第2話 仕切り直し
細かいことは気にせずに、頭を空にしてお楽しみください。お願いします。
ワープの件とかとてもSFとは言えないので……
テルテルはスリープモードが無く、適度に自分の体に戻れないことや、睡眠が無いかもしれないこと、そして提督や参謀とのリハビリについてはしばらくお預けであることに大いに凹んだ。
仕様上はこの状態から元の体に戻すことは、テルテルの精神に非常に高いマイナスの効果をもたらす危険があったため見送られた。
【大丈夫よ、テルテル。時間が経つのは割とあっという間だし、戻れたらまた慣らし運転にタップリ付き合ってあげるから。ね?】
などとアリエーネ提督に慰められて、何とかようやく落ち着いてくる。
よくよく考えるとリアルタイムの超空間通信のような手段で、こうして提督や参謀からバックアップがあるのは、ある意味では贅沢な状況かもしれない。
アリエーネ提督にとっては、この辺は補助的な発電炉である恒星(巨星)やブラックホールからのエネルギー供給、および500万基におよぶ魔法器官で余裕でまかなえてしまうため、懐が痛まないぶんだけ気が楽だった所為で、テルテルを構いまくっていた。
「少しだけそっとしておいてください」
テルテルはそういって省エネモードに入ってしまった。
テルテルの心配事の一つは、それから2時間後に解決した。
省エネモードはテルテルにとっては睡眠と同じリラックス効果を発揮したのだ。不満があるとすれば体に戻れないことだけだった。
実のところ、このクラゲみたいなボディが壊れて、機能停止に追い込まれればテルテルは戻ることは出来る。しかし彼には負債というか恩があったから、それは最後の手段にするつもりだった。
現状で使えるのはこのボディだけだったし、まだ初日でありほとんど時間は経過しておらず、何の手がかりも無かったからだ。
「では気を取り直して、壁の向こう側を探ってきます」
テルテルはニュルニュルと壁を登り、さきほど発見した場所まで接近した。
【テルテル、頑張ってね! 小さい物なら送れるし、こっちに寄越してくれる分には銅でも銀でも鉄でも植木鉢でも良いから!】
ゴミみたいな物でも質量なら良いという、贅沢を言わない女の見本と化した提督に尻を叩かれつつ、テルテルはようやく未知の領域に踏み出す決意を固めた。
因みにこちらにテルテルが居て、かつ魔法の素養があれば、こちらからある程度の物は送れるようだった。
問題は二点あって、テルテル自身は送れないことが一点目。二点目はボディを動かすための魔法器官は持っていても、テルテルがその活用法を掴んでいないということだった。要修行である。
このボディを動かすために魔力が自動的に取り込まれ、少しづつ消費されているらしい。一度に消費できる分量に限界はあっても、その余剰分を何とか活用出来るのではないかと思われた。
【資源の収奪はネジ釘1本から】
というコメントが視界の右上に固定されるにあたり、メッセージは3個までにしてもらうことを後でお願いしようとテルテルは思った。
瓦礫の上の部分は、もちろん隙間もあったが今のテルテルが通るにしても狭い。仕方なく少しづつ慎重に瓦礫を取り除き、テルテルが通るに充分な隙間を開けた。
一番大きい部分が20㎝の球形頭部であるから、30㎝ぐらいの穴でよかったのは助かった。これなら人間サイズのやつは通れないし、高い場所にあれば目立たないだろう。暗いうえに誰も来そうにないというのもあったが、用心するに越したことはない。
穴を出た向こう側もやはり暗く、とんでもなく酷い臭いがした。何かの食べ物のカスや排せつ物が混ざって腐敗したような猛烈な臭いで、テルテルがもし人間ボディだったら刺激で目や鼻をやられ、食べた物を戻していたかもしれない。
今は酷く臭いのは分かるが、不思議と不快感は無かった。
先程まで居た部屋のような空間よりはましだったが、ここも暗かった。
発光するキノコか何かが、そこかしこに生えていたが、何となく地形がわかる程度である。
テルテルが出てきたのは壁の上部に開いた穴らしく、ここの空間はテルテルが出た穴から左右方向に広がり伸びている模様だ。
中心は大きな汚水溜まりになっているようで、小石を投げるとポチャンと音がする。壁に近い側は地面のようだった。
「テルテルです。汚水と光るキノコのある空間に出ました。風は無し、左右に通路、視界は不良」
【こちらアプデスタです。何か落ちてないか探しながら、取りあえず左方面から調べてください。行き止まりか成果があれば、次は右方向もお願いします】
「では今から左方向に移動します」
【テルテルさん、特に敬語で無くても問題はありません。私の場合は個性ですからお気になさらずに。それと情報や物資を集めることで、現状を打開することは可能であると我々は見ています。気を落とさず頑張って】
「ありがとう、参謀。お言葉に甘えてそうさせてもらうよ。その情報というのは例えばどんな物なんだろ?」
【テルテルA1のボディは自然発生したわけではありません。製作者がいます。そして箱に入っていたことから手元に止め置かれたか、扱える相手に販売された可能性が高いです】
「そうか! つまりこの体に関わる技術情報と資源が近くに埋まっている可能性があると……」
【テルテルさん、時間はたくさんあります。提督も私も今回の偵察に関して、確実に期待どおりの成果があるとは考えていません。ですからまずは現状の解決か、せめて強化を優先に進んでください】
テルテルは「諦めるのはまだだ」と思い直した。それにこのボディについて調べることは、この場所を知ることにつながるのではないかと思われた。
またテルテルのボディは『ゴーレムコア』という名称であったから、もっと大きいボディに組み込まれてそれを制御するための物であるはずだ。
もし『着ることの出来る体』を発見出来れば自身の強化につながる可能性が高い。
異質な技術の所産であるという理由から困ったことにもなったが、能力から見るとこれは意外と拡張性が高いボディなのではないかと思われた。
現金な調子で新たな希望を胸に、テルテルは壁から降りると向かって左方向に向けてソロソロと進み始めた。形態は棒人間モードに変更する。
そしてほんの数メートルで、何か『ムニョン』としたものを踏んづけた……。




