突撃!天才たちのお宅訪問!
その日、アズラは一人、学びの木を歩いていた。
この日は特に授業を申請した訳ではない。アルバイトを受けている訳でもない。
こんな日は珍しい訳ではないのだが、残りの六人とも授業やら採取やらで全員不在というのが珍しい。
いつもなら、部屋や校庭でゴロゴロしているのだが、今日は前々から行こうと思っていた場所に足を運ぶ事にしたのだ。
「確か…この辺だったな…」
輝きの森を歩く。目的地は当然、ヴァンたちの小屋だ。
「あ、あれだ」
木造の小屋を見つけて、そこに向かう。しかし…
「《アースクエイク!》」
「甘いですよ!《行きなさい!》」
いきなり地震が起きたかと思うと、辺り一面に刀が雨あられと降りそそぐ。
「えぇっ!?《ハ、ハイ・シルド!》」
尻餅をついたアズラはとっさに防御魔術を使う。
降ってきた一本目は防ぐ事に成功した。ただ、二本目、三本目と当たる度にヒビがどんどん大きくなる。
五本目を防いだタイミングで盾が割れる。
そして六本目は―
「《ちゅ、中止です!》」
「《メガ・シルド》」
新たな盾が現れ、六本目の刀を防ぐ。次の瞬間には、辺りに降りそそいでいた刀は消え去っていた。
「大丈夫ですか!?アズラさん」
「君はもう少し、まわりの状況や音に気をつけたまえ」
本気で心配するファルと、呆れるヴァン。
「あ…はい、一応、大丈夫です」
「そう…よかった」
「まぁ、こんなところで立ち話もなんだ、小屋に来たまえ」
で、小屋の中に入る三人。いかにも大自然の中の建物という感じの内装…具体的には全部木だ。
広さもなかなか。少なくとも10人くらいならパーティーが開けそうな広さ。中心にはテーブル。四方の壁は、それぞれ、玄関、ベット、本棚と裏口、キッチンとなっていた。
そんなけっこう豪勢な小屋に住んでいる事が明らかになった。
「では、わたくしはお茶の準備をしますので」
そう言ってキッチンに立つファル。
「まぁ、好きにしろ」
そう言って本棚から適当に本を選んでイスに座るヴァン。
ふと本棚に目をやると、様々な本が並んでいた。魔術の参考書は『よくわかる魔術入門』という入門用から『高等召喚術〜古代編』といった難解なものまで。その他にもファンタジー、SFといった小説から経営学や心理学といった実用書まで揃っていた。
「なんだ?興味あるのか?」
読んでいた本を閉じ、ヴァンがアズラに聞く。
「いえ…いろいろな本があるな…と思って」
「そうか、わたしは一通り読んだから欲しいものがあったらやろう」
「えっ…これ全部読んだんですか?」
「あぁ…暇だったからな。もっとも最近は弟子を鍛えるのでわりと退屈していないが。そうだな…これなんかどうだ?」
そう言ってヴァンが渡した本は『人のキモチがわかる本』だ。…明らかに遊んでいる。
「はいはい、ヴァンも悪ふざけはほどほどにしてください。お茶が入りましたよ」
「なんだ、必要だと思ったから出したのだが?」
「僕は普通の魔術の参考書が欲しいな」
「まぁ…マリィの苦労もわからないではないですが…」
「いい判断だと思ったのだが…」
マリィの恋は、本当に叶うのだろうか?
「うわぁ…このお茶、おいしい…」
「あら、ありがとうございます」
「当然だ。ファルが家の秘伝で作っているからな」
「ファルさんの家ってどんな家なんですか?」
「えっとですね…和洋を折り混ぜた魔術剣士の家ですね。母方が魔術師で父方が剣士でして、一人娘のわたくしは、両方を極めようとしているのです」
「母が洋風で父が和風らしい。だから紅茶も抹茶も入れれるし、ピアノが弾ければ琴もできる。そこに生けてある花も、庭のガーデニングもファルがやっている」
「そんな家なんです」
「すごいですね…」
「ありがとうございます。そういえばヴァン、水がなくなりましたわ」
「あぁ、そういえば最近補給していなかったな。いまから行くか?」
「どこかに行くの?」
「そうだアズラ。君も来い」
「荷物持ちは多い方がいいですし」
「えっ!…どこに…?」
「精霊の泉だ」
「では、飲んだら行きましょう」
「えぇーっ!!!」
水を求めて、出発する…。
次回は二人と共に精霊の泉に向かいます。
…どうにもこの作品、男女比が悪い気がするんですよね…。解決策、ありませんか?