奪衣婆四度
奪衣婆四度
「凛、あんた性懲りも無くまた来たのかい?」三途の川の渡し小屋で、奪衣婆が渋い顔をして凛を睨んだ。
「婆様、今度は今までのように、無理なお願いをしに来たのではありません」
「じゃあ、なんだい?」
「俺が説明します」凛の後ろに控えていた槇草が話を引き取った。「実は、俺の師匠とその仲間が夢の中に閉じ込められてしまったのです」
「おや、その刀は・・・ひょっとしてあんた、以前赤鬼を斬った男かい?」
「え、なぜその事を・・・」
「賽の河原で起こった事を、この私が知らない筈はないだろう」
「あ、はい、その節はお騒がせしました」
「いいよ、私ゃ強い漢は好きさ」奪衣婆は艶っぽい流し目で槇草を見た。
婆とは言っても、それは職名である。今の奪衣婆は、下界で言えば脂の乗り切った大年増の風貌があった。
「あ、あの後赤鬼はどうなりましたか?」槇草は奪衣婆の熱い視線を避けるように話を変えた。
「上手い事はぐらかしたね・・・まぁいいさ、あいつは現場に戻されちまったよ」
「現場って?」
「地獄さね。今頃亡者どもをいたぶってるさ。だけどありゃ重労働だよ、可哀想に・・・」
「それよりも婆様・・・」焦れた様に凛が割り込んだ。
「ああそうだったね。つい脱線しちまった」
「お願いと言うのは、その方達が夢の中から出て来るまで、ここで待たせて頂きたいのです」
「なんだ、そんな事かい。お安い御用だよ・・・で、なんでその人間達は夢なんぞに閉じ込められたんだい?」
「それが、夢の精霊と枕返しに騙されて、明恵上人を連れて来なければ夢から出す事は出来ない、と脅されたのです」
「なに?明恵・・・」
「婆様、ご存知なのですか?」
「知ってるよ、八百年ほど前に此処を通ったからね。悟りを開いた聖人だとかで亡者の間じゃちょっとした噂だったさ。だが、明恵など頼らずともそいつらが出て来たらお前が連れて帰ればいいじゃないか?」
「それが駄目なのです。私には夢の精霊の術を解く事ができません」
奪衣婆は、暫く思案してから答えた。
「厄介なことだねぇ。ひょっとしたらこのお願い、お安い御用じゃなくなるかも知れないね・・・」
「え、どうして?」
「いいさ、兎に角出てくるまで待てばいい。夢の出口からここまでは一本道だ。話はそれからだよ」
奪衣婆はぼそりと呟いた。
「全く人騒がせな死神だよ、あんたは」




