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平成トランスポーター  作者: 夏名
12/54

5-3 似ても似つかない

 扉を抑え、白石(しらいし)を背負った皆本(みなもと)を先に通し(ほおり)が続けて通過するのを確認してからゆっくりと閉める。振り返ると二人が待っているのが目に入り、來見(くるみ)は小走りで駆け寄るのだった。


「白石、すっかり寝入ってるけど随分と疲れてたんだな」


「そんなに貧弱じゃなかったと思うんだけどな……前日から妙に張り切ってたせいで、体力が先に尽きたのか」


 ゆっくりと階段を降りながら話を振ると、皆本が來見へと目を合わせながら言葉を返した。その予測を聞いた祝は何かを閃いたように声を上げ、続いて意見を口にする。


「熱中症って翌日になる事もあるから、昨日の段階で白石くんはなりかけだったのかも。今日、体力が回復しきらない内に激しい運動をしたせいで、一気に疲れが来ちゃったのかもね」


「確かに前日も遅くまで練習してたし……今日も体育祭の為に朝練があったから十分に休めなかったのかもな」


 祝の予測を裏付けるように皆本が証言していくのを聞きながら、來見は思わず考えを口から出していた。


「つまり……白石は今日、いつ熱中症になってもおかしくなかったのか」


「そうかもね、でも今の状態は大丈夫だと思うよ。念のために保健室で先生に見てもらわないといけないけど」


「そうだな。暫く出る競技もないし……悪いけど保健室まで付き合ってくれ」


 皆本の要望を、來見と祝は一も二もなく引き受ける。三人は1階まで降りきると保健室へと足を進めるのだった。




「荷物、これで全部で合ってるか?」


「大丈夫だ、悪いな。俺はこいつの事を少し見ておくよ」


 保健医は白石を運び込んできた皆本に驚いたものの、直ぐにベッドへ寝かせるよう指示した。來見と祝は預かっていた荷物を返し、皆本の確認を取り終える。


「表彰式でも演奏するんだよな?頑張って」


「無理しないでね、それじゃあまた」


 ここまで来れば用は済んだと思い、二人して別れの挨拶を口にして保健室から退出しようとする。扉を閉めようと振り返るとそこには皆本が立っており、來見が驚いて体を揺らすと徐に口を開くのが見えた。


「今回の事、俺一人だったら対処できなかったと思う。二人がいて本当に助かった……ありがとうな」


「來見くんが気付けたからだね」


 堅物そうに見える上がり眉を八の字にして、しかししっかりと目を合わせながら皆本は少し照れたように感謝を述べる。その言葉を受けた祝にも続け様に褒められた事で、來見は思わず気恥ずかしくなりながら言葉を返した。


「いや……とにかく、何事も無いなら良かったよ」


「うん……そんだけ、じゃあな」


「おー」


 互いに口ごもりつつも別れの挨拶をすると皆本は視線をそらして頭を引っ込める。次の瞬間、目の前で扉がピシャリと閉められたのは照れ隠しだったのだろうか。忍び笑いをする祝の声を背に、來見は頭を掻きながらグラウンドを目指すのだった。


「來見くんってもしかして、人を助ける星の下に生まれてきてる?」


「うーん……どうなんだろう。それはちょっと胃が痛くなりそうで、複雑だな」


 静かな廊下を歩きながら祝の質問に答えていく。先天的なものではなく転送装置(トランスポーター)のせいでそうなってしまっている状態を、どう受け止めるべきか來見にもまだ分からないでいた。


「お人好しだから、そういうの引き寄せちゃうのかもね」


「まぁ人の手伝いをするのは嫌いじゃないけど、限度はあってほしいかな……」


「それはそうだね、へとへとになっちゃうし。体は大事にしないとね」


 來見は意図せず愚痴を溢してしまうが、祝は優しく相槌を打ち気遣う様子すら見せる。そんな祝の態度に一人胸を打たれていると、不意に思い浮かぶ事があった。


(あれ……もしかして、今が再び早味(はやみ)に誘う良い機会だったりするのか?)


