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第10話 カナルの本業

 魔力は血の流れに乗って全身に行き渡ろうとしている。放出を防ぐ方法はないのか、頭をフル回転させる。

 限られた時間で在処のわからない宝を探すように……


 サブは漲り溢れ出ようとする魔力で壁を作る意識をした。

 外側から覆えないなら、中側から作れば良い。

 全身に行き渡った魔力を皮膚の上から薄い膜で囲う。その膜は弾力性の高いクッションのような素材にし、中からの反発を吸収する狙いだ。


 ここ一番の集中に全身から汗が吹き上げる。手を繋ぐカナルはサブから、強力な魔力が流れ込むのを感じる。

 サブの狙いは成功したようだ。


 あとはカナルの魔法を待つのみだ。

 カナルは全身に戻った魔力を瞬時に魔法へ変換する。

開け(オーフェン)!」

 鉄蓋が跳ね上がり、まばゆい光が二人を襲う。

 すると真下に迫っていた下水が一気に押し寄せてきた。

 カナルはサブの手を離すと、一目散に足掛けを登り切り何とか地上に出た。

 一方のサブはまだあと数歩登らなければならなかった。


 そして、急いで上がろうとしたその時、とうとう下水が吹き上げた。サブはその圧力で宙に舞う。


 5メートルほど飛ばされた。着地次第ではただの怪我では済まされない。頂点まで上がったところで、カナルが叫ぶ。

「今度は両足に魔力を集中しろ!!」


 そう言われ、両足に魔力を集中した。魔力を留めることに成功したからか、自由に移動させることができる。

 ただし、サブは転生してからほぼ下水道で暮らしていたので、真っ暗闇から激しい閃光を受けたに等しかった。それ故、地面が見えていない。


 やれるべきことは一つ。いつ着地しても良いように両足に一定の魔力を備えて、じっと足が地面に着くのを待つことであった。

 この浮いてから着地するまでの一瞬で、サブはやってみせた。


 スタッ! ではなく、ドタッ! という強い音が響いた。

 サブは足から着地せず、背中から着地をしたのだった。

 それもそう。足から落ちるとは限らない。


「いてててて……」

 さすがのサブも痛みを感じずにはいられなかったようだ。

「大丈夫か!!」

 カナルがすかさず飛んでくる。

「ダメだ~~! いて~~~! なんちって~~~!」

「ふざけんな!」

 やはりサブは普通の人間ではないことが判明した。


「カナルが足に集中しろって言うからだろ!」

「こんな状況で冷静でいれると思うか!」

「こんにゃろー!」

「このカナル様とやんのか~~!」


 二人は喧嘩を始め、下水まみれの体に加えて周囲の埃も付着して一層汚くなった。

 我に返った二人は、わははははと笑い無事に出られたことを喜んだ。


 視力が回復し、周囲を見渡すと、至るところから下水の噴水が見えた。

 付近には心配そうに見つめる人型の動物たちが大人から子供までたくさん集まっている。

 あまりに突然のことで地上にいた者は、サブたちが下水から吹き上げたことに気付いていなかった。恐らくは鉄蓋の付近にいて飛ばされたのだろう。


 カナルは横で感心していた。

「万が一開けられていなかったら、この鉄蓋に叩きつけられて死んでたな……サブ、ありがとう。助けるつもりが、また助けてもらっちまったな」

「元は俺が招いた事故だし、カナル、ごめん」

 謝る必要はない。これから何十倍にして返してもらうから、と冗談を飛ばし二人は笑った。


 暫く花壇のブロックに腰を掛けていた二人は、上流のマンホールから順々に下水の噴水が止まっていくのを見た。

 しかし、ここからが大変だった。何せ下水だ。汚水が至るところに飛び散り、漏れ出たあたりは地獄絵図に近かった。


「俺の表向きの顔の出番だな」

「おお!? カナルの仕事現場を見れる訳だね」

 カナルは下水道のプロであるから、この街を汚染している汚水を何とかしてくれるのだろう。サブは少し期待していた。


「見てろよ、これが俺の本業だ!」

「出でよ! ファントム!」

 召喚魔法を唱えたのか、何かが出てくると心躍る。


 数秒が経過した。今のところ何も変わらない。

 サブは徐々に汚水が引いていくものだと思い、待っていた。


 しかし、何も起こらない。

「今の魔法は何?」

 しびれを切らしてサブが聞く。

「すまん、かっこつけただけだ」

「何だよ! 冗談かましている場合じゃないだろう!」


 カナルは苦笑いをすると、手帳を開いた。

 そこに映し出されているのはとても大きな象だ。名前の欄にファントムと書かれている。ファントムは水を飲んでいる。

 ――何だこれ? 人間が使っていた携帯電話みたいなものか? この国の共通文字なのかな。字も読めるな。


「ファントム、故障処理だ。今すぐ城下町の南、城門から約100メートルの墓地付近、花壇前に来てくれ」

 水を飲むファントムという象が水を振りまいた。

「何だよ、もう夕方だぞ? 誰だよこんなタイミングで故障処理出したのはよ!」

 カナルは誰かと聞かれ、知らん顔した。隣でサブが赤面している。

「まぁまぁ、今日は君が当番なんだから頼むよ」

「残業代はきっちり払ってくれよ。それと、2週連続手当もくれよ? 部下に顔向けできん」

「何だよ2週連続手当って。そんなもん福利厚生に入れた覚えはない!」


「ケチな社長よ。こんな汚い仕事させてるんだから、ブラック企業だと訴えちゃうからな。騎士団のグレイに……」

 と言いかけている途中で遮るように、

「わかったわかった! じゃあ1.3倍の手当てを出す! それでいいな?」

「さすが社長! 決断が早い!」

 カナルはその言葉を聞くと手帳を閉じた。


 それからカナルはじっとサブを細目で見ている。

「う……冷たい視線……無償で働きます……」

 ――自分の責任はしっかりと取らないとね。でも社長だったのか、これは意外。労働者ではなかったのか。


「ファントムたちの手当てだけじゃないぞ? 我が家がなくなったんだ! そっちの方が断然でかい。そうだな、無償働き3年だな」

「ええー--! 本当に申し訳ない! でもちょっと待って、あれは不可抗力だし!」

 カナルはおちょくるのが好きで、陽気で明るい。サブはこれが表向きのカナルであろう。そして、社長という一面は裏向きの顔なのだろうと思った。


「まぁ、レオパルドの件もあるし1年にしておくか」

 それも長い。しかし、サブは今カナルと一緒にいられることが楽しかった。


 暫くして、突如巨人でも現れたかのような足音が聞こえてきた。

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