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第12話 友達

 10分程歩くと、風情ある町並みが見えてきた。城下町だ。

 辺りは暗くなってきている。取り分け結びの木の下であるから、星や月の光は差し込んでこないようだ。


 周囲は人間の世界で言えば江戸時代を思わせるような瓦屋根に、ところどころ剥がれていているが、それが逆に雰囲気を出している黒漆喰の壁。

 オレンジ色の提灯が灯り始め、夜の町に変わろうとしている。

 中央道は正方形に模られたコンクリートブロックが、幾重にも敷き詰められ、先に見える城まで続いているようであった。


 道の両側は商店街で連なり、八百屋らしき店の店主が営業終了の看板を出している。  

 ――あ! アナグマ! 目の周りが黒くタヌキにも似た顔をしているから間違いない。

 アナグマは人型だった。胴体は前掛けをして、頭にはタオルをグルグルと巻きつけている。いかにも八百屋だ。

 ダックスフントはアナグマなどの地中にいる動物を狩猟するために利用されてきた。その為、犬であれば本能的に体が動いてしまうのだが、今はその気が起きないことにサブは気付いた。

 ――やはり俺は人間になっている。アナグマを見ても狩ろうと思えない。


 八百屋を通り過ぎると、右手に『大衆酒場 ももたろう』と書かれた居酒屋が見えた。外にテーブル席が並び人型の犬が盛り上がっている。


 サブは犬を見るや否や驚いた。

「犬の顔をした人型だ!」

「ああ。違和感あるでしょ?」

 左肩に座るカナルが足をバタつかせている。

「そりゃ~違和感しかないよ。だって犬が椅子に座り、酒飲んで喋っているんだぜ? 正直気持ち悪いよ……」


「転生した者は皆人型になるのかな?」サブは素朴な疑問を抱いていた。

「俺もそこはよくわからない。仮に獣型に転生していても喋れないし、今まで会った転生者は全て人型だった」

「へぇ~、じゃあ他にも転生者はいるんだね」

「いるさ。実は俺も……」

「ええ! そうだったの!?」

「んなわけないだろ~」

 何だよ、とサブは言うと目の前に『宿借』の看板が見えてきた。

 宿の入り口にはヤドカリマークの暖簾ノレンが垂れ下がっている。


「やー着いた着いた。長い道のりで疲れたぜ」

「待て、カナルは俺の肩に乗ってただけじゃん!」

「ははは、社長特権。さて、今日はここで休もう」

 カナルは足を組んでご機嫌のようだ。


 暖簾の下をくぐると、明るく開けた大広間が出迎える。

 外靴をここで履き替えるようだが、そう言えばサブは裸足だった。服もハッちゃんに流してもらったとはいえ、少し臭かった。

「まずは風呂だな」

 カナルはそう言うと、フロントに行くように指示し、正面にあるカウンターに向かった。カウンターには誰もいないのかデスク用の灯りだけが無言で出迎える。


「すみませ~ん」

 カナルが呼びかけるとカウンターの下から渦を巻いた貝殻がニョキっと現れた。

「はいはい、お待たせしました」

 しわがれた声で顔を出したのはヤドカリだった。

「二人泊まりたいのだけど、空きはあるか?」

「ございます。4階の405号室をどうぞご利用下され」

 カナルは支払いを終えると、ヤドカリ女将からレトロな鍵のキー棒を渡され階段を登っていく。


 405号室に入ると、二人は無言で急いで大浴場へ移動して下水の汚れを落とし、温泉に浸かって疲れを癒す。

 そこでサブは自分の体を洗おうとするのだが、違和感の連続だった。

 まず、鏡を見て初めて自分の顔を知り、髪型を知った。顔は全体的にシュッとしていて、鼻筋が通り、目は少しタレ目で優しさがある。

 犬の頃に自分の顔を見る機会は殆どなかったから、凄く新鮮だった。

 髪型はショートヘアで前髪が立ち上がっていて清潔感があった。人間世界ではイケメンと呼ばれる顔だろう。


 サブは自分の体を自分で洗うことに今一しっくりこなかった。まだまだサブは犬としての習慣が根強く残っていて、人間機能を使いこなせていなかった。

 かつて後ろ足で背中の痒い所をかけていたのが、人間の骨格では不可能であった。それを見たカナルが笑いながら言った。

「無理無理、絶対届かないって!」

 サブはどんどん可笑しな体勢になっている。

「本当に犬だったんだな」

 カナルは納得をすると、団長との話を思い出した。

 ……信頼できるに足りる者ならば、再び連絡をしてくるのだ……

 ――まだ早いか。


 カナルはサブが魔力の底を感じないぐらいの強さを持ち、使い方を知らないこと、前世が犬であることから"犬からの"転生者であることは間違いないと悟っていた。

 しかし、これで普通の犬の転生者だとすれば余計な秘密をサブが知ることになってしまう。団長の前で見せる"何か"が必要だった。


 その晩、豪華な料理が出たようだがサブとカナルは死んだように早々に寝てしまった。


 翌朝起きると、カナルは窓際に立ち結びの木を見つめている。立ち込めた霧に朝焼けが当たり、屈折した光が妙に神々しい。

 サブが起きたことに気付くと思わぬ話を持ち掛けた。

「おう、起きたか。サブよ、もし行く場所がないなら俺と着いてこないか?」

 何を言い出すのかと思えば、寝たきりも合わせれば十数日間一緒にいるのに、今更一人で行動する訳がない。と答える。

「そうか、改めて聞くまでもなかったな!」


「俺たちは友達だ!」

「社員であり友達でしょ?」

「あ、ああ。そうだった。社員であり、友達だ!」

 カナルはサブと一緒にいられると思うと安心した。


 そうと決まれば、「剣と服の調達をしよう」とカナルが言うので、チェックアウトの時間を少し延ばしてもらい、備え付けの浴衣を借りて外へ出た。

 ヤドカリ女将がサンダルを用意してくれていた。

 ありがとう、と礼を言うと暖簾の外に出る。


 まずは服だな。

 城下町にある服屋で適当な服を探す。

 その中でもサブに似合う青いローブを見つけた。着用するとしっくりきて気に入った。腰には白い紐を付けることで柔道着を思わせる。

 靴は衝撃に強いブーツを購入した。

 サブはようやく裸足から靴を履き、人間としてまともに歩けるようになった。


 カナルも特注トクチューで魔力の攻撃に強い素材の長袖シャツとズボンを購入した。

 相当な出費だったようだが、さすがはカナル社長。ネズミーカードで支払いを終えた。


「出世払いだな」

 サブは白の国に降り立って以降、裸で無一文、それに食費や宿代などカナルには本当に感謝をしていた。出世払いはやむを得ない。

「さて、次は剣だな」

 カナルは心当たりのある武器屋を目指し歩き始めた。

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