鬼
鬼
1
「死神634号を、直ちに連行せよ!」死神局の局長が叫んだ。「仕事をしくじった上に、無許可で亡者を成仏させた疑いだ!」
「はっ!で、誰を行かせましょう?」緊張した面持ちで631号が答えた。
「獄卒の青と赤だ!抵抗したら、力づくでも捕まえて来るように言え!」
「分かりました!」
凛の同僚、死神631号は当惑の表情を浮かべて獄卒の教場に急いだ。
「634号の奴、面倒な事をやってくれたな・・・」
634号とは、言うまでもなく凛の事である。631号は二段飛ばしで階段を駆け降りた。
死神局の建物は地上13階地下4階で、地獄の鬼の訓練場はさらにその下の鍾乳洞の中にあった。
「ここだな、獄卒の教場は」631号は鍾乳洞に設てある鉄の扉の前で深呼吸をした。「初めてなんだよなぁ、ここ。ちょっとビビる」
631号は、扉に付いている大きな取っ手を引いた。が、扉はピクリとも動かない。
「おかしいなぁ、鍵はかかってないはずなんだけど?」
631号はもう一度力一杯引いてみた。すると、重い扉が僅かばかり開いた。
その隙間から、そっと中を覗く。「わっ!広いな〜。わわ、なんだあのアスレチックみたいな設備は?」
「あの山の斜面はえらくとんがっているけど、足裏健康器具か?あっちの風呂は湯気が凄い、ダチョウ倶楽部が来たら試してみよう。それから・・・あっちは真っ赤なプールのようだ、入りたくないな〜、あそこで水泳をしたらオリンピック記録が出るんじゃないの?」
「誰だお前!」
突然後ろから声を掛けられて、631号は飛び上がるほど吃驚した。
「は、はい!死神局局員631号です!」扉の方を向いたまま、直立不動で答える。
「ここはキャリアの来るとこじゃねぇよ」
恐る恐る振り返ると、真っ赤な平家蟹のような顔が目に飛び込んできた。しかも、額には牛のような二本の角が生え、口角から虎のような牙を剥き出している。
紛うかたなき鬼の顔だ。ただ違うのは、警官のような制服を着ている事と、金棒の代わりに伸縮自在の警棒を持っている事である。
「し、失礼ですが貴方は・・・」
「ここの指導教官だ!」筋肉ではち切れそうな制服の胸を張って赤鬼が答えた。
「では、貴方が赤さん・・・では、青さんと云うのは?」
「俺の同僚だよ。俺達に何の用だ?」
「あ、あの、お二人に死神局の局長からの指令です」
「局長から・・・?」赤鬼は暫く考えてから、入り口の傍にある小部屋を指差して言った。「そこの教官室で待ってろ、青を連れて来る」
「それで、俺達に指令とは何だ?」教官室のソファーに座りながら青が訊いた。赤と青は双子の兄弟ように似ている。ただ、青の顔の色は鮮やかなブルーだった。
「はい、追放になった死神を捕まえて来て欲しいのです」
「そんな事はお前達でやったらよかろう」赤がつっけんどんに言った。
「それが、一度ならず二度までも人間に邪魔されて・・・」
「何!黄泉の国の住人が人間如きにやられたと言うのか!」青が叫んだ。
「はい・・・それが恐ろしく強い奴らで」
「馬鹿な!人間がいくら強かろうと我々に敵う筈がない!」赤が激怒した。
「そ、それが死神局の局員は肉体労働が苦手で・・・」
「これだからキャリアは役に立たねぇ!」青が立ち上がる。
「よし、俺たちが見本を見せてやろう」赤が631号を睨んだ。
「居所を教えろ!」
2
「凛・・・」
「はい、無門先生」
「お前を捕まえに来た死神達を二度とも追い払ってしまったが、良かったかの?」道場の神棚の前で、平助が訊いた。
