承-3
「急げ! 全速力で走らせろ!」
騎士の集団が、馬を全速力で走らせ向かっていた。
その方向は先程まで黒い煙が立っていた。
「煙は無い。敵はいないかもしれないが油断はするな!」
第一騎士団副団長ラーゼンの指示に「おう!」と声を揃える。
馬に乗ったまま村の入り口を通過した。
スピードを落とし、小走りで進む。
「火がない。どういうことだ?」
家々は黒く焼かれた跡が残っている。しかし火は鎮火されていた。
ラーゼンは今までの状況と違うことに疑問を持っていた。
今までは村人たちを殺し、捕まえる。そして村を焼いて、おびき寄せていた。
しかし火は消え、死体が無い。
他の騎士たちも同じく辺りを見渡して、同じことを思ったようだ。
村の中央に進むと人の村人たちの集団を発見した。
ラーゼンは馬を集団に走らせた。
村の中央では女子供が主導で死体の整理をしていた。
「私は第一騎士団副団長、ラーゼンだ! 代表者は居られるか!」
馬を集団の前で止める。
村人たちは目を合わせる。そしてある方向へと目を向けた。
ラーゼンも見る。
そこには一人の男の後ろ姿。
戦士特有の上半身が異常に発達した逆三角形の体。サイドパートの髪を流して櫛で整えられている。
獣人の少女と何事か話している。
「んな!?」
それを見てラーゼンは目を見開いた。慌てて馬から降り走る。走る途中、躓いたが気にしない。
「ロナウド様!」
「ん?」
するとロナウドとリアムが振り返った。
「おお! ラーゼンじゃないか。久しぶりだな」
息を荒くして驚いた顔のラーゼン。
その肩を叩く。ロナウドはニカッとした笑顔で、変わらない男らしさを感じさせる。
「な、あ……え」
ラーゼンは言葉を無くして口を開いている。
すると後ろから騎士たちが続く。そして驚いている姿を見て、何事かと見た。
「え? 誰だ?」
「まさか!」
「ロナウド様か」
最後の言葉に騎士たちは、すぐさま跪く。
「あー、構わん、構わん。今は城じゃない。というか久しぶりだなー、お前ら。昔はよく一緒に訓練を共にした。懐かしいなー」
ロナウドは驚く騎士たちを前に昔話をした。
「ロナウド。この騎士、らーぜん? が固まっておるぞ? どうにかせい」
「ん? ああ、そうですね。おい、ラーゼン口が空いておるぞ」
ラーゼンの顎を押し上げる。
そして彼も跪いた。
「ロナウド様。まさかこんなところで会えるとは、皆様がお待ちしておりました。是非とも我らと共に砦に」
「ハハハ、うむ、そうか。そうしたいが、まずこの村を片付けよう」
手を向けて山を見る。
ロナウドが手を向けた場所には並べられた死体たち。そこには息がない村人たちと黒に統一された服装の襲撃者たち。
しかし襲撃者たちは体がバラバラにされていたが、綺麗に並べられている。
「襲撃者たちを誰がとは、聞かなくても分かりますな。了解しました。我らも手伝うとしましょう」
砦では騎士たちのざわめきが起きていた。
その原因はラーゼンたちに続いた一人の男。
剣国の英雄にして『断絶』の能力者。そして人類最強の男、ロナウド・ジークハルト。
騎士団員であれば知らぬ者がいない。三年前と変わらない姿で分からない訳がなかった。
「こちらです」
ロナウドは砦内を進んだ。
「おお、久しぶりだなガイア」
第一騎士団団長の隻腕の騎士、ガイア・シュトレイン。
ガイアは険しい顔が消え、目を見開いた。そして笑みを浮かべ、拳を出した。
ロナウドもそれに合わせ、手のひら、手の甲を合わせ、もう一度、拳を合わせた。
二人の独特の挨拶が終わる。
ロナウドは遠慮無く椅子に座った。
「本当に久しぶりだな! それで戦況は?」
ニカッと笑った後、すぐ仕事の顔に戻った。
後ろについてきたリアムも隣に座る。
