父VS息子、魔術の行方
「そらぁっ!」
アズラに接近し、横に剣を振るトリスト。魔術なし、それにもうすぐ50に届こうかという人物の剣術とは思えない。
「やめてよ!父さん!」
バックステップで剣をよけるアズラ。
「どうした!お前が魔術師を志した理由はなんだ!」
「姉さんを探すため…でも!父さんとは戦いたくない!」
「だが上級魔術だけでレイカを探す事など叶わぬわ!本気でレイカを探す気なら多少の犠牲など覚悟しろ!」
話している間も剣を振るい続けるトリストと、それを避け続けるアズラ。
「私を斬れないならレイカを救う事など夢のまた夢だ!諦めるんだな!」
「…やっぱり、私たちも行きましょう」
「どうしたんだよ、カティ」
「いやな予感がするの。…行くわよ」
「そんな中途半端な太刀筋は教えていないぞ!全力でかかってこい!」
斬撃と回避の応酬がしばらく続いた後、避けきれなくなったアズラは、剣同士をぶつける事を選んだ。
さすがのトリストといえども、成長期真っ最中のアズラの力にはかなわない。
はじかれ、滑りながら後退するトリスト。そこにアズラは追撃したのだ。
しかし、軽く止められた。
「犠牲は覚悟しろと言ったはずだ!」
そう言うとアズラの腹を蹴り、強引に距離を離すトリスト。
「ぐうっ…」
不意の一撃にひるんだアズラは弾き返される。
そこに…
「アズラ!?」
「おいてめぇ!何してやがる!」
テムダとカティが到着する。
「アズラ!今加勢する…「あれは二人の問題です。手だしは、許しません」…なによ!」
立ち塞がる老執事をどけようとするカティだったが…
「《一帯を、隔離しなさい》」
不思議な結界が現れる。
「ちっ…《ハイ・ブラスト!》」
移動は危険だと判断したテムダが魔術で援護しようとする。
しかし…
「なにっ!?」
結界の境界で魔法弾が消えた。
「この結界は通常空間とは隔離された場所。干渉は、できません」
「アズラ、一つ問おう」
急にトリストが止まって話しだす。
「あの二人の犠牲で、レイカを救えるなら、お前はどうする?」
「…そんなの、決まってる!」
「ほぅ…」
「誰も失わず、姉さんを助ける!仲間がいれば、何でもできるから!」
「…まぁ、理想論だが、そんなところか」
「…え?」
「主人、悪戯が過ぎるぞ」
「別にいいだろう?覚悟を試すには」
「え?え?」
「悪かったな、アズラ。わたしがお前の魔術を奪ったというのは嘘だ」
「じゃあなんで…?」
「…もう一度確認だ。お前は、そこにどんな困難が待ち受けていても、仲間と共に、レイカを救うつもりだな?」
「はい」
「誰も失わず?」
「当然です」
「まぁ、当然の答えだな。こっちに来なさい」
トリストに近寄るアズラ。
するとトリストは一錠の薬を渡す。
「これはわたしが調合した薬だ。飲むと魔力の扱いが上手くなる。しばらくしか効果がないが、その間に扱いを身につけなさい」
「さっきの戦いは…?」
「お前の覚悟を試すためだ。レイカを救う道を選ぶなら、途方もない困難が待ち受けている」
「待って!姉さんは事故で死んだんじゃ…」
「違うさ。…何の因果だろうか、わたしも、レイカも、そしてお前も、あれに関わる事になるなんて…」
「何の話?」
「いずれ学園長が教えてくれるさ。…アズラ、お前には力がある。お前と、仲間がいれば何でもできる。だから決して諦めるな」
そう言うと立ち去ろうとするトリスト。結界を解除し、ついて行く老執事。
「父さん!」
「ん?」
「ありがとう、ございました!」
「あぁ、頑張りなさい」
そう言って消えていく背中は、どこか満足そうだった。