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第17話 レオパルドの真意

 サブは倒れ込むレオパルドに続けた。

「俺は元々犬だった。今は人間に転生した者さ」

「偶然、それとも必然か。人間に情けを掛けられ敗れるとはな……」

「どうして単騎で来たんだ?」

 カナルが問う。

「ふっ、どうしてかな。答えを求めにきたとでも言うべきか」

 息遣いが徐々に落ち着いてきたレオパルドは冷静さを取り戻し、目の色が通常に戻っていた。


「この前主らを襲った時に、仲間を連れ去り、大やけどまで負わせた悪い人間だと思っていた。実際俺が縛り上げた腕を払い除け、遠方の木まで吹っ飛ばした」

「しかし、飛ばされた瞬間、サブに邪悪さを感じなかった。当時同胞を襲った者は黒いフードをかぶっていた。仮にその黒いフードの者だったとしたら、俺に止めをさしていただろう」

 レオパルドは止めをさされなかったことで、サブが犯人ではないことを認めていた。

 それでも敢えて二人と剣を交えなければならない理由があった。


「聞くまでもないが、黒いフードの者を知らんか?」

「カナル、知ってる?」

 カナルは少し沈黙した後、重々しく口を開いた。

「これは国家機密だが……黒の国の人間が黒魔術を使い、別世界からの転生者を呼び寄せる為に生贄を探しに白の国まで入国してきている噂がある」

 ——国家機密!? カナルはやはり、裏向きの顔があったんだ。


「その件と類似しているのは確かだ」

「そういうことだったか……。黒の国相手なら納得がいく。サブ、それにカナルよ。悪いことをして申し訳なかった」

 レオパルドは潔く土下座をして謝った。その姿は漢そのものだった。

人間と言う一つの括りで、二人を襲ったことを詫び、黒いフードの者でなかったことを知りつつ、無謀にも挑戦をしにきたという。

「気にするな! マジで槍の刃先で貫かれるかと思ったよ!」

「俺は立場上、とばっちりは慣れてるぜ」

 ——カナルの立場上とは……こりゃ後で尋問だな。


 三人とも落ち着きを取り戻し、岸の奥まで移動した。

レオパルドは心を開き敢えてこの場に戦いを挑んだ理由を話し始めた。

「話は長くなるが……カナル、お前も知らない歴史の真実をこれから語る。嘘だと思わず、この真実を聞いてほしい」

 二人は頷くと、真剣なレオパルドの表情に耳を傾ける。


 ユキヒョウ族は結びの国ができた頃、森賊とは呼ばれていなかった。元々はユキヒョウ族として国の一員であった。

 しかし、国政のある人間の大臣がユキヒョウは凶暴だからと国からの追放を訴え始めた。確かにユキヒョウは血が上ると目の色が赤く変わり、戦闘モードになる。

 先程の戦いでレオパルドの目が真っ赤に染まり、体格が一回り大きくなって筋力が増したそれと一緒であった。


「我らユキヒョウの中には正しく教育を受けられなかった者が、犯罪に手を染め、殺意はなくとも殺めてしまうことがあった。感情に支配されるとコントロールが利かないんだ」

 レオパルドの表情は今にも泣きそうな、悲しみを帯び、話を続ける。


 祖先は被害に遭った家族や関係者には丁寧に謝罪をしてきた。だが当然、謝罪をしても償えるものではなかった。

 当時の族長はユキヒョウ全てが殺戮者ではないことを断言したが、それも虚しく、政治が下した判断は国外追放であった。

 最後に城外へ追い出された一族は、ただ真っ直ぐ歩くことだけしかできなかった。そんな絶望の淵に立たされた祖先の前に、一人の青年が駆け寄ってきた。それは人間になった犬の転生者だったという。


 この転生者は一人国外追放に反対し、「絶対にやり直せる方法がある。いや、見つけるから何とか追放だけは勘弁してほしい」と、法廷で叫んだ者だった。

 その者はユキヒョウの祖先に泣きながら謝罪をした。「力及ばずかたじけない」と。また、「種族を越えて仲良く暮らせる世界を必ず作って見せる」と言った。

 そして、ユキヒョウの為に居住地を探してくれた。それが今も住んでいる神秘の森だという。


「その後、分断戦争が起こり、残念ながらその転生者は戦死をしたらしい。我らは分断戦争に関わることすらできなかったのだ!」

 レオパルドの目が充血し始めた。

「転生者をお守りできなかったことに、祖先は自責の念に堪えなかった。その転生者のことをずっと思っていた。愛していたんだ」

 赤く染まった目から血の涙が流れ落ちる。

 真剣に語るレオパルドの口からは何一つ偽りなど存在せず、涙一粒一粒の雫が真実を物語っていた。


 ——人間に対する怒りは、今に始まったことではなかったんだ。それに犬の転生者という一致も偶然には思えなくなってきたな……。

 ——しかし、こんなにユキヒョウのことを思ってくれていた人間がいたのに、追放し、傷つけ、誘拐したとなれば胸中は穏やかじゃない。


 続けてレオパルドは分断戦争後に、戦争に加担しなかった卑劣な者、野蛮な民族というレッテルを貼られ、森賊と言う名前が付けられたと言った。

 賊という響きが完全に悪者として仕立てられていったという。レオパルドの目はもはや赤を超え、炎が上がりそうな煮えたぎる目をしていた。


「そんなことがあったなんて、全く知らなかった。森賊と言う名前も気軽に呼んでいてすまなかった」

 カナルも自身に置き換えたら、腸煮えくりかえる思いであった。

「この世界に転生して、人間となったことに既に切れない関係にある気がする。想像していた世界とだいぶ離れてきたけど、黒いフードの者、当時の国政の決断は厳しく非難する!」

 サブもユキヒョウの気持ちはあまりに不平等すぎる思いでいた。全て理解することなど不可能であるが、平和で平等な世界を取り戻したいと決意した。


「いいんだ。我らの気持ちを全て理解してくれとは望まない。今を生きる主らに罪はないのだから。だが、これだけは伝えたい。誤った真実が存在するならば、必ず打ち砕き、真実を取り戻したい。これが俺の願いだ。剣を交えられたことに感謝する」

「ああ、その真実必ず取り戻してみせよう」

 カナルは少し勇者気取りでいた。説得力はないが、サブとならそれができるのではないかという淡い期待があったからだ。


 それからレオパルドはサブに向かって言った。

「当時平等を訴え、我らに居住地を与えてくれた犬の転生者のように、主のような人間がこの世界には必要だ。俺を殺さず、下水に流されそうな窮地から救いだしてくれた。感謝する」

「どんな命にも罪はない。俺はそう思う」

 レオパルドの赤い目が薄くなっていった。


 とは言ったものの、サブはこの世界のことを何も知らなさすぎる。雛に等しい。

 いずれ白と黒の国に蔓延る闇を知ることになるだろう。その闇に誰が光を当てるのか、だれが打ち砕き、新時代を作るのか……。

 犬のスローライフも終わり、やがて人間としてこの国の使命を背負おい戦う日が来ることなどとは知らず……。

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