白き時の獣に呑まれた少女たち
すべてが壊れた世界の中心で、ただ一人の少女が屹立していた。
天空を覆う雲に空いた穴から差す一筋の光に顎を上げ、彼女は耳に掛かる黒髪を塵混じりの風に泳がせる。凛としたまがいものの瞳は哀しげに狭められ、髪と同色のブレザーは淡い光を一身に浴びて。右手に担う白銀の銃が重々しく音を鳴らし、左手に絡む、運命を縛り上げる鎖が、一度死を迎えた体躯に冷たく染み渡る。
そっと、少女は手と手を組む。祈るよう、目を瞑って。
あの時と同じように。
栗色だった髪は黒く、小動物を想起させた瞳は冴えさえと変貌し、大切なあの子は目前にいないけれども。
そして少女は重く、鈍く口ずさむ。――どうしてこうなったんだっけ、と。
この時計盤の世界へと駆り立てる魔方陣が、幸運すらも例外ではない等価交換の世の法則が、不可視の幻姿と現世の結びが、口から紡ぐ言の葉が、空に散る星々が、世の根本を記した科学の結晶が、その結晶をも覆す現代科学が、時の神が、そして運命がすべてをそうさせたのだと、答えは知っているのに。
「やり直したいよ、全部ひっくるめて。ねぇ、依桜?」
時は止められても、巻き戻せても、予知はできても、――――一度定められた運命は変えられやしないって、この私でいる間に思い知らされた。
それでも、その瞳に揺らぎはない。
信じる、変えてやる。
抗ってやる、私を取り戻すために。
幾枚の柔く白き羽根が空を舞う、夢か幻か、そんな淡い世界の中心で、渋谷咲理は微々たる救済の希望を仄めかせた決意を唱える。
たとえ時計の針でさえも、この傷だらけの手を伸ばして――――。