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平成トランスポーター  作者: 夏名
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6-3 不注意の末路

「あっ、本当に蓮下(れんげ)と知り合いだったんですか!この人、來見(くるみ)先輩に会わせろとしか言わなかったんで、どうしようか困ってたんですよ」


「……どうせ会わせてくれるのに、説明する必要あったか?」


 來見が驚きで固まっていると浦部(うらべ)は先程から妙に戸惑っていた理由を明かすように口を開く。一方の飛織(とおる)は結果が変わらないのなら説明を省き、横着しても良いと思ったのだろう。

 飛織のふてぶてしくどこか捉えどころのない様子を再び目にして、來見は我に返り思わず笑みを溢してしまう。


「そっか……飛織の言う通り確かにまた会えたな。俺達が同じ学校だって、いつ分かったんだ?」


「買い物してた時に。來見さんの彼女の……(ほおり)さんが着てた服に学校の名前が入ってるのが見えたんで」


「かっ……のじょでは無いけど……そう言えばあの時の祝はユニフォームを着てたな」


 質問をする來見に飛織は向き合うと、すらすらと根拠を述べていく。突然の來見の彼女発言に動揺しかけるも、当時の状況を思い返した來見は飛織の言葉に合点がいったのだった。


「あとは浦部との会話で……そう言えばよく名前が出てくる先輩と同じ苗字だったなと、帰り際に思い出したんで」


「それで賭けてみたんだ?俺が伊斗路(いとみち)高校にいるって根拠はまだなかったのに」


 祝と違い私服であった來見が、どの高校に在籍していたかまでは分からなかったはずである。それでも祝とのやり取りを観察し同校に通う仲だと推測した。別れ際にやけに自信に満ちた様子で再会を予言したのは、その為だったのだろう。


「……結果は当たってましたね」


「うん!じゃあ約束通り交換するか、連絡先!」


 心なしか得意気な顔でそう告げる飛織に、來見は笑顔で言葉を返す。來見がポケットから携帯電話を取り出すと飛織も承知したように携帯を取り出した。


「あっ、蓮下!それ不味いよ、校則違反だって……!」


「持ってきたのは今日だけだ」


「ごめん浦部。今日だけ見逃してくれないか」


 飛織に注意をしキョロキョロと忙しなく辺りを見回す浦部に、來見は小さく片手を縦に上げ謝罪の意を示す。

 浦部の言う通り、中等生は携帯電話の使用のみならず所持すら許されていなかった。飛織の禁止物を持ち込んでいる姿が教師に見つかれば、即座に没収された上に反省文を書かされる事は想像に難くない。


 浦部は隠す素振りも見せず平然としている飛織の姿にため息をついていた。それは諦めとも取れる態度であったが、先輩の顔を立てようと思ったのかそれ以上追求してくる事はなかった。


「……分かりました、でももうちょっと隠れてやって下さいね。放課後とは言っても、この廊下って普通に人通り多いんですから」


「ありがとう。飛織、携帯は一回しまってちょっと移動しよう。……資料室なら人がいないかな」


「はい」


 浦部の忠告に従い、來見と飛織は携帯を懐にしまい込む。そのまま揃って図書室に入ると、用事の済んだ浦部とは室内で別れる事にした。

 來見と飛織は後ろ暗い事など何も無いかのように、堂々とした足取りで資料室へと向かう。努めて自然な態度のまま、念のために外から様子を窺ってからするりと入室するのであった。


 いつもの如く室内には颯真(ふうま)が入り浸っており、入り込んで来た來見達を一瞥する。しかし自分に用がある訳ではないと直ぐに理解したのか、ヘッドフォンを外す事もせず再び本に視線を戻していた。


「飛織、図書室側の壁を背にちょっとしゃがんで」


「……?はい」


「こうすると向こうから見えにくいんだよ。携帯は俺が操作しても良いか?」


「お願いします」


 來見は飛織に指示を出すと、携帯を受け取り連絡先を交換し始める。飛織が携帯を持っている姿を他人に見られるのは校則上、非常に宜しくない。しかし來見が携帯を2台持っている姿はまだ言い訳が利くだろうという考えの元、取った行動であった。


