第16話 VSレオパルド
「誰がレオタードだ!」
サブはまだ名前を覚えきれていない。
「サブ、レオタルトでもレオタードでもない。レオパルドだって」
当然、カナルに突っ込まれる。
「あ、パルドだったか。パルド! すまない!」
「略すな!!」
サブは天然気質も持つ。すかさずレオパルドに訂正され、緊張感が和らぐ。
「この人間め、前回は油断したが、今回は本気を出させてもらう。貴様を倒すためにどれだけ苦痛の日々を味わったことか」
レオパルドは血気盛んに、前回の恨みを爆発させようとしている。
「待て、なぜ仲間がいない?」
カナルは気にするそぶりを見せ、周囲に仲間が隠れているのではないか確かめる。
「仲間? ふん、この戦いに仲間など要らない。貴様をここで排除する!」
そう言うと、レオパルドの目が充血していく。白目は真っ赤に染まりあがり、体型も一回り大きくなったように見えた。
「先手必勝!」
レオパルドは両手を広げ周囲に風を巻き起こす。その広げた両手を瞬時に内側に閉じた。その閉じた手の中央にはマンホールが位置する。
ビュン!!!
強烈な風がサブとカナルを襲い、一気にマンホールの真上に飛ばされる。
「まずい、足場がない!」
カナルが叫ぶと、続けざまに上から突風が吹いてきた。
レオパルドの両手が下に向かって叩くような仕草を見せる。
「うわああああああ」
サブは身構える暇すら与えてもらえず、一気にマンホールの中に落ちた。
「リット!」
カナルは周囲を明るくする。
マンホールに落ちていく二人。何とか足掛けに手を伸ばそうとするも、激しい勢いであるため手を掛けられない。
「サブ、このまま底まで落ちるしかない! 魔力を全身に集中だ!」
どのような形で落ちるかわからないため、サブは下水に閉じ込められて噴き上げたときのことを思い出し、全身に魔力を集中した。
ズゥーーーーン!!
下水道の道が深くえぐられる。
衝撃により、大きなクレーターができる。
倒れこむ二人の上を起きる暇も与えない速さで、レオパルドが落下してきた。
「死ね!!!」
手には先端に向けて細長く尖った槍を持っている。
落下の勢いのまま両手を振りかざし、地面に向かって叩き込んだ。
キーーーーン!!
上流側の雨で増水した下水の激流の音をかき消すような鋭い音が聞こえた。
レオパルドの槍はサブに届いていなかった。
手に入れた剣、ルゥを首元に構え、何とか貫通を免れていた。
「ふん、やるな」
カナルが一息つく間もなく、レオパルドの横っ腹目掛けて攻撃を繰り出す。
「魔宙剣!」
レオパルドは口元を膨らませて、大きく息を吐いた。すると、後方へ飛び魔宙剣を回避した。
「お前、風使いだったのか」
外れた魔宙剣が下水の彼方へ消えていく。
「今更知ったところで、下水と共にその記憶もなくなるんだ。あとはあの世で夢でも見てるんだな!」
レオパルドはまだ興奮の真っ只中にいる。
自身の槍を宙へ投げ、サブに向けて両手を振った。
「食らえ! 止まらぬ槍!」
剛速球でも投げるかのように、尖った槍がサブの心臓を狙って猛スピードで向かってくる。間一髪のところで避けるも、ターゲットをロックオンされているのか、照準から離れない。
どうすることもできずに、逃げ惑うサブ。カナルも左肩に飛び乗って右だ左だ助言をするが、体力だけが消耗していく。
息遣いも荒くなってきたところで、レオパルドが槍の動きを止めた。
「さぁ、フィナーレといこう」
「大風圧」
上流から激しい風圧が巻き起こる。それによって、カナルの魔法で付けた光が全て消されてしまった。
「リット!」
――ダメだ。風圧で灯せる状況じゃない。
「まずいぞ……ユキヒョウは暗い闇の中でも俺たちのことが見える」
サブは全く見えない。カナルは元々暗闇生活に慣れているから、遠方までは見えずとも、近くまでは見ることができた。
「サブ、俺の声の通りに動け。下水に流されたら一巻の終わりだ」
周囲が下水の流れる音が響き、足跡は疎か、服を擦る音も聞こえない。
暗闇が二人の五感をおかしくする。
「はははは、楽しめ。この暗闇をな!」
ビュン!!!
