転-1
ーーー転
剣国の首都は、ある伝令に震撼した。
それは英雄にして人類最強。第三騎士団団長ロナウド・ジークハルトの帰還。
城に向けられた吉報は、いつの間にか城下町まで広がった。そして英雄の帰還を一目見るため、騎士や民、多くのものが一目、見ようと集まった。
「こんなことになるとは」
「キヒヒ。本当にロナウドは有名人だな」
リアムは馬を横に並べ笑う。
二人は騎士の先導のもと城下町を歩いていた。
城までの道には多くの民が、二つに分かれている。全員が待ちわびていたのだ。熱狂は凄まじかった。
「「「ロナウド様ー!」」」
特に女子供は凄まじかった。
ロナウドは声を上げた女性たちにニカッとした笑顔で手を振る。
「「「キャー!」」」
「ハハハ……」
思った以上の熱狂に苦笑いであったのは否めない。
「ロナウド様! また飲みましょー」
「うちにも来てくだせぇ!」
「こっちにも笑顔をくださーい!」
そんな温かい声は剣国の危機を忘れさせる。
しかしそんな中にも敵の密偵や暗殺者の姿もあった。
「キャー!」
一○人の武装集団が進行方向を阻んだ。その者たちは剣を手にし、斬りかかった。
「剣を持ってるぞ!」
「暗殺よ。巻き込まれるわ」
「押すなよ!」
そんな武装集団から逃れるため、民たちは逃げ出す。しかし逃げることでドミノ倒し、倒れた者を踏むような慌てようだ。最悪死人が出る。
「不味い襲撃か! いや民たちが」
騎士たちは武装集団と民たちの慌てように判断が追いつかない。
しかし一人、ロナウドは違った。馬に立ち、そこから真横に飛んだ。そして地面を蹴る。
馬上からの落下と地面を蹴った推進力。
一瞬で武装集団の前に立つ。
そして一閃。
一○人の体は半分を断絶された。
「落ち着けぇ!!!」
ロナウドの一喝。
全員の目が一つに集まる。
右手のレイピアを上げる。
「私、剣国の英雄にして人類最強! 第三騎士団の団長。ロナウド・ジークハルトは帰ってきた!」
その宣言の後には、先程までの混乱は一切無かった。
「んな!?」
リアムは目の前の光景に目を見開き、口を半開きにして驚いた。
二人は城にたどり着き、服装を変えた。
ロナウドは騎士団の制服。
胸に国旗が描かれた物だ。
リアムは炎国の軍服。
黒い毛皮を使ったコート。コートには勲章が付けられている。中は長シャツと長パンツ。
先までの村の男の子のような姿ではない。炎国の軍人らしい、男らしさが際立った姿だ。
着替えた二人は聖女への謁見に向かう。
そこでリアムは目の前の光景。
正確には剣国の聖女ティア・シュトレイン。
更に正確には、その胸に目を見開いていた。
その差は圧倒的。
リアムが平地であれば、ティアは山。
それも世界で一番高い山だろう。
「第三騎士団、団長ロナウド・ジークハルト。御身の前に参上いたしました。
再び、お目通り叶ったこと嬉しく思っております」
ロナウドは騎士の最敬礼をしている。
片膝を付き、頭を軽く下げ、右手を胸に、左手を後ろに置く姿勢をとっている。
一方、リアムは驚きで直立不動のまま、目を見開き、口を半開きにして固まっている。
「ええ〜、帰りを待っていましたロナウド。頭を上げてください。それで〜、そちらの方は……大丈夫ですか?」
ティアはリアムを見て、心配そうにする。
ロナウドもそんなリアムを見た。
「リアム様。……リアム様?」
反応の無いリアム。
ロナウドは片膝をついたまま、横に移動する。そして手で腰を叩く。
「ハッ」
意識を戻し、リアムは状況を整理する。そして伸縮の杖を出し、先で地面を叩く。
「俺は清リアム。炎国の聖女にして『炎雷のリアム』だ」
炎国なりの挨拶。
名前、所属、二つ名を言う挨拶。
その挨拶にこの場にいる者、全員が驚いた。
伝令ではロナウドの帰還のみ伝えられていた。しかし実際はロナウドと聖女リアムの二人。
さらには国の最重要人物である聖女本人。
当然、伝令で伝えられないこと。今、知ったために驚きは大きい。
男装に近い見た目で、聖女ではないと判断したのが殆どだろう。
ティアは王座から立ち、階段を降りる。そしてリアムと目線を合わせた。
腰から曲げた一礼。
ゆっくりと丁寧な彼女の性格を表すような動作。
「ようこそ〜、遠路遥々、炎国からお越しくださいました〜。聖女リアム、お会いできて光栄です」
「う、うむ! 俺もだ」
そんなリアムの目は、未だティアの山に向けられている。
「一つお聞きしたいのですが〜。何故、聖女リアム、ご自身が何故、剣国まで〜?」
これはティアの純粋な疑問だった。
聖女は国の最重要人物。守るためというが、実際は幽閉されている。
そのためティアも他国の聖女と出会うのは、今日が初めてだ。
直接的に言うなら「危険を犯してまで、他国に来た意味は?」と問いているのだ。
簡単な話ではあるまいと予想している。何か命以上に重要な要件があるのだと。
宰相やその部下たちもリアムの言葉に集中していた。