 廊下には二人の他に誰一人おらず、会話を切り出すにはこの上ない状況のように思える。來見は香椎(かしい)の言葉を思い出し、自身を鼓舞しながら口を開こうとした。


「……あのさ、この間の事なんだけど……」


「あっ!もうこんな時間!ごめん私、棒引きに出ないといけないから先に行くね!」


「あ、あぁ……」


 携帯を取り出し時間を確認した祝は、來見の言葉に食い気味で捲し立てると走り出してしまう。來見はその勢いに呑まれそうになりながらも、辛うじて言葉を返す事しかできなかった。

 祝の背中を見ながら來見は沈黙してしまう。それでもこのまま何も言わずにいれば、必ず後悔するだろうという事を自分でも理解していた。


「……あのさ!この前に言ってたカフェの話なんだけど!体育祭が終わった後!また予定を合わせて一緒に行かないか!」


 勇気を振り絞り声を張り上げると、祝はピタリと動きを止め來見の方へ振り向いた。その顔には溢れんばかりの笑みが浮かんでおり、來見に向かって大きく手を振る。


「喜んで!」


「……棒引き、応援してる!頑張って!」


「うん!見ててね!」


 あっさりと承諾された事に言葉を詰まらせた來見は、何とか返答を絞り出す。次に口から発されたのは何故か激励の言葉だったが、祝は嬉しそうに聞き入れ今度こそグラウンドに走り去って行ったのだった。


「ただいま」


「おー散歩してた?」


 白団の応援席に戻り香椎に声を掛けると、トイレにしては随分と時間が掛かっていた事に疑問を持ったのか、遠回しに質問をされる。來見はわざわざ嘘をついたりはせず、正直に伝える事にした。


「うん。他のクラスの奴らと話してた」


「へー、あっ棒引き始まるぜ。女子同士の壮絶な戦い、見届けないと」


「また大袈裟な言い方して……」


 プログラムを眺めていた香椎が楽しげに靴を履くのを見て、來見はつい苦笑いをする。しかし祝にも応援すると言った手前、最前列で見守る事にしたのだった。


 棒引きはグラウンドの中央に置かれた複数の竹棒を、自分の陣地を示すラインまで引き摺り持ち帰るという種目である。

 要するに綱引きのようなものなのだが、勝敗は制限時間内に入手した竹棒の合計数で決定する為、自分がどの竹棒を取りに行くべきなのかという素早い取捨選択が求められる競技であった。


 結果は勝ったり負けたりと必死の攻防を繰り広げており、現場は混迷を極めていたが祝は最初から最後まで楽しそうに裸足で駆け回っていたのだった。


(とうとうこの時が来てしまった……)


 棒引きが終わると來見にとっては悪夢のような時間がやって来る――そう、騎馬戦だ。

 三人の支え役である騎馬と上に乗る騎手が4人一組となって編成され、騎手同士が着用した帽子を取り合う種目である。

 來見達が出場するのは総当たり戦で制限時間付きで競い合い、最終的に帽子が取られず残っていた騎馬の数で勝敗が決まるものだった。

 幸いと言うべきか、來見は後方の右手側を担当する為に支えながら付いて行くだけで良かったのだが、現実はそう甘くはなかった。

 何しろ上に乗る騎手が香椎で、前方の騎馬を受け持つのが更田(こうだ)である。練習の時から薄々気付いていたが、この二人が揃っているのに消極的な動きをするはずもなかったのである。


(頼むから颯真(ふうま)と戦おうなんて思うなよ……俺達の為にも)


 もみくちゃになる未来を幻視し、後方の左手側を担うもう一人のクラスメイトを哀れみながらも、來見はそれを声には出さなかった。言うだけ無駄なのが分かっていたのである。

 遠い目で思考を明後日の方向へ飛ばし掛けた次の瞬間、來見の耳は応援する声を聞き取っていた。

 ふと応援席を見やると声を出している祝が見えた。來見と目が合うと微笑み、先程のように大きく手を振る。


(……精々頑張ろう)