「はい、できた」


「ありがとうございます……それから、これも」


 來見が携帯を返すと、飛織は肩に掛けていたスクールバッグを漁り、簡素なラッピングがされた透明な袋を渡してくる。当然中身が丸見えなため、何が入っているのかは直ぐに分かった。


「クッキー?……これ、手作りか?凄いな」


「はい、あの日買った材料でささっと……酔い止めにチョコ貰ったじゃないですか、あれのお返しです。あとはお礼的な意味で……」


 確かに四人で買い物をした時に、飛織は真剣な表情で材料を選んでいた記憶がある。飛織の意外な才能に驚きつつも、來見は素直に感謝を告げる為に口を開いた。


「お返しとか、気にしなくて良かったけど大事に食べるよ。ありがとう。それに……感謝するのはむしろ俺の方だ」


 飛織のお陰で逃げられたからな、と言葉を続けると飛織は目を伏せ聞いていたが、暫くするとゆっくりと話し始める。


「あれは今思えば、俺も逃げてなかったらどうなってたか分からなかったので……あとこれは祝さんに。こっちは陽彩(ひいろ)も手伝ったんで」


 飛織は再び鞄から包装されたクッキーを取り出し、差し出してくる。先程來見に渡したものよりも少し形が歪だったが、一生懸命作ったのだろう。明らかにラッピングに気合いが入っており可愛らしい装飾がされていた。


「陽彩さんが!うん、祝には間違いなく渡しておく」


「陽彩、友達が増えたから一日中浮かれてました。……うざかったらすいません」


「祝はそんな風に思わないよ……きっと喜ぶ。あんなに楽しそうだったんだからさ」


 來見は両手に包装されたクッキーを持ちながら、飛織の懸念を払拭するように言葉を発する。それはそれとして、來見には中等生である後輩に注意すべき点があった。


「ところで浦部も言ってたけど、携帯の持ち込みもついでにお菓子の持ち込みも、中等生は禁止されてるのは分かってるな?」


「……今日だけなんで、浦部と來見さんがチクらなかったらセーフです」


「端から開き直るんじゃない。俺もさっきは堂々と連絡先を交換しようとしたけど、バレたら面倒なんだから持ってくるなら廊下で出したりせずに、ちゃんと隠す事。良いな」


 自分の行動を棚上げにしている事実に内心苦々しく思いながらも、來見なりに飛織の学校生活を心配し注意をする。一度失われた信頼を再び勝ち取るのは難しく、來見たち高校生よりも長く在学する事になる中等生に、前途多難な道のりを歩ませたくなかったのである。

 來見の忠告を受けた飛織は、殊の外強く叱責されなかった事に驚いたのか呆気に取られた表情を浮かべていた。数回瞬きを繰り返すと、來見の態度を踏まえて生じた疑問を解消する為に話を続けようとする。


「……校則をちゃんと守れとは言わないんですね」


「内申を下げたくないならちゃんと守れとは注意するけど、その辺は自己責任だし……別に何か悪用してる訳じゃないんだろ」


「それは……そうです」


「色々事情がある人もいるだろうし、口うるさく言うつもりはないよ。まぁ友達には一回くらい注意しとくけどな」


 興味深そうに質問する飛織に、來見は自分なりの考えを話していった。來見の述べた意見は事なかれ主義的であり、個人主義的なものである。それは学校生活における規則違反はあくまで教師が解決すべきだと、全ての対応を大人に丸投げしているとも言えただろう。

 後輩が一定の理解を示したように小さく頷くのを目にして、來見は更に言葉を掛ける。


「俺が地元の中学に通ってた時も、校則破ってる人は大なり小なりいたからさ。真面目な人なら叱るのかもしれないけど……」


 その辺、俺はあんまり良い先輩じゃないのかもな、と來見が続けると飛織は口許を緩めながら返答をする。


「……俺は堅すぎるタイプより、融通利く方が楽で良いです。多分俺も見て見ぬ振りすると思いますから」


「飛織はそうだろうなぁ。褒められてると受け取っておくよ」


 二人の信条は恐らく多くの子供たちと大して変わらず、学校生活を送る上で徒に軋轢を生まないようにと持つ考えとしては適切なものであった。

 一方で教職に就く人々はそのあまりの負担の大きさに苦しむ者もいただろうが、まだ若く社会経験の無い來見には理解が及ばない話であった。仕方が無いことではあるが生徒間で角が立たない事を重視するあまり、認識を改める機会を逃してしまったのだろう。

