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4-2

 二人が初めに知り合ったきっかけは、中学三年生への進級を期に行われたクラス替えだった。席は隣同士、新学期早々は軽い会話もした。ただ、その頃はまだ知り合いという域を出ておらず、友達と呼べるような交流はまだなかった。


「ふっふーん、待ってましたお昼の時間っ」


 お昼休みの最中、密かにお気に入りの場所にしている校舎の屋上で、青空を眺めながら一人お弁当を頬張る彼女の名は渋谷咲理。肩に掛かる栗色の髪に愛嬌のある大きめの瞳など、今時の女子という像を見たままの雰囲気で体現した少女だ。存分に可愛がっている妹が一人いるがあまり似ていないと評判で、DNAで判別する限りでは間違いなく姉妹なのだが、もっと自分が似せる努力をすべきか、けれども自分の個性は殺したくない、だからどうしようというのが最近の悩みの種だ。いや、悩みは年頃らしくそれ以外にもいくつか抱えてはいるが、列挙したらキリがなく、「ま、いっか」と結局のところ、彼女はあっさり割り切っていた。


「は~むっ」


 箸でつまんだ大好物のエビフライをパクリと頬張る咲理。もぐもぐと丁寧に咀嚼して、味の最後まで余すことなく楽しんでゆく。


「んっ」


 咀嚼物を喉に通し、次の一口を食べようとしたその折だった。


「こんにちは。あら、一人でお弁当を食べてるの?」


 背後からの清涼な声。目前の好物から目を離し、後方を見上げると、見知った顔が自分を見ていた。眉目秀麗、学業優秀、周囲からの信頼も厚い、乱れの一切ない黒くて長い髪が思わず羨ましくなる、委員長を任されている女クラスメイト。時計を模した髪飾りがキラリと光る。


「ぼっち飯ですけど、文句ある?」


 くりくりした目を丸めて首を傾げた咲理に、クラスメイト――、椎葉依桜は苦く笑って咲理の隣に座った。


 そんな二人、渋谷咲理と椎葉依桜に接する機会が再び訪れたのは、新学期が始まってから幾らか時が経過した、半年後のことであった。


「あれ、織……ごめんなさい、渋谷さんって昨日はみんなとお昼を食べてなかった、教室で?」

「お、苗字間違えかけたでしょ?」

「ごめんね、まだ慣れてなくて。変わったのは最近のことだから、そのー……、ご愛嬌ってことで大目に、ね?」

「別に怒ってはないけど。私だって苗字変わった実感、まだないし」


 先月のこと、実は咲理の両親は離婚したのだ。親権が母に譲渡されたゆえ、咲理の性は母方の『渋谷』になったのだが、周りはおろか、この変化は自分ですら未だに馴染んでいなかった。


「ま、名前はどうだっていいんだけど、妹と離れ離れになったことはとーっても残念っ。大好きな私のお姫様、毎日ぎゅーってしてちゅーってしたいのにっ」

「ちゅー……? え、聞き違い……?」

「え、妹のほっぺにちゅーするくらいフツーでしょ? おかしなこと言った?」

「いや、おかしいわよっ。それ、全然フツーじゃないからっ」


 依桜のリアクションに咲理は心なしかむすぅと口を尖らせ、スマートフォンに保存してある妹の写真から数枚をピックアップして依桜に見せて、


「どうどう、かわいいでしょ? お姫様みたいだよね。世界一かわいいかも」

「かわいいけど、お姫様って表現はどうかしら? 目元は少しキツめ?」

「むぅ。この目元と長い髪がヒメのヒメたる良さなのに。ま、椎葉さんにはわからなくて結構」


 スマートフォンを仕舞った咲理は、マイペースに食事を再開する。


「あ、質問返すの忘れてたけど、週一は屋上(ここ)でのほほんとごはん食べてるんだ。一人で過ごす時間も好きだし。もち、妹と過ごすのが一番だけどね」


 体育座りの依桜はへぇと、どこか感心げに咲理を眺めて、


「織……、渋谷さんって何だか掴みどころのない人ね。まるで自由気ままな猫みたい。今時の女って印象が強かったから、ちょっと近づきにくくて」


 短いスカート丈、長めのスクールセーターの袖、繊細な体つき、それから首に掛けられシャツに隠れる銀のアクセサリを順に、依桜は目で追う。


「ふふん。猫みたい、って評価はいいかも。褒め言葉として受け取ってあげよう。あ、それとまた間違えたでしょ。なんなら苗字呼びやめて、密かに私が提唱しているしぶえり呼びはどう?」


 愛称に組み込む形で新苗字を定着させる狙いを咲理は語るも、依桜はニコッと綺麗な笑みで、


「うん、よろしくね咲理」

「おいっ」


 咲理は間髪入れずに声を上げたが、二人はふと目が合い、それがおかしくなってクスクスと笑い合う。


 ――――思えばその日が交流の基点であり、そして事の発端の始まりだった。


 端無く、依桜は問う。


「離婚した両親のこと、嫌い? 勝手なことしてくれていい迷惑、ってやっぱり思う?」


 だが、咲理は、


「嫌いじゃないよ?」


 顔の綻びは崩さずとも、わずかに目を見開く依桜。予想外の返答、それを耳にした時のような反応を取る。


「どうして? 離婚のせいで妹とは別居なんだよね?」

「ま、勝手だとは思うけどね。けど、パパもママも私たちを大切にしてくれてるもん。それに二人とも心から嫌い合ってるわけじゃなさそうだし。離婚はいろんな都合があってしょうがないトコもあるからね」


 苦笑いではあるけれども、咲理は確かに笑った。それに比例し、依桜の目は狭まってゆく。


「そっか、いい両親だね。……羨ましくなっちゃうかも」


 依桜は腰を上げると、指紋でも見せつけるよう咲理にビシッと指を差し、


「のほほんとするのはいいけど、ちゃんと次の授業までには戻ってきてよ? 委員長はクラスメイトのおサボりを許しませんからっ?」

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