「構いません、私、間違ったことはしておりませんもの。それよりも、先生方にご迷惑をお掛けした事をお詫び致します」
「なに、大事無い。お前の事は王にくれぐれも頼まれておる。おいそれと渡せるものか」
「じゃっどん、あんままでは二人の霊は浮かばれんじゃった。凛はよかこつばした、おいからも礼ば言う」
「忝うございます」凛は二人に頭を下げた。
「じゃが、あの者達このまま諦めはすまい」
「そこが心配な所なのですが・・・」凛が憂慮を口にした。
「よか、今度はおいが追い返してみしゅうたい!」熊さんがキッパリと言い切る。
「じゃが、今までは我々を侮っていたようじゃ。次はそう上手くは行くまい」平助は腕組みをした。「凛、奴らの打ってきそうな手はなんじゃ?」
「死神は手荒な事を好みません。その手の事は鬼の獄卒の仕事でしょう」
「鬼か」
「はい、閻魔大王の配下となるべき鬼を訓練する施設が、死神局の地下にあります。きっと、そこの鬼教官が来るのではないかと・・・」
「鬼が来っか!」
「鬼の強さは死神の比ではありません。しかも、その肉体は普通の刀では傷つける事は出来ないのです」
「それは厄介じゃのぅ」平助が腕を組んで考え込む。
「なぁに、心配には及びまっせん。こっちにも考えのありますたい」
「ほう、どうするのじゃ?」
「槇草さぁに妖刀『鬼斬丸』ば借りまっしょ」(妖怪 王『姑獲鳥』参証)
「ふむ、あれがあれば・・・」
「後は正々堂々戦うのみ」
「うむ、面白うなってきた」
「早速おいが槇草さぁの所に行って来もす」
「嫌ですよ。そんな面白そうな事、なんで僕が仲間外れなんですか?」槇草が口を尖らせた。
熊さんは、『鬼斬丸』を借りる為、槇草家を訪れた所だった。
「いや、そう言うわけではあいもはんが・・・」
「僕がやります。なんたって『鬼斬丸』は僕が姑獲鳥から貰ったんですから」
「じゃっどん、おはんには家族のあいもそ?」
「鬼と戦えるなんて、武術家冥利に尽きますよ。美樹もきっと、分かってくれます、それに・・・」
「それに・・・」
「師匠を危険な目に合わせる訳にはいきませんからね」
「おお、槇草さぁ、おいはおはんを見損なっておいもした。やっぱり一番弟子ばい!」
「よして下さい、当たり前の事です。それより、今日から僕も道場に詰めます。布団を運びますので手伝って下さい」
「おやすい御用じゃ。凛も喜びもそ」
「熊さん、最近やけに凛さんに優しくないですか?」槇草が熊さんを上目遣いに見た。
「な、なんば言いよっとね、そげんこつはなか!凛は死神ぞ!」
「ほらほら、そんなにムキになるところが怪しい」
「さ、さ、さっきの発言は取り消すばい。やっぱ、見損のうた!」熊さんが顔を真っ赤にして横を向いた。
「はいはい、分かりましたよ。さ、布団を運びましょう」槇草が苦笑した。
「ま、槇草さぁ・・・」
柱時計が十二時を打ち、日付が変わった。槇草と熊さんは道場に布団を敷いて寝ている。
槇草は、胸にしっかりと鬼斬丸を抱いていた。
「槇草さぁ、起きておいもすか?」熊さんが囁いた。
「起きてますよ・・・なんか、鉄臭いですね」
「血の臭いじゃ、鬼かも知れん」
「僕もそう思います」
「油断せんごつな」
「分かってますよ」
いきなりゴウ!と鳴家がして道場が揺れた。
「来た!」
二人は同時に跳ね起きた。だが、次の瞬間天地がひっくり返ったような衝撃を感じた。
3
「こ、此処はどこな?」熊さんが呆然と辺りを見回した。今まで寝ていた道場とは似ても似つかぬ場所に二人は立っている。
「どこなんでしょう。霧が深くて良く見えないが、薄っ気味の悪い所ですね」
