転-3
「ロナウド様の婚約者は恐ろしい方と聞く。致し方あるまい」
「ええ、団長が不在の間、かなり我慢しているようでした。僕も何度かお茶しましたけど。
首にナイフを当てるような殺気を放つ人ですし」
「人類最強と言えど、女には敵わねぇってことか」
久々の三人だけの会話。
ジンは懐かしさがあった。
「そうだな。取り敢えず団長の指示通り進めるとしよう。その前に、ジン本当にすまなかった」
するとリグラントがジンに対し、深く頭を下げる。
「行き違いとはいえ、ジンには負担をかけた。部下とはいえど何度も事務面で迷惑をかけたと聞く。更には団長の業務も殆ど、君がしていたとも」
「なに!? そうなのか」
ユウシェも初めて知ったようだ。
「なら俺からも謝らせてくれ」
そうしてリグラントとユウシェは、ジンに対し深く、深く頭を下げた。
「分かりました。僕の部下たちのこともありますから許しません。
なのでこれから三年前の第三に戻す。いや超えるまで復活させましょう。それで許します」
「了解した」
「おう!」
ロナウドは頭を抱え歩いていた。
(不味い。普通、三年間も放ったらかしにして、ただで済むわけがない。何か炎国の菓子折りの一つでも用意すべきだったか?
いやだとしたら旅行に行っていたのか? と言われそうだ。正直に言うしか。
しかし会うにしたって、何と話せばよいのか。和国流の「ドゲザ」でもすべきだろうか。
いや…………)
「こちらになります」
すると執事が部屋まで案内し終えた。
ロナウドの思考は中断される。
震える手で扉を開く。
「た、ただいまー」
せめて笑っていおうと苦笑いをした。
部屋には一人の女性。しかし部屋は分厚いカーテンと灯されていない灯りで、薄暗かった。
ロナウドは目を鍛えているので、誰がいるのかくらいは分かる。
濡烏色の髪を三つ編みに、真っ黒の模様の無いキモノ。折れそうなほど細く、色白の肌。それに反してティアに負けないほどの山。
他国では美人の評価が変わってくる。しかし目の前の女性、闇エルメリアは剣国の物差しでも超絶な美女だと評価できる。
「ひ、久しぶりだなエルメリア。少し痩せたんじゃないか? よく食べないといけないぞ。そういえば炎国ではーー」
ヒュンッ。
「ヒィッ」
喋るロナウドの首元に闇の槍が襲う。
(んな!? 殺す気かっ)
するとエルメリアはソファから立ち上がる。一歩、一歩と動けないロナウドに歩み寄る。そして細い手で、ロナウドの顔に触れる。
「貴方様、今までの三年間何をしていたので?」
何の感情もない表情と冷えた声。
「あー、ハハハ。炎国の英雄になってたかなー、ゴヒュッ」
するとエルメリアが足を思いっきり振り上げた。
その足は股間に直撃する。
「うぉぉぉ」
ロナウドは股間を抑え、前に倒れる。
「こんなことで許されると思って?」
「すまなかった。こんなことで許されるなら、いくらでも蹴られるさ」
痛みに苦しみながらも、ニカッと笑顔を浮かべる。
エルメリアは手で目を覆い隠す。
そして闇がロナウドを持ち上げ、両膝立ちにさせる。
「次はどのような拷問が?」とロナウドは身構える。しかし予想を外し、顔に柔らかい感触を感じた。
「三年もワタクシを放っておいて。他の男の物になったらどうするの? 本当に貴方様は気が利かない男ですこと。せめて手紙の一つで寄越して」
エルメリアはロナウドを攻める言葉を言う。しかし抱きしめる強さと、頭に落ちた水滴。
ロナウドを本当に心配していることは分かった。
「俺を待っていてくれて、ありがとう」