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第15話 城壁の向こうへ

 パイソンは迷うことなく片手剣を手に取った。

「剣は初心者じゃな? なら、大剣はやめておけ。これはルゥと言って、使い手の心に呼応するような不思議な剣じゃ」

 ――そんな剣があるのだろうか?

「あり得ないと思ったじゃろ? あり得る話じゃ。今後剣に魔力を注いでいくことで、いつしか剣も命を持つようになる。言うなればお前の分身ができると言える。すると、使い手と剣の心は一致し、一人じゃなく二人で戦っているような気持になるじゃろう」


「この剣は結びの木の魔力を混ぜて造った。お前の役に立つことは間違いない。ただし、これはあくまでも真面目に修行をし、剣術を磨いた結果じゃ。自身に自惚れ、慢心を起こし、道から逸れればルゥは錆びた剣になろう」

「俺は努力して、この剣を使いこなしてみせます」

「宜しい。果たしてその気持ちが3日と続くかのう……ぐわっはっは」


 パイソンはサブを試していた。犬の転生者であるということは、この国に多大な影響を及ぼす可能性があることを知っていた。

 サブは犬の転生者がどこまで重要な存在であるか理解をしていなかった。それはカナルもまだ教えず、機密事項であり、パイソンもまた不確かな転生者に多くを語ることを避けた。


 今回選択した剣はあくまでも転生者としての基礎を植えるツールに過ぎなかった。仮に本物の犬の転生者であったとしても、スタートラインはルゥから始まっていた。

 いずれ本物の犬の転生者が来た時に、パイソンのとっておきの剣は試作を経て完成するだろう。強固に造られたその剣が、この国を救うその時までに。


 サブは左腰に剣を納め、少し戦士らしい格好になった。

 サブとカナルは深々と頭を下げて礼を言うと、ウェポンパイソンを後にした。

 後方を振り返ると入り口でパイソンが何か叫んでいたが、気に留めることもこともなく先へ進む二人であった。


「クソガキが! 金もらっとらんぞ!」

 パイソンが叫んでいたのは肝心な金を徴収し忘れてしまったことであった。

「まぁいい……あのサブという人間に正しい魔力の使い方を教える者がおれば……クラウスさえ死ななければ……」

 パイソンはサブに魔力を教育しているのがカナルであることを察していた。あの魔力にイロハを叩き込めば強くなれると感じていた。

 かつて名を馳せていた盟友クラウスさえいればと。パイソンは店へ戻ると後悔の念を剣にぶつけて、最高の剣を造ろうと今一度決意をした。


 一方、進みだした二人。

「さて、これで身支度も整ったし、一旦我が家に戻るとしよう。さすがに下水の流れは引いているはずだから、一から建て直す必要がある!」

 ――そうだ。カナルの家は俺が破壊し、下水と共に流れてしまったのだった……

「それで、どこへ向かえばいいんだ?」

「白の国には城門が1つしかない。この間マンホールから出た墓地付近を更に南へ進めば城門がある」

「了解!」


 そうして二人は再びタクシーを探し、早々と見つかったダチョウに乗って城門まで向かった。

 城壁が見えてくると、それは江戸時代を思わせる城下町との作りとは違い、西洋の要塞を思わせる。100メートルほどの間隔で城壁に円形の監視塔が設置され、内外の状況が見られるようになっている。


 カナルはその城壁を見て、サブに説明をした。

「この南は西側に続き、警備が厳しいんだ。外部からの侵入者が多いのは西と南。正規ルートを通って侵入する悪い者もいれば、西側のエンドローヌ川を渡って来る敵もいる」

「前に戦争によってできたエンドローヌ川が国境となったと話したけど、川を境に東側が白の国、西側が黒の国なんだ。だから川から黒の国の者が上陸するのを警戒するため、より西側警備は強固にしている」


 いつも平和に公園でマッタリしていたサブにとって、常に何かに追われているような暮らしをするのは嫌だと、サブは思った。

「何だか物騒なんだね……俺は平和に暮らしたいよ」

「基本的には平和さ。ただ300年前の分断戦争以後、小競り合いがあってね。正面衝突やスパイだの。そりゃー大変だったさ」

 カナルは今は平和だから巻き込まれることもないと言うも、サブは少し不安を抱きながら城門へと近づく。


 城門に着くと、内外に警備員がいるようで、内側にはチーターの顔をした人型の警備員が二人立っていた。左手に盾、右手に槍を構えている。

 その内の一人が声をかけてきた。

「む、これはカナル殿。お出掛けですか?」

「ああ、ちと家が壊れたので買い物にきていたところさ」

 ――カナル殿って、社長はやはり地位でもあるのだろうか。


「そちらのお方も付き添いで?」

「うちの新入社員だ」

「そうでしたか。本日は雨の予報でございます。気を付けていってらっしゃいませ」

「え、雨!? よりによって下水が増すじゃんか……」

 雨が降れば下水量も増し、カナルの家までたどり着けるか怪しくなるので、渋い表情になった。


 城門は鉄扉になっていて、二人のチーターが2枚の扉の取っ手に繋がれた縄を懸命に引っ張り、内側に開門した。

 チーターは息を乱すことなく揃って一礼をすると、サブとカナルを見送った。


 外に出ると熊の警備員が同じように二人立っていた。

 盾は持たず、両手にこん棒を握っていて、とても強そうだ。

「カナル殿、いってらっしゃいませ」

「うむ」

 カナルは相変わらずサブの左肩に乗っている。

 熊はサブには見向きもせず見送ると、鉄扉を閉めた。閉めるときは外側の役割のようだ。


「さて、城外に出た訳だがこの門から真っすぐ行ったところに、森賊に襲われたマンホールがある。まぁ、走って10分だな」

 辺り一面荒野になっていて、先の先の方に見える森のような緑地がきっと森賊と遭遇をした森の出口なのかもしれない。

 サブはそれを見て、一直線に走り出した。

「カナル、ちゃんと掴まっておけよ~~!!」

 走るのが好きなサブは激走する。犬の頃を思い出すように……


 ズキン! サブは何か脳内が痛む感じがして、少し立ち止まった。

「おい、どうした? 大丈夫か?」

 カナルが突然止まるので、前へ飛ばされそうになる。

「あ、ああ。なんかすげー痛みがあったけど、もう大丈夫」

 ――一瞬の激痛だった。気のせいだろうか……


 そして二人は目的地の森の入り口に着き、マンホールの前に到着した。

 カナルの魔法で初めて出会った時のように、鉄蓋が開く。


 すると、背後から怒鳴り声が聞こえた。

「お前ら、やっと見つけたぞ!!」

 何事かと声の方向を振り返るサブとカナル。

 そこには見たことのある、白黒斑点の猫が血眼になり、臨戦態勢でこちらを向いていた。


「レオパルド!!」

「レオタード!!」

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