 何れにせよ來見と飛織は子供にしか許されない、ささやかなルール違反を楽しみ学生時代を謳歌しているとも言えた。それが果たして良い経験だったのかはまだ分からず、後になってから判断されるべき出来事であった。




 すっかり打ち解けた様子で二人が談笑していると、不意に飛織が押し黙る。何か重大な事を告げるように真剣な表情を作ると、徐に意見を口にし始めた。


「……ところで、さっきは浦部と來見さんに黙って貰えば良いって言いましたけど、もう一人いますよね。口封じが必要な人」


「うん?……あぁ、颯真は言い触らしたりしないよ。大丈夫」


 來見は飛織の言わんとする事を理解するも、直ぐに否定する。二人に目を向けられた颯真は視線を感じ取ったのか、顔を上げヘッドフォンを外し怪訝そうな表情を浮かべていた。


「実はこんな事もあろうかと用意してた物がありまして」


「なるほど、それはどういった?」


 用があるならさっさとしろと言わんばかりに目つきを鋭くさせ始めた颯真を横目に、來見は飛織のマイペースさに付き合う事にする。

 來見に促された飛織は鞄から更にもう一つクッキーの入った袋を取り出すと、静かに颯真の元へ歩み寄っていった。


「……これで一つ、黙っていただけるとありがたいです」


 近寄りがたい雰囲気を醸し出している颯真に微塵も物怖じしない飛織を見て、來見は思わず感嘆の声を上げる。しかしながら口止めの為に賄賂を送るという方法は來見には突飛に思えた。渡す相手によっては証拠を抑えられ、言い逃れが不可能になる下策であったからである。

 果たして颯真がどう出るのか、固唾を飲んで見守っているとため息をつく声が聞こえる。颯真は毒気が抜かれたのか、無言のまま数度頷くとクッキーを受け取っていた。


 飛織の作戦が成功したことに内心感心していると、颯真は二人を追い出すように片手を振る。物憂げな表情を認め、素早く荷物をまとめ始めた來見につられるように飛織も立ち上がる。

 資料室から退出する事を求められた二人は大人しく従い、静かに引き上げるのだった。


「それじゃあ、俺の用事は終わったんで」


 携帯電話を鞄に隠し、共に資料室を出た飛織が小声で來見に話し掛ける。手段はどうあれ、予め口封じの為に用意をしていた要領の良さは末っ子特有のものだろうかと一人考えていた來見は、飛織の言葉で我に返ると返事をする為に口を開いた。


「うん、また何かあったらメールでも電話でもしてくれ。図書室に俺がいる時に来てくれたら、目当ての本を探すくらいならしてやれるから」


「ありがとうございます。……それじゃ、また」


「またな。帰り道、気を付けて」


 小さく一礼する飛織が図書室から出ていくのを見届けると來見はカウンターに戻り、貰ったクッキーを崩したりしないように繊細な手付きで鞄へしまい込む。

 祝へ渡すものがあるから下校時に待ち合わせをしたい旨をメールで送ると、來見は気持ちが高揚するのを感じながら再び司書当番として仕事を続けるのだった。




 2022年、とある飲食店にて。

 休憩時間に入った飛織は厨房を出て靴を履き替え、更衣室でコックコートなどのユニフォームを脱ぐ。そのまま廊下を通り裏口から外へ出ると、マスクを外して姉である陽彩へ電話を掛け始めていた。