「槇草さぁ、足元ば見てみんね。石がゴロゴロしちょる、どっかの河原じゃなかろか?」
「ホントだ。水の流れる音もする。あれ?あそこに積みかけの石が沢山あります、何だろう?」
その時、霧の向こうから子供の声が聞こえて来た。「一つ〜積んでは父の為、二つぅ積んでは母の為・・・」
「行ってみましょう」二人は声のする方へ歩いて行った。
「おっ、子供のおる!」
やっと視界の開けた所まで来ると、子供がしゃがんで石を積んでいるのが見えた。
「君、何してるんだい?」子供の側にしゃがんで槇草が訊いた。
「見れば分かるだろう?石を積んでるんだよ」子供はそっけなく答える。
『可愛げのない子供だなぁ』槇草は心の中で呟いたが、気を取り直して訊いてみる。
「どうして石なんか積んでるの?」
「親より先に死んじゃったからさ」
槇草は、思いがけない子供の答えに、呆然として小さな姿を見詰めた。
「そ、そうか、君は死んじゃったのか。で、石を積んでどうするんだ?」
「石塔を完成させたら天国に行けるんだよ」
「どうして親より先に死んだら、石を積まなきゃならないんだ?」
「おじさん、そんなことも知らないの?」
「お、おじさん・・・」
「親より先に死ぬ事は、最大の親不孝だからだよ。その罪を償わなきゃ天国にいけないんだ」
「ふ〜ん、でも、もう完成しそうじゃないか?」
「無駄だよ、石塔は永遠に完成しないようになってるんだ」
「どうして?」
「もうすぐ分かるさ・・・」
子供が最後の石を積み上げた時、熊さんが叫んだ。
「槇草さぁ、あれば見ない!」
大きな岩の影から二つの影が飛び出して来た。影は呆気に取られて見ている槇草と熊さんの目の前で、今、子供が積み上げたばかりの石塔を蹴り上げた。石塔は粉々になって吹っ飛んでしまった。
「な、なんばすっとか!」熊さんが叫ぶ。
「熊さん、鬼だ!しかも赤と青!」
「おお、間違いなか!子供ん頃に見た絵本の鬼とそっくりじゃ、虎のパンツに金棒ば持っちょる!」
「何だかベタな格好だなぁ」二匹の鬼を見て槇草が首を傾げた。
「ふん、これはユニフォームなんだよ!」赤鬼が怒鳴った。
「ほ〜ら、おじさん言っただろ。完成してもこうやって鬼に壊されるんだ」
子供は諦め顔で槇草に言った。
「ゆ、許せん!せっかく子供が積んだもんば!」熊さんが憤る。
「余計なお世話だ、こいつはこうやって何度でも罪を償うんだよ」赤鬼が北叟笑む。
「じゃっどん、おはんらがおったら天国へは行けんじゃなかか!」
「運が良けりゃ、地蔵が迎えに来るよ」青鬼が言った。
「いつじゃ?」
「さあ、いつだろうな?」青鬼は嘲る様に笑った。
「やっぱり許せん!成敗してくるっ!」
熊さんが、青鬼に向かって一歩足を踏み出した。
「待て、熊さん!ここは賽の河原じゃないか?なぜ、俺たちがここに居る?」
「やっと気が付いたか?鈍い奴らだ」赤鬼が言った。
「お前達を、あの爺さんから引き離す為だよ」
「何故だ?」
「あの爺さんは侮れん。いくら戦闘に不慣れな死神でも、黄泉の世界の者を二度も追い払った。まずは手頃なお前達を先に血祭りに上げて、後でゆっくり片ずけてやる!」
「おい達を甘く見ちょるな!」
「落ち着いて熊さん、そいつらわざと俺たちを怒らせようとしています」
「分かっちょいもす。さあ、どっちが相手じゃ!」
「熊さん待って、この刀を使って」槇草が鬼斬丸を熊さんに手渡した。
「おお、そうじゃった。お借りしもんど!」熊さんが鬼斬丸の鞘を払って青眼に構えた。
「俺が行く」青鬼が言った。「ふん、刀なんぞで俺が斬れるものか!」