ガイアは地図を指差す。
国境線と砦。そしてバツ印の村を順に指を指した。
「ん?」
リアムは当然ながら疑問符を浮かべる。
「なるほどなあー。戦線は硬直、誘き出すために村々を襲っているか。避難命令は?」
「もうしている」と手を少し上げた。
「まあ戦争になっている訳ではないしな。銃国とは初戦だ。こんなことになるとは思ってもいないのだろう」
「そういうことだ」と肩を落とす。
「ん? ん? ロナウド、分かるのか?」
ガイアは一言も喋っていない。
ロナウドはそれを理解して会話している。
周りから見れば、おかしな状況だろう。
「ああ、紹介がまだだったな。コチラは」
「うむ! 俺は炎国、聖女リアムだ! よろしく」
リアムは立ち上がり、ガイアに拳を出した。
銀で尖った耳と尻尾。同じく銀色の刈り上げ、鋭い目に童顔。ノースリーブで短パンと、村にいる少年のような格好だ。
知らぬ者が見れば、ただの獣人の子どもと思うだろう。
ラーゼンは「炎雷のリアムか?」と声を漏らし驚く。
ガイアは出された拳にどうするべきか悩んでいた。
「リアム様。拳を合わせるのは挨拶ではないですよ」
「ん!? そうなのか。剣国流の挨拶かと思ったが、恥ずかしいな、キヒヒ」
そして拳を戻し、席に座る。
「それでどうして防戦一方なのだ? 攻めればよかろう?」
「剣国の聖女は知っていますか?」
「いや、知らん!」
ロナウドはリアムの堂々とした物言いに「ですよね」と肩を落とす。
「『盾の聖女』と呼ばれています。能力は人や建物に結界を生み出し、国を守る。巨大な都市や砦には結界があります。
国の防衛には特化しています。しかし侵攻には向かない」
「なるほどな! 俺とは正反対だ」
騎士たちはリアムの二つ名『炎雷のリアム』を思い出し頷く。
リアムは唯一戦う聖女。
「であれば俺が一撃加えてやろうか? そうすれば銃国もビビる。キヒヒ」
ロナウドだけは、リアムの本気とも見れるジョークに笑う。
「聖女様、ロナウド様。どちらにしても早く首都に向かったほうがよろしいかと」
ラーゼンが口を挟む。
それにガイアも頷く。そして三本の指を立て、両指でバツを作る。
「ん? なに。第三が?」
「ええ。現在、第三騎士団は分裂状態。副団長ユウシェと副団長リグラントの派閥に割れ、騎士団としての仕事が出来ていません。更には二派閥が顔を合わせると喧嘩が、必ず騒動を起こすそうな」
ロナウドは自分のいなかった間の三年間。その変化に驚き、目を見開いた。
「そうかアイツら、ったく。仲良くしろと言っていたのに」
頭を抱え、親のように怒りを見せた。
「現在は副団長ジンが、仲裁や後片付けをして夜遅くまで頑張っているそうですよ」
ロナウドは頭を叩く。
「いかんな」
それだけロナウドが開けた穴は大きかったのだ。
ガイアは小指を振り、両指で鬼のポーズをする。
「なに、エルメリアがか。はぁ、帰りたくないなぁ」
ロナウドの珍しい弱腰。
リアムは英雄のそんな姿に驚いている。
「エルメリアって?」
リアムがラーゼンに耳打ちをする。
「ロナウド様の婚約者です。恐妻家のようで」
それを聞き「なに!?」と口パクをして驚く。
「待っている者が多い。早く帰れ」
バシッ。
ガイアが背中を叩く。
弱腰のロナウドに喝を入れた。
「ハハハ、そうだな」
背中を擦りながら立ち上がる。
「ということはガイアは待っていなかったのか?」
「ハッ、久々に酒を飲み交わしたいくらいだ」
「いい酒を持ってくる。それまで耐えてろ。戦いは俺が片付けてやるさ」
リアムも驚きから戻り、立ち上がる。
「ロナウド様、護衛は?」
「人類最強にか?」
「不要ですね」
「少しの間、頼んだぞ」
そうしてロナウドとリアムは剣国の首都へと向かった。