承-2
動物のような素早い走り。体を低く、二本のレイピアを下に向ける。和国のシノビのような走りだ。
そして黒い服装の目標に対して、一瞬で距離を詰める。
二本のレイピアは敵を断絶する。
二振りすれば敵は四つの塊に変わる。
一瞬の攻防。
いや攻防ではなく、一方的な殲滅。
「まじか焼きすぎだろ!」
リアムは燃やされた家屋の前に立つ。
そして手に持った棒を振る。棒は振ったことにより伸び、指揮棒ほどの長さになった。
指揮棒を振るい火を操る。
すると家屋の炎は指揮棒の先に収束された。歩きながら次々に炎を鎮火していく。
だが家は燃えた跡が残る。
「なんと酷い。これが人のやることか」
リアムは悲惨さに声のトーンを落とし、目を背けたい気持ちになる。
足元に落ちる断絶された死体を見る。
見事に断絶され、断面が分かりやすい。
(ロナウド、お前は)
周りを見れば、ロナウドが断絶した死体が転がっている。どの死体も痛みの顔は無く、斬られたことに気づかず死んだことが分かる。
「俺の仕事を済まそう!」
リアムは引き続き鎮火活動を続けた。
「隊長はどこだ? 誰か見た者はいるか」
誰もが首を横に振る。
女子供を積んだ馬車近くでは、襲撃者たちが隊長不在に困っていた。
「待つか」
指示がないために、それぞれで自由にしている。
女子供にちょっかいを出す者。家から略奪をする者。死体斬りをする者。
誰もが簡単な仕事だと楽しんでやっている。
これから死ぬとも知らずに。
「ぎゃっ」
一人の漏れた声。
「ん?」
チラッと目をだけ向けた。
そこには沢山の血の池が完成していた。
池の中心には断絶された死体。
「は?」
疑問符を浮かべた瞬間、目線が地面に落ちた。
「敵襲! 敵襲だ、ギュァ」
その光景に気づいた者が大声で叫ぶ。
全員が慌てて剣を手に持つ。しかし全員は一○人ほどだ、殆どが血の池を作り死んでいる。
馬車の女子供たちも突然のことに目を向ける。しかし目の前の血の池に怯えた様子を見せる。
「何もんだ!?」
襲撃者たちは狩られることに怯えた。
「集まれ! 集まって向かい撃つ!」
一人の言葉に襲撃者たち一○人は集合した。
武器の剣を構える。全方向に目を向ける。
しかし狩人の存在を発見できない。
襲撃者たちに張り詰めた空気が漂う。
いつの間にか火は消され、音は無い。女子供が血を見て怯える声だけだ。
壊された家。転がる村人たちの死体。体をバラバラにされた血の池。女子供を乗せた馬車。
何処にも狩人の姿はない。
その一瞬。
「ゴフッ」
「グヘッ」
すると二人の首が飛んだ。
ドサッ。
そして二つの体が力を失い、崩れ落ちた。
「うわあああ!」
死体に驚き、目を向けた。
その瞬間。
「終わりだ」
襲撃者、全員の目線が地面に落ちた。
ロナウドが襲撃者の中心で舞う。
その瞬間、彼を中心に一○人の死体が円を作った。
「貴方様はもしや」
レイピアを収めたロナウドに生き残った女子供、村人たちが近寄ってきた。一方的な殲滅が行われ、怯えた様子を見せていた。
救ってくれた英雄に声をかけた。
ロナウドは先程までの射殺すほどの恐ろしい顔は消えた。レイピアを納める。右手を手を胸に当て、左手を後ろに隠して、軽く礼をする。
「剣国、第三騎士団、団長。ロナウド・ジークハルト。参上いたしました」
簡単な敬礼をする。
そんな消えた英雄の姿に目を見開いて驚いた。
「ロナウド様!」
「帰ってこられたのですか」
「必ず助けてくれると信じていました」
キャアキャアと村人たちは英雄の登場に歓喜する。
ロナウドは村人たちの喜びように、ニカッと笑顔になる。
村人たちは、そんな笑顔を見て、更に声を高く大きくした。
「ロナウド! そっちは大丈夫か?」
するとリアムが小走りでやってきた。
「ええ、リアムもありがとうございます。手早い鎮火で」
「フフン! これくらい余裕さ!」
ロナウドの称賛に、手を腰に当て、鼻を高くした。
「取り敢えず、この場をーー」
「手を上げろぉ!」
すると一人の襲撃者が震える手で銃を持っていた。顔を青白くさせ怯えている。
片手に収まるほどの小ささの銃。
リアムと村人たちは驚く。
銃は一発でも人に重症を負わす武器。それを向けられ、驚くのは当然だった。
しかし一人、何の反応もしない男。
ロナウドは銃を持つ襲撃者に歩み寄る。
「おい、動くな! それ以上は撃つぞ。いいのかぁ!」
しかし歩みは止まらない。
ロナウドはレイピアを納め、両手に武器はない。左手で鞘を持ち、右手をへそ辺りに置いている。そしてニカッとした笑み。
全員が、そんな余裕の姿に、心配はない。
襲撃者はそんなロナウドの笑みに怯え、更に手が震える。
ドンッ!
銃弾が放たれた。
「きゃあ!」
女の叫び声。
ヒュンッ。
「は?」
ロナウドは左腰のレイピアを抜刀して固まっている。
攻撃を負った様子はない。
すぐ様、手元の銃口を見る。銃弾は無く放たれたことが分かる。
「は? はあー!?」
銃弾は断絶されたのだ。
襲撃者は驚き、声を出す。そして銃を捨て、逃げ出した。
「悪いな」
しかし襲撃者は逃げ出した瞬間、体をバラバラに断絶され倒れた。