 來見は存外単純だったようで、見る見る意欲を取り戻す。せめて無様な姿は見せまいと努力したお陰だろうか。結果的に最後まで生き残り、悪くない戦績を収める事に成功したのであった。


 総当たり戦が終わると、各々が予め決めていた大将騎馬と呼ばれる選手のみがその場に残る。

 学年ごとに行われる、大将戦と呼ばれる一騎討ちの迫力に恐々としながら声援を送っていると、颯真率いる赤団が勝利するのが見えた。


(そりゃあんなでかいの出てきたら負けると思うよな……)


 來見は颯真と戦う事になった選手各位に同情の念を抱きながら、全ての大将戦が終わるのを見守る。最終的に心持ち赤団の勝率が高いのを認識しつつ、選手達は退場口に引き上げていくのだった。


 得点を争う競技も残すところは全校対抗選抜リレーのみとなり、來見達は選抜選手である更田や香椎、祝を見送る。

 來見が屋上のスコアボードを見ると得点が隠されており、どの団が優勝するのか、もはや分からないようになっていた。


「良いもん持ってきてやったぞ~はい、あげる」


「うわっ」


 何処から運んできたのか月退(つきのき)に旗を渡され、來見は思わず受け取ってしまう。見た目よりも感じる重たさに慌てて両手で支えると、つい異論を唱えてしまった。


「いや、そこは自分で振るところじゃ……」


「交代しながらなー來見が最初にどうぞ」


「……俺も途中で変わるから。佑斗(ゆうと)、よろしく」


「……やれば良いんだな、やれば!」


 月退に加え(はやし)にも頼まれてしまった來見は吹っ切れたように旗を大きく振り、応援を始める。

 來見のそんな姿を囃し立て、出場選手達にも声援を送り始める月退に合わせて二人も声を上げていく。

 応援の甲斐あってか顔馴染みの選手達は皆驚く程の健闘を見せ、学年対抗リレーの雪辱を果たすように勝負を制したのであった。


「お疲れ」


「お疲れ!いやー良かったよ1位取れて!自分達の努力の成果だな!」


「後輩も先輩達も皆頑張ってたからなぁ。後は結果を待つだけか」


 リレーを終え応援席に戻ってきた更田と香椎に労いの言葉を掛けると、二人はどっかりと座り込みそれぞれ返事をする。

 後方に眼を向けると祝は友人に労われており、來見と目が合うと微笑みを返したのだった。


「我ながら結構いい働きをしたと思うんだよな、自分。……優勝できねぇかなぁ」


「全然あり得ると思うけどな。詳しくは覚えてねぇけど、そんなに点差なかった気がするし」


「うん。皆頑張ってたから悪くない結果だと思いたいな」


 腕を組み難しい顔をし始めた更田に、香椎が元気づけるように言葉を掛ける。來見は同意を示しつつも、これまでの苦労が報われる未来を願う事しかできなかった。


「まあ、俺はあんまり貢献できた気がしないけど……」


「自分はやる気のある人間が努力してないとは思わないよ。つまり、來見は十分頑張ってた!」


「そうそう、それにその辺は適材適所ってヤツだろ。気になるなら次、文化祭とかで頑張れば良いじゃん」


「……そうだな、そうする」


 運動に自信の持てない來見がつい弱音を吐くと、更田が強めに背中を叩き激励する。香椎が足を投げ出しながら助言するのを聞き終えると、來見は静かに返事をするのだった。


 最後の種目、余興である部活対抗リレーにおいて後輩の浦部(うらべ)や見知った面々へ声援を送り終えると、あっという間に閉会式を迎えていた。

 入場行進の際と同じく救護用テントの横には楽団が整列しており、すっかり元気になった白石と皆本もいるのが分かる。

 一方生徒達は屋上に置かれたスコアボードを見つめ、隠されていた得点が露になる時を待っていた。

 緊張感が漂う中、ドラムロールが生で演奏されるのに合わせて一斉に各団の結果が発表される。歓声と悲鳴、慟哭が響き渡り來見は前後から人がぶつかってくるのを感じていた。

 何度見直そうとも結果は変わらず、そこには確かに白団の優勝が明示されていたのであった。




 2022年、昼下がり。