「……もしもし、飛織?ごめんね、さっきは仕事中に電話しちゃって」


「大丈夫。それで……何の用?父さん達の事?」


「そうそう!特に問題なかったよって伝えたくて。父さんはピンピンしてるし、母さんは調子に乗って動こうとする父さんを怒れる位には元気だよ」


 電話越しでも分かる姉の生気に満ちた声に、少々の煩わしさを感じながらも飛織は相槌を打つ。

 先日、父親が職場で急性腰痛――いわゆるぎっくり腰を発症してしまい、あわや入院沙汰となるところだったのである。母親は当初大混乱に陥り、姉弟に何度も電話を掛け落ち着きを無くしていたのだが、今やすっかり平常通りに戻っているようだった。


「……なら良かった。じゃ……」


「あっ電話切ろうとしない!まだ時間あるでしょ!」


「……何か話す事あんのか?この間、祝さんと遊びに行った話は聞いたけど」


 飛織が聞く事は聞いたと話を切り上げようとすると、陽彩は直ぐに釘を刺してくる。わざわざ休暇を取って実家に戻った為に暇だったのだろう。脳裏に癖毛気味の飛織とは違った、長いストレートのポニーテールを揺らして掃除をする姉の姿が浮かんでくる。

 飛織が諦めの気持ちで会話を促すと、陽彩は笑い声を溢し話を続けようと喋り始めた。


「ただの世間話だけど……飛織の働いてるお店、評判良いみたいじゃない。口コミでも広がってるみたいだし!前より忙しくなったりした?」


「忙しさはそこそこ。俺はスイーツ専門だから、提携してくれてる富良野(ふらの)さんの料理の味が良いのもあるんだろうけど……」


 色んな人の口に合うなら良かったよ、と言葉を続けると陽彩は飛織の好調さを自分の事のように喜んでいた。その勢いのまま陽彩の口は止まらず、忙しなく話し出す。


「うんうん!新商品のアイスも美味しいって聞いたよ!料理は産地直送の野菜が売りって言うし……私も食べに行きたいわ」


「……また時間のある時に来れば良いだろ。それからアイスよりもチョコケーキを食って欲しいかな、自信作だから」


「飛織って本当にチョコ好きだよねー。うん、買いに行く日は予約入れるから、ちゃんと取っといてね!」


「うん、分かってる」


 然り気無く自分の好みを陽彩へ押し付けた飛織は、姉の言葉を聞き目尻を下げる。両親だけではなく姉も健勝な事が分かり、知らず知らず安心していたのかもしれない。


 飛織はそろそろ電話を切り上げても良い潮時かと思い、別れの言葉を伝える為に口を開く。


「…それじゃ、そろそろ休憩終わるから」


「はいはい、またねー」


 陽彩は飛織とささやかでも談笑できた事に満足したのか、あっさりと引き下がり電話を終えた。飛織は通信が切れた事を確認するとスマートフォンをしまい、僅かに持ち上がっていた口角を隠すようにマスクを着用して職場へと戻っていく。


 再びユニフォームを着込み店内へ足を踏み入れると、盛況な様子が目に映った。飲食スペースには人が溢れ、レジ横のケーキが陳列されているショーケース前にも数人の列ができている。


 ふと待機列の中で、目立つ容貌をしている人間が目に留まる。

 その男は小麦色の髪を揺らし、飛織の姿をじっと見つめていた。目が合うとその不思議な色合いの瞳をゆっくりと細め、まるで数年来の友人と会ったように笑っていたのだった。




「どうもー社長サン。ケーキ買ってきたけど、食います?」


 合駕嵯(ごうがさ) (じん)は相も変わらず無遠慮に柏木(かしわぎ)の執務室へと立ち入ると、洋菓子の入った箱を揺らしながら問い掛ける。


「いらん。食事は決まった時間にしか摂らないと決めている」


「几帳面ですねぇ。飯の後、直ぐに歯磨かないと気が済まないタイプだろ」


「……」


 仁は黙殺された事も気にせず応接用のソファに腰掛けると、机の上でケーキボックスを開封して手掴みで食べ始める。口の中の物を食べきると、仁は事実を確認する為に柏木へ言葉を投げ掛けた。


