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4-6

「そういうこと……だったのかよぉ」


 彼女とは壁を隔てた場所で、千石雅志は壁に背を預け、くしゃりと髪を掴み、力なく腰を下ろす。決意とは裏腹に漏れる少女の嗚咽が、壁越しに彼の耳へと届いてしまった。

 椎葉依桜はすでに死んでいた。雅志が知っている彼女は、いつの日に出会った時も別人。《Fenrir2》を教えたあの時も、2年前に勇気をくれたあの時も。


 でも。


(ああ、そんなの関係ないよな。だってオレを助けてくれた人は……いつでも同じだから)


 そう、この時間軸にやって来る前と、根本的な部分における気持ちは変わらない。自分は先輩を助けるためにここへ来たのだ。それに、


(あんな言葉を聞かされれば、動かないわけにはいかない。あの人の妹への想いは本物だ)


 この時代で雅志が起こすべきこと。すべてを覆すことは無理でも、きっと何かあるはず。


(思い出せ、思い出せ……。考えろ、考えろ……)


 椎葉依桜が必然的に死を迎えるように、『神の時渡り《タイムトラベル》』を巧みに操ろうが『時の真実と証明』という概念がある以上、過去をやり直したところでいずれ同じ運命を辿ることになるだろう。だから戻るんじゃない、これから変えていく。ただ、自分が直接変えてはいけない。


 雅志は【時の番人】の忠告を一つずつ順に思い返してゆく。


(明確に『時の真実と証明』に違反する行為は、たとえば過去に戻って人の生死や世界の根本を直接覆してしまうレベルのこと。でもそれって裏を返せば、間接的になら許されるのか? それも生死に関係ないレベル、世界に大した影響を与えないレベル……なら?)


 ならば雅志ができることは、誰かに彼女を救うよう託すこと程度。であればその誰かとはつまり――……、


(助けるべきはオレじゃない、妹のオリヒメだ)


 本音は知り得ないが、きっとオリヒメは行方不明の姉を追い求めているはず。だから彼女こそが運命を変える人物には適任。

 しかしどうすればいい? 未来からタイムリープしてきたこと、知っていることを全部話せば納得してくれるか? いや、無理に決まっている。


(だったらこれしかない)


 雅志は時刻を確認する。時間帯を考えればすでに余裕はない。


「今のオレにできることは、悔しいけどこれだけなんだ……っ」


 決心をした雅志は、オリヒメの通う中学校へと急いで向かって行く。

 学校へ到着すれば、ちょうど放課後であり、帰宅する生徒や部活動に精を出している生徒が数多くいた。雅志はそんな生徒らに学ラン姿で紛れて校内へ潜入し、建物の影で息を潜めて待っていると、黒色の長髪を靡かせる一人の女子を発見する。髪色こそ違うが間違いない、オリヒメだ。


(オレだって指を咥えて成り行きを見ていたわけじゃないんだ。【時の番人】が渋谷さんに『時の真実と証明』を見せた時、『オーバーライド』で定理のコピーを試した、実際にコピーできた。この定理さえ見せれば、オリヒメが【時の番人】に近づくチャンスはたぶん作れるはず)


 確証はない。けれどもこれしか方法はない。あとはオリヒメが気づいてくれるかどうかにかかっている。

 そうして雅志は頃合いを見計らい、オリヒメの前に現れ、


「ん、誰? 見たことない……顔だけど」


 オリヒメが首を傾げる中、雅志は【時の番人】が咲理にしてみせたように、オリヒメに向かって掌を最大限に広げた。瞬間、漆黒の世界と赤い魔方陣の上へと周囲は移り変わり、けれども世界は元どおりの様相を瞬時に取り戻す。オリヒメは失神して倒れていた。

 背を向いた雅志は、このあとつらい現実を知る後ろのオリヒメを垣間見て、


「オレができることは……これだけだ。だから、お前があの人を助けてくれ、……頼む」

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