 柏木(かしわぎ)アイソレーションのとあるフロアで、白石は社内SEとして他部署から受けたシステムについての問い合わせへ応対を行っていた。


「ちょっと良いですか?」


「はい?」


 白石が受話器を置いたのを見計らって、突如背後から掛かる声があった。振り返るとそこには小麦色の髪を持つ男、合駕嵯(ごうがさ) (じん)が佇んでいた。


「えーっと、どうしましたか?何かトラブルでも」


「いえいえ、それが柏木社長が白石サンの事をお呼びでしてね。今、お時間よろしいですか?」


 白石の疑問に対し、仁は元から笑っているように見える半ば閉じた垂れ目を、より一層細めて言葉を返す。白石としては上司からの呼び出しを断る理由もなかった為に、大人しく付いていく事にする。その足取りは全く危なげなく健康そのものと言って良い、確かな歩みだった。


 白石から断りを入れられ、残された他の社員達はこそこそと噂話をし始める。仁の顔は社内で広く知られており、人の口に戸が立てられないのは仕方のない事だった。


「今のって本社から来てる…」


「合駕嵯代表の一人息子さんでしょ!白石さん何したんだろ」


「もしかして、ヘッドハンティングとか?困るなぁここまで育てて来たのに……」


「白石は元から優秀じゃないですか。本当に引き抜きとかあり得そうだなぁ」


 社員達が根拠もない想像で好き勝手に言い合っている一方、白石は仁に連れられ最上階に到着していた。

 エレベーターホールから社長室のある区画に入るには、中から開けてもらうか専用のカードキーが必要であった為に、二人は暫し立ち止まる。

 仁は懐から鈍い銀色に光るカードキーを取り出し機械に翳すと、開かれたドアの傍で黙って手招きをする。白石は厳重な警備に少し気後れしながらも、そっと会釈をしてドアを潜り抜けるのだった。


(こんな至近距離で会ったの初めてだったけど、本当に不思議な目の色してるんだなぁ)


 先導する仁の後ろを歩きながら、白石は先程見えた瞳の色を思い浮かべる。仁の左目は明るい金色をしていたが、右目は明るい金色と青色が混在するという珍しい特徴を持っていた。


(キャーキャー言われてる理由の一つなのかもなぁ……)


「ハイ、失礼しまーす」


「……えっ!?」


 白石が恐らくこの先何の役にも立たないであろう分析をしていると、いつの間にか社長室の前まで辿り着いていた。仁が伺いを立てる事もせず入室するのを信じられない思いで見つめていると、有無を言わせず引きずり込まれてしまう。


「……何をしてる」


「嫌だな社長サン、忘れちゃったんですか?彼ですよ、白石 昂生(こうき)サン。何か用があるんですよね?」


 資料の束を左手に移動させ顔を上げた柏木は、分かりにくいが声に静かな苛立ちを滲ませているようだった。

 白石は困惑し立ち竦んでしまうものの、どうぞどうぞと仁に柏木の前に立つように背中を押され、されるがままに従ってしまう。

 混乱していたせいだろうか。柏木がため息をつき眼鏡のブリッジを押し上げるのを見て、不意に先日飲み会で会った皆本の姿が白石の脳裏をよぎっていた。




 その日は久しぶりに伊斗路(いとみち)高校吹奏楽部の同期で集まる日で、出席した人々はあちらこちらで積もる話に花を咲かせていた。


「よ、久しぶり」


「久しぶりーナモ、眼鏡からコンタクトにしたんだ」


 少し遅れて飲み会に加わった白石は、目に付いた皆本の変化を指摘する。

 社会人になって白石が髪を短く整えたように、皆本も髪を七三分けにセットするようになっていたのだが、以前会った時よりも更に外見を変化させていたのだった。


「眼鏡無い方が威圧感を抱かせないと思ってな。たまに間違って、何も無いのに眼鏡を直そうと手が動いちまう」


「あーよく聞く話だ、それ。こればっかりは慣れだね」


 手が空を切る仕草を皆本が実演するのを見ながら、白石は相槌を打つ。容姿に関しては昔から厳しい性格に見られがちな事を気にしていた為、印象を和らげようとしたのだろう。それ以上も以下も無いと分かっており、敢えて触れずにいたのであった。