「そういや、まるで飛織が例の日に死ぬような言い種だったけど、ユウラにヤクを飲まされたところで死ななかったんですよね。実際はもっと後に……乱用した挙げ句に吐いて、吐瀉物詰まらせて死んだんだから」


「……その未来を変える決定的な分岐点が、あの日だった事は間違いない。そもそも薬物を口にするという切欠が無ければ良い訳だからな」


「じゃあ、あの文面は來見の危機感を煽るように作成したって事ですか。なるほど、嘘はついてないしな」


 要するに來見に宛てたメールは、わざと情報を欠落させていたという事である。実際それは効果的に働き、來見は飛織のみならず陽彩を救う事にも成功していた。

 仁は柏木の返答に一先ずの理解を得ると、続けて気になっていた点を質問する。それは飛織の姉である陽彩についてだった。


「陽彩の行方不明についても、同じ理由で?あれも本当のところは飛織の死後に事故死が正しい訳だろ」


「不幸になる人間が多い程、回避する為に必死に動くだろう。ただ、愚直に事故死と記せばそちらに気を取られ、弟とユウラとの接触を許す事態になりかねない」


「迷わず飛織の元に行かせる為に、渡す情報の取捨選択をしたって事ですか。信頼してるんだか、してないんだか」


 柏木の気遣いは優しさかどうかは不明として、來見に求められる動きを誘導するには有効に機能していた。

 仁が一通りの答え合わせを終えると柏木も興味を失くしたのか、仕事に戻りキーボードを叩き始めた。柏木がいつもの調子に戻ったのを視界に捉えながらも、仁はお構い無しに話を振り続ける。


「飛織の死から数年後、確かに陽彩っていう人間は事故でいなくなるけど、代わりに悪名高い反社の女が産まれるって面白いよなぁ。そんな風には見えないのに」


「内向的な性格と躊躇いの無さは矛盾しないだろう。むしろそういう人間こそ、時には驚異的な行動に出る」


 復讐が動機なら尚更、とデスクに向かう柏木は仁と目を合わせる事もなく持論を展開する。その瞳には憐憫すら浮かばず、淡々と事実を述べているようだった。


「それにしても、弟を嵌めた奴と同じ組織に入ります?結果的にのし上がってユウラと、ついでにチカエをぶっ殺すとは言え」


「組織と言う物は内部から壊す方が容易い事もある。或いは……敢えて仇敵の傍に身を置く事で自分への戒めとした」


「自分が弟から目を離したせいでこうなった、ってか。酔ってますねぇ、可哀想な自分に」


 自身の死を偽装し、裏社会に身を投じてまで復讐を成し遂げようとする割に、自己陶酔する甘さがあるのかと仁は呆れた様子で息をつく。柏木は一瞬、仁に視線を向けるがその態度について言及する事はせず、改めて本題を切り出した。


「……そういえば、調査の結果は」


「おっ、忘れてましたねその反応は。姉弟の話してたのにスルーすんのかと心配になりましたよ」


「……姉の方は?」


 仁の挑発には乗らず、柏木は端的に陽彩の詳細な情報を要求する。仁は退屈そうに肩を竦めると手元のタブレットを起動し、報告を読み上げていく事にした。


「清廉潔白そのもので、裏社会とは何の繋がりもありません。ユウラやチカエとの接触もなし」


「弟の方は」


「特に問題なし。店も繁盛してるし、順風満帆ですね?」


 そこまで聞くと柏木はこれ以上聞く必要は無いと判断し、旧式の携帯電話を操作し始める。感謝を告げるメールを送信し、次に記すべき内容を思い返しながら目を閉じると、仁が独り言を溢しているのが耳に入ってくる。


「次、つぎ。次はまたキョーダイの話だっけ?」


「いいや、香椎(かしい)だ」


「あぁ、そういえば。記憶力がよろしい事で」


 ソファに寝転ぶ仁の疑問に間髪を容れず答えると、柏木は口を閉ざす。その様子から香椎の件は柏木にとって、非常に印象的な出来事だったのだろうと当たりを付けると、仁は再びタブレットを操作し始めるのだった。

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