何かのきっかけでここに自然に転生をしてくる。サブのようにね」

「ふむふむ」

「しかし、黒魔術はこちらの住人を生贄に捧ぐことで別世界の人間ないし、生物を転生させることができるんだ」

「そんな恐ろしい術があるのか。それを黒の国の人が使っていると?」

「そう踏んでいる。俺は白の国騎士団の裏の情報屋なんだ」


 白の国騎士団とは国を守る言わば軍であり、外部からの侵攻を食い止めるのは勿論、国内の治安を維持するための組織だ。

 この騎士団員にはそれぞれ固有の部隊があり、カナルは部隊には属さず、下水道を介して情報収集を行う大事な存在だったのである。


「俺は戦闘には直接関与しない。あくまで騎士団で見切れない部分のケアをしている。これが裏向きの顔って訳さ」

「それで、情報が入って来るんだね」

「まぁ、そういうことだ」

 ――裏向きの顔はやはり国の大事な部分を担っていたんだ。通りで物知りなはずだ。


「でもさ、カナルだけじゃなくネズミなんてたくさんいるんじゃないの? 敢えてカナルだけがこの組織に着く理由があったのかな?」

「いいとこつくね。そりゃいるさ。獣型がね」

 ――それはどういうことだ? カナルは人型。他は獣型。ああ、突然変異……あれ、でも……

「ファントムは突然変異とは言ってなかった。どういうこと?」


「サブ、君を信頼するからよく聞け」

 カナルは自分の生まれから現在に至る経緯を話し始めた。


 生まれた時は獣型だったカナルは、普通のネズミであった。ある時、ある種族で突然変異が見つかり、獣型が人型になったという。

 この突然変異を意図的に行えないか、世界の科学が進歩をしていくにつれて、結びの木の魔力を利用した魔法科学が進展してきた。

 そこで利用されたのがネズミであった。

 魔力の培養でできた液体を次々とネズミに注入していったが、唯一効果があったのはカナルだけだった。


「今でも覚えている。注射針で液体を流し込まれた時のことを……体中が熱くなるんだ。そして、体内構造と外見が変化していくのに、凄まじい激痛が走った」

 サブは聞いているだけで、自分の臓器も痛くなるのを感じた。

「この激痛は2週間続いた。2週間だぞ? 生きる苦渋を与えられたかと、俺は本当に辛い思いをした」

 カナルは今でも痛そうな顔をして、打たれた左腕を見せた。針を刺したところがほくろのように、黒ずんでいる。


 ようやく痛みが治まってきた頃、実験の成功例として国内で秘密裏に動き始めた。カナルの遺伝子を使い、科学者たちはクローンや遺伝子組み換えに力を入れていった。

 出来上がった個体は100体を越えた。

「俺と同じのが100体もだぞ? 短パン小僧が100体だぞ? 信じられるか?」

 確かに短パン小僧のネズミが100体も並べば、それはそれで恐ろしい。

 スーパー戦隊大集合よりもインパクトがある。


 これらを何に使うかは明確だった。黒の国、国王の暗殺計画。

 当初、建物の隙間や下水道から排水設備関係に忍び込む予定であった。ネズミなら音を立てずに狭いところを器用に出入りをすることができる。敵の警戒網もうまく交わして。

 しかし、残念ながら欠点があった。


 それは個々に意思を持たないため、機械的にしか動けず、臨機応変な対応ができなかったのだ。

 カナルのように自由な意思を持っていれば、柔軟な対応ができたものの、機械的な動きしかできないクローンにはその場の判断が困難だった。

 結果としてこの計画はチャラになった。大量のクローン処分と共に……この国に獣型は1匹たりともいなくなった。人型のカナルだけを残して。


「俺はその日以来、クローンとは言え、同胞の顔が夢に出てくるようになった。目が覚め鏡に映る自分がクローンに見えていたんだ。それから満足に睡眠が取れず、下水道に引きこもることになったんだ」

 ――あの元気なカナルにそんな時期があったなんて、そんな過去を背負って生きているなんて想像もつかなかった。


 そして、幾年か過ぎた頃、下水道から這い上がったカナルの目の前に白の騎士団団長のグレイが立っていた。過去を知るグレイはそれで騎士団の裏の情報員として勧誘をした。

「『君にしかない使命がある』と言ってくれて、俺は生きる希望を見出すことができた」

 ――団長のグレイ……軍の最高幹部だから、むちゃんこ強いのだろう。それに直々に勧誘されたって、すごくないか。


 下水道のパイプラインは非常に複雑かつ、把握しきれない。そこでカナルには下水道を通じて治安維持に協力してもらいたいとの要望に、了解をしたのだ。

「カナルが今輝いているのはそういうことだったのか」

「そんなに輝いてる? 禿げるのにはまだ早いぜ」

「そう言えば、カナル何歳なの?」

「俺は35歳だ」

「え! 20個も違うのか! 俺は15歳!」


「精神年齢が更けてるんだよサブは」

 カナルの高笑いが森に響き渡る。

「そ、そうかぁ~?」

「ちなみにファントムは60歳ね」

「見えねぇ……あの勢いこそ20代でしょ」

「この世界じゃ年齢なんて関係ないさ」

 そうして二人は草むら談話を楽しむのであった。

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