青鬼は、身の丈ほどもありそうな金棒を地面に突き立てて熊さんを睨む。
「試して見っがよか!」
熊さんは、間合いを詰めて刀の切先を青鬼の眼に付けた。
「ふん、小癪な!」
青鬼は金棒を大上段に振り被る。
熊さんは、足場の悪い河原の石の上をゆっくり右に移動した。
それにつれて、青鬼も躰の向きを変えた。
「フン!」
青鬼が頭上で大きく金棒を旋回させる。
「ビュン!」
風を切って熊さんの真上から金棒が打ち下ろされた。
「ハッ!」
熊さんが飛び退さる。
ドスン!バラバラバラバラ・・・金棒が地を叩き、石が砕け散った。
「すばしこい奴だ!」
またもや、青鬼は金棒を回転させ、今度は横様に熊さんの躰を薙ぎ払う。
更に、熊さんが後退さる。
「熊さん、後が無い!」
槇草が叫んだ。熊さんの後ろは三途の川だ。
「チッ!」
熊さんが舌打ちした。横に跳ぶにも足場が悪い。
「しょんなか、一か八かじゃ!」
熊さんは刀を、上段に構えた。
青鬼が三度金棒を回転させて頭上に構えた時、熊さんが大きく前に踏み込み、真っ向斬りに刀を叩き込んだ。
「チェスト・イケー!!!」
熊さんの気迫にたじろいだ青鬼が、思わず金棒を額の前に一文字に差し出すと、まるで大根でも切るように金棒が真っ二つに切断され、青鬼の額から血が噴水のように噴き出した。
「青おぉぉぉぉぉ!!」赤鬼の絶叫が賽の河原に響き渡った。
まるでスローモーションを見るように、青鬼が河原に倒れ伏した。
そして、その躰は見る間に塵となり、河原の風に乗って消えていった。
「うぬぅぅぅぅ・・・この代償は高くつくぞ」押し殺した声で赤鬼が呻いた。
「熊さん、俺の番だ!」槇草が言った。
「槇草さぁ、任せたぞ!」熊さんが、鞘に納めた鬼斬丸を槇草に返す。
「心得た!」
「がるるるるるる・・・!」赤鬼が槇草の前に立ちはだかる。「殺してやるぞ!」
「まだ死ぬ訳にはいかないな。女房子供がいるんでね」槇草は落ち着いて返答する。
「ならば尚更生かしてはおけん!」
「無情だな」
「そうでなければ、鬼などやってられるか!」
「憐れだ」
「なんとでも言え!」
赤鬼は、全身の筋肉を怒張させた。蚯蚓のような血管が全身に浮き上がる。
すると、鬼の姿は一回りも二回りも大きく見えた。
「その肉の鎧が、命取りにならねば良いがな」鬼斬丸を抜刀しながら槇草が言った。
鬼はもう返事をしなかった。片手で金棒を鞭のように振り回して槇草に迫る。
ビュンビュン!と音を立てて金棒が槇草に襲い掛かる。
いくら妖刀でもあの勢いで金棒とぶつかったら折れてしまう。
槇草は刀身が金棒と接触しないように気を付けながら、鬼の攻撃を躱し続けた。
「槇草さぁ、後ろに岩じゃ!」熊さんが叫んだ。
咄嗟に槇草が身を沈める。その瞬間、大きな岩が粉々に砕け散った。
鬼は攻撃の手を緩めない。疲れを知らない鬼の猛攻に槇草は後退するしか無かった。
もう、無駄口を叩く余裕は無い。遂に、槇草は川の縁まで追い詰められた。
鬼は薄笑いを浮かべて、金棒を頭上に振り上げた。
「これで終わりだ!」
最後の一撃が槇草の頭上に落ちて来た。
槇草は死を覚悟した。
その時悲痛な叫び声が聞こえた。
「おじさん!死んじゃダメだ!子供が悲しむよ!」
「なに!」鬼は一瞬槇草を見失う。
途端に右膝がガクンと落ちた。鬼は何が起こったのか、全くわからなかった。
鬼は何度も立とうと試みた。しかし、どうしても立つ事が出来ない。
「アキレス腱を斬ったんだ」
後ろから槇草の声がした。鬼はゆっくりと振り返った。
「なぜ、殺さん?」
「さあ、俺にも分からないよ・・・」