 ふと視線の合った皆本の目元に深い隈が刻まれている事が分かる。よく見れば顔色もあまり良くない事に気付いた白石は理由を聞く為に口を開いた。


「どうしたのその隈。ちゃんと寝れてる?」


「あぁ、これな……実は最近、急に大規模な人事異動があったんだけど……」


 一旦言葉を切り、酒を呷った皆本はかなり参っている様子だった。白石は酌をする事で労りを示し話を続けるように促した。


「詳しい事は言えないんだけど、とにかく……何かデータ管理に不備があったらしくて。もうその対応が本当に本当に……」


 守秘義務故に詳細はぼかしながらも、皆本は大きなため息をついて草臥れた様子を見せる。口振りから察するによっぽど対応に奔走したのだろう。


「……よし、今日は呑もう!忘れよう!」


 皆本が愚痴をこぼす姿を白石は珍しいものを見たなと思いながら、元気づける為に追加で注文する事にした。

 白石と同様に心配した友人達が代わる代わる皆本を励ましに来ては、皆本も律儀に一人ひとりに目を合わせて言葉を交わしていく。

 白石は、或いは皆本も同期達の優しさを感じながらその日は飲み明かしたのだった。




「……君の所属するチームは最近、目覚ましい活躍だと聞いている。ミスも少なく優秀だとか」


「……光栄です。そうですね、先輩方の指導の方法が的確なのだと思います」


 互いに思案に沈んでいた為に沈黙が室内を支配していたが、会話の口火を切った柏木に続き、現実に引き戻された白石も言葉を返す。

 柏木は一瞬、鋭い眼差しを仁に向けたように思えたが、白石が瞬きをするとどこか遠い目をした捉え所のない表情に戻っていた。


「……君が個人で提出したプログラムも確認させてもらった。少々粗はあるが、見所がある」


「あ……ありがとうございます!」


「チームで改良してもう一度持ってくると良い。出来によっては導入も検討するつもりだ」


 眼鏡を外し汚れを確かめるように検分し始めた柏木を見て、皆本と共通する点は眼鏡を掛けている事しか存在していないと、はっきり認識する。声も顔立ちも似ても似つかない上に、何より皆本は話をする時は相手の目を見る人間であった。


「……恐縮です、精一杯尽力させていただきます!」


「あぁ、期待してるよ」


 不躾にも上司と友人を比べ、差異がある事を確認しているとはおくびにも出さず白石は返事をする。柏木は本心がつかめない、熱を感じさせない声色で激励すると白石を退出させるのだった。


 白石が去るのを見届けると、柏木は左手に置いてある資料の下から、咄嗟に隠した旧式の携帯電話を取り出した。眉間に皺を寄せながら新規のメールを作成すると、いつものように感謝を伝える文面を打ち込み、送信する。


「全然焦らねぇよなー俺の行動はお見通しって訳ですか」


「……もし白石にこれが見られていたら、対処しなければならないところだった。……分かっているな」


 目を細めて茶化す仁に、柏木は言葉少なに警告を与える。圧力をかけられた仁は肩を竦めると口を開き、適当な返事で答える事にした。


「はいはい。それにしてもよく口が回るよなぁ、少し時間があれば尤もらしい会話で取り繕える。どこで磨いたんです?その能力」


「必要とされるスキルだったから身に付いた。それだけの事だ」


 説明するのも面倒臭いのだろう、柏木は具体的な事は何一つ提示せずあしらうように言い捨てた。用の済んだ携帯電話をデスクにしまい込むと、その反動でストラップに付いた鈴の音が響き渡る。


「それはまた、大変な人生ですねぇ」


 質問した仁も、本気で知りたいと思って聞いた訳ではなかった。雑な相槌を打ち煙草をふかし始めると、やがて室内は沈黙に包まれるのだった。

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