第14話 ウェポンパイソン
店内に入るとそれ程広くはない。むしろ、剣や斧、杖に弓などが立て掛けられていて狭く見える。サブはトリミングに行っていたペットサロン程の広さだと思った。
店の最奥中央にレジと思われるカウンターがあった。
カナルは店内を見渡しながら、何かを探している。
サブはカナルの剣を思い出した。
――初めて剣を突き付けられた時、よくよく考えてみれば俺の腕ぐらいの長さがなかっただろうか? 目の前のカナルのことで頭がいっぱいだったから、剣のことはよく覚えていないな……
「えーっと、確かこの辺が俺の……」
「おい」
不愛想な声が聞こえてきた。
「パイソン爺さん、おはようございます。カナルです」
「ふん、クソガキが! またお前は剣を壊したのか!」
声の聞こえる方向に目を向けると、カウンターから身を乗り出した角……いや、角が剣のように研がれていて、角の剣と言った方が早いかもしれない。その剣が今にもカナルに襲い掛かろうと迫る。
その角の剣の全容が完全に見えた時、現れたのは巨大な人型のパイソンだった。白髭を生やした老パイソンはカナルに喝を入れた。
「このバカ野郎!!!」
床に埋まるのではないかと言う勢いで拳骨をかます。
「い、いでで……も、申し訳ございません!! これには事情があって……」
「次来た時は剣を壊したときだ。容赦はしない、と言っただろう!」
言葉は遮られ言い訳する間もなく、パイソンはカナルを威圧感で吹っ飛ばした。
しかし、後方にいたサブに激突し、事なきを得た。
「何だこっちの人間の小僧は!」
激震が収まらない。
「サ、サブという"犬からの"転生者でございます」
パイソンの眉間のしわが少し緩む。
「お前、今何と言った?」
「ですから、"犬からの"転生者でございます!」
「この大バカ野郎!!!」
ますます怒りを買ってパイソンが突進してきた。
さすがにこれはまずいと思ったサブがカナルの前に出て、パイソンの両手を掴む。パイソンは勢いを止めることなく、両手に更に力を入れる。
角の剣が外から差し込む日の光でキラ日の輝く。
「ぐぬぬぬ……お、おもぇ……おもてぇ……」
引き留めるサブの両足が店内の床にめり込んでいく。
「こやつ……」
カナルが後ろから必死に声を掛ける。
「パイソン爺さん、本物ですって! どうか落ち着いてください!」
パイソンはサブの力を認識したのか、ゆっくりとその両手を離した。
「はぁはぁはぁ……」
サブの激しい息遣いも去ることながら、パイソンもぜぇぜぇと肩で呼吸をしている。
「カナルよ、こ、これはどういうことだ。説明しろ」
カナルは事の経緯を伝えた。サブに剣を折られたこと、家が潰れて予備も流されてしまったこと。そして、この力が犬の転生者であること。
「確かにお前の言う通り、犬の転生者である可能性は高い」
二人は少しほっと一息をつく。
「だがな、わしの剣を折るということは、お前の使い方が悪いからだ! わしの剣は犬の転生者が使っていた剣と同じ素材を使った剣だ。折れたことなど一度しかないというのに!」
「え!? そうだったのですか!?」
カナルはそのことを知らされていなかった。
「自身の魔力に過信した結果じゃな。お前は魔力の使い方が未だにわかっとらんようじゃ」
「申し訳ございません……」
――カナルが屈服している。このパイソン、マジで強い。
「わしはな、自分の剣を壊されることは悪いと思っとらん。むしろ、壊されてほしいと思っている。それだけ強い相手が出たというのはわしの力が足りていないからじゃ。もっと強い剣を造り、使い手が強い相手に勝利すれば、それはわしの勝利じゃ」
――この爺さん深いことを言う。
「今回は多めにみてやろう。犬の転生者かわからんが、カナルよりも強いことは確かのようだからな」
パイソン爺さんはぐっはっは、と笑っている。
「さて、そこの人間。サブといったか? こっちに来て、顔をよう見せてみろ」
サブはすぐさまパイソンの前に行くと、その鋭利な角と、しわくちゃな顔にもじゃもじゃな髭が超至近距離に迫り、動機が激しくなる。
「ふーむ。顔は似とらん。魔力はあるが、まだまだじゃな」
「わしはな、犬の転生者を幾人か見てきた……」
「もう大昔になっちまうが、この国に戦争があってな。わしは戦争のための鍛冶職人を任せられたんじゃ。正直やる気はなかった。ある者の造る武器を除いてな」
「そのある者の武器には人一倍、魔力を込めて丁寧に造った。そいつは人望が厚く、勇敢で、何より最強じゃった。最後の最後までわしの武器は壊れなかった」
パイソンはカウンターの椅子に腰かけ少し肩を落とした。
椅子の軋む音が聞こえる。
「……しかし、その戦争の最終章といってよい。あと少しと言うところでわしの剣は折れた。夢と希望を乗せた剣が、砕け散った瞬間をこの目で見た。それが人生で初めて壊された剣となった……今も無念で仕方がない。どんなに強い素材を使おうが、それを上回る敵が現れた時、剣は負けることを知った」
「絶望だった。剣がなきゃ勝てる訳がない。そう皆が思ったとき、その者は諦めなかった。『勝つのに必要なのは心だ! 決して諦めるな!』と、鼓舞した。その折れることのない心の剣が皆を救った」
「わしらに必要なのは武器だと思っていた。しかし、武器ではなく心だったのじゃ。それを教えてくれた。結果として、その者は自ら犠牲となりこの国は守られた。わしは、それから自分を悔いた。悔やみきれなかった。その諦めない心がわしの剣にも込められていれば……」
サブはこのパイソンの気持ちを聞いて心が痛んだ。さっきまでの威勢の良さがなくなり、肩を落とす姿はどこにでもいるパイソンに変わりなかった。
「今もわしは丹念に心の剣を造っている。もう300年以上もな。いつできるかわからんが、来るその日までに必ず造ろうと、あの日を忘れずにな」
カナルもそんなことがあったとは知らず、涙をポロポロ流していた。
「何も泣くことはない。いずれわかるときがこよう。サブよ、その者を目指せとは言わん。とにかく諦めない強い心を持て。そうすれば、道は開ける」
サブは無言で頷く。
「さて、悲しい話は終わりじゃ。カナル、お前はどうせ折ると思っていた。予備は造ってある、さぁ持っていけ」
「パイソン爺さん、俺の心には折れることのない心の剣がないと思ってるんじゃ……」
「それはない。ただ、お前の剣は難しい。その手の大きさに合わせて柄を小さくしつつ、剣身は丈夫に大きくせねばならん。不バランスだから、折れやすいのじゃ。わしの折れないというポリシーから外れるがな」
カナルは納得し、新品の大剣を手に取った。その剣の大きさはカナルの身長の3倍はありそうだ。
「よくこんな大きな剣、持ててたね」
サブが感心して言う。
「この鞘を見てごらん」
カナルは大剣よりも3分の1の大きさの鞘に、剣を納めようとしている。
剣先が鞘に入った瞬間、シュッ! という音と共に、3倍もの大きさの剣が中に吸い込まれていくように納まった。
「な、なにこれ!」
「魔法の鞘じゃ」
横からパイソンが説明をする。
鞘には魔力が込められていて、剣の大きさを自在に変えて納めることができるらしい。
「これなら持ち歩きも楽な訳か」
サブは自分の左肩にあれだけの大剣を持たれれば、傷つけられかねないと思っていたので安堵した。
そして、カナルはサブの剣も決めようとパイソンに提案を求めた。