「右だ!」
カナルのアドバイスにサイドステップをするが、真横を槍が通過したのを感じた。
――おいおい、全く気付かなかったぞ……今俺に使える技はない……
――かと言って、カナルの技は交わされてしまうし、360度どこから攻撃されるかもわからない状況だ。どうする……
再びサブの横を槍が通り過ぎた。徐々に近づいてくる。
「じわじわといこうじゃないか」
不気味な声でレオパルドが二人を精神的に追い込んでいく。
「カナル、ちょっとやってみたいことがある」
「なんだ?」
「ごにょごにょ……」
「そんなことができるのか!? わからないけど、この状況を打破するにはそれしかない!」
「ちゃんと掴まっててよ!」
「作戦会議をしても無駄だ! 次でとどめだ!」
レオパルドの風圧が変わり、全ての風の流れがサブに目掛けていくのがわかった。
「ここだ!!!」
サブはこの時を待っていた。必ず槍を放つときには風が発生し、周囲の風を引き付けていく。その流れの先に槍があり、術者であるレオパルドは風を送っている間、動くことができない。
それを把握したサブは剣に魔力を集中していた。
剣の柄を回し、回転を極限まで早くさせて旋風を作る。迫る槍の方向へ旋風のバリアを張ると、見事に槍を受け止めた。
受け止めたというか、弾き返した。槍は下水に着水し、激流に飲み込まれていった。
「まさか、そんなはずが!」
レオパルドの武器は槍であり、攻撃は最大の防御。
それを失った今、成す術がなくなっていた。
サブは巻き起こる旋風を前方へ放出した。つむじ風が無防備のレオパルドを襲う。
「すげーぞサブ!!」
カナルが大声で叫んでいる。
そのままレオパルドは風の中に巻き込まれ、放り出された。
「おお!!」
「待って、まだどこかにいるはずだ」
サブがそう言うと、カナルは周囲に明かりをつけた。
レオパルドは数メートル飛ばされてふらふらと立っていた。大風圧も止まったようだ。
「くそが、人間に俺が負けるなんて」
この状況で勝ち目がないことを悟っていた。
「弱肉強食だ」
レオパルドはふらついた足で立とうとするも、上流から押し寄せた洪水に飲み込まれた。外は土砂降りの雨だった。
「おい!!」
カナルが叫ぶ。
サブは瞬時に駆け寄り、何とかレオパルドの右手を掴んだ。
「やめろ、人間よ。俺は負けた」
「いや、離さない!!」
カナルもサブの足を押さえて落ちないように、必死になっている。
「なぜそこまでして俺を助ける……」
サブは犬の記憶を思い出した。
あれは5歳の夏。旅行に行くと台風上陸でどこにも出掛けられず、ようやく過ぎ去った後の河川敷を散歩していたときのことだ。
突如護岸が崩れて増水した川に落ちた。
飼い主がリードを離さず一生懸命に持ってくれていたのだが、流れが強く飼い主の力も限界にきていた。それにリードが首だけに掛かっていたため、徐々に苦しくなって、水しぶきで息もし辛くなっていた。
そんな状況で、通りすがりの漁師が続けて崩れそうな護岸に足を踏み入れ、持っていた網を伸ばしてサブを入れて救ってくれた。
その時の漁師が言っていた。
目の前にある大事な命を救わない訳にはいかないだろう。それだけだ、と。
――あの時のようだ。
「俺はあんたが誰かよく知らない。この世界に来たばかりでわからないことだらけだし、正直、初めて会ったときは怖かった」
「でも、カナルと関わっていく中で、この世界には色んな種族がいることを知り、仲良くしていきたいと思っている。それにこの状況、俺も味わったことがあるんでね」
サブは勢いよく右手を振りかぶり、レオパルドを岸へあげた。
「俺は…俺はあんたを殺すつもりはない」
サブは全体力を使いきったような感じである。
「で、ではなぜ助けた……?」
レオパルドは口に入った下水で嗚咽をした。
サブは一呼吸を置くと、
「目の前にある大事な命を救わない訳にはいかないだろう。それだけさ」と、漁師の言葉をそのまま返した。
「名を何と言う?」
「俺はサブだ」
サブか、完敗だ。と、レオパルドは微笑を浮かべるとバタンと倒れこんだ。