「槇草!」
平助の声がした。
「熊先生!」
続けて凛の声も聞こえた。
「二人とも無事か!」平助が叫んだ。
「師匠、どうして此処に?」
「血の匂いを追いかけて来ました」凛が答える。
「凛、おはんが師匠を案内して来たとな?」
「はい」
「634号・・・」赤鬼が凛を見た。「お前は死神局から指名手配されている」
「知っています。規則を破った事は悪いと思っています。でも、人間界で迷っている霊を見捨ててはおけなかったのです」
「規則は規則だ!」
「はい、それも承知しております。ですから私を捕まえて下さい、このまま死神局に連行されても文句は言いません」
「凛、おはん、ほんにそいでよかとね?折角、妙心館の生活に慣れて来た所じゃなかか!」
「仕方ありません。短い間でしたが楽しゅうございました・・・」
「凛さん、帰る事はない。この鬼は動けない、このまま帰っても追いかけて来やしないさ」槇草が言った。
「じゃっど、じゃっど。凛、わしらと一緒に帰っが良か」
「お心遣いは有り難いのですが・・・」
「凛、儂らに遠慮は要らんぞ。儂らは決してお前を縛使の手に渡しはせん、何度でも追い払ってやろう」平助も凛を引き止める。
「有難う御座います、無門先生。ですが、やはり罪は償わなければなりません。私はやっぱり・・・」
「良い!」
巨大な岩の後ろから影が現れた。見ると地蔵菩薩が立っている。
「え、閻魔大王様!」凛が驚愕の声を上げる。
「凛、おはんなんば言うちょる、お地蔵さんやなかね?」
「お地蔵様は閻魔様なのです」
「凛さん、意味がわかりません?」槇草が困惑して尋ねた。
「ですから、お地蔵様は閻魔様の化身なのです」
「ま、まさか!」
「いや、聞いた事があるぞ。閻魔大王の本地は地蔵菩薩であり、時に地獄の亡者を救い出してくれるのじゃと」平助が言った。
「634号、お前のやった事は規則違反じゃ」地蔵は静かに言った。
「はい」
「しかし、情状酌量の余地はある」
「え・・・」
「暫く人間界で修行して参れ、その結果次第では罪を減じても良い」
「でも・・・」
「良い、儂が良いと言うておるのじゃ、これ以上何の不足がある?」
「いえ、不足などと・・・」
「ならば、良いではないか、あまり頑なになるでない」地蔵菩薩は向きを変え平助を見た。「暫く面倒をかける」
「お任せ頂きたい」
「子供・・・行くぞ」
「えっ!どこへ?」石の塔を積んでいた子供が地蔵に聞いた。
「極楽浄土へじゃ。儂が連れて行ってやろう」
「本当に?」
「仏は嘘は言わん」
「わーい!お地蔵さん有難う!」
「さ、儂に付いて来い」
地蔵菩薩は子供の手を引いて、霧の中へ消えて行った。
「赤鬼。どうじゃ、お前さんも諦めては?」平助が赤鬼に言った。
「閻魔大王様がああ仰ってるんじゃ、俺達に否のある筈は無い」
「俺達?」
「俺たちゃ死なねぇんだよ。青は今頃、教場で新米獄卒達に当たり散らしているだろうよ」
「そうね、そいは良かった。ちと、後ろめたかったもんで」熊さんがほっと溜息をついた。
「じゃあ、我々も帰りますか?」槇草が言った。
「そうじゃな、帰るとしよう」
「貴方は、このままで大丈夫ですか?」凛が赤鬼に訊いた。
「ふん、こんな傷すぐ治る。しかし、その刀ただの刀じゃないな?」
「姑獲鳥に貰った、妖刀だ」槇草が答えた。
「そうだったのか、道理で良く斬れる訳だ」
「また会おう。それまでに傷を治しておけ」槇草が言った。
「ふん、その時はお前の命は無い」
「覚えておく」
四人は、赤鬼を残して賽の河原を後にした。




