赤くてぷにぷに、そして火を吹く、な〜んだ?
「いつ見ても不気味なとこだね…?」
「うぅ…怖いです…」
アズラにすり寄るマリィ。
「っくぅ〜っ…」
なぜかカタカタ震えているヴェク。
「どうしたの…ヴェク…?」
「兄貴は興奮しねぇのか!?血塗られた古びた洋館!そこで起こる数々の事件!それを颯爽と解決する名探偵!冒険だ〜!サスペンスだ〜!」
扉を開いてさっさと中に入ってしまったヴェク。
その直後…
「うおぁーっ!!!」
ヴェクの絶叫が木霊した…。
「アズラ様!」
「わかってる!ヴェク、大丈夫!?」
二人も舘に入る。
「あちぃ、あちぃ、あちぃーっ!!!」
舘の中にはおしりに火をつけられて走りまわっているヴェクと…
「………(プルプルプル)」
なんか赤いスライム状の物体がうじゃうじゃいた…。
「レッドゲル!?しかもこんなに大量に!?」
「とりあえずお兄ちゃんを助けないと!《ウォータ!》」
水の玉が一つ、ヴェクに向かって飛ぶ。直撃して火も消えたのだが…?
「ぐぼはっ!」
「あっ…ごめん、お兄ちゃん…」
水圧が強かったのか、壁に叩きつけられたヴェク。自業自得と言えばそれまでだが…。
「《スプラッシュ》…マリィ、もう少し加減しようね…」
「はいぃ…アズラ様ぁ…」
うるうるとした瞳でアズラを見つめるマリィ。一般的な思春期男子が見れば卒倒しそうな表情だが…?
「とりあえず、こいつら倒そう」
まったくもって効果がないみたいだ…。
「ううう…兄貴、水が効くのか…?」
「うん、水が効くけど…、大丈夫?」
「大丈夫…師匠にしっかり鍛えてもらってるから…」
そう言うと《キインッ》という音を立てて錬金術を行うヴェク。造り上げたのは流れる水の刀身を持つ美しい刀だ。
「よっ、はっ、たあっ!」
レッドゲルをばっさばっさと斬っていくヴェク。数がどんどん減っていく。
「ギシャアアァ!」
「リザード!?こんなとこに!?」
迷いこんだのか、リザードが一匹混ざっていた。
「マリィにおまかせください!」
左手の中指と薬指に8の字型の指輪をしていたマリィ。その指輪の片方の輪が消えて、右手に一本の剣が現れた。
「やぁっ!」
「えっ!?」
なんの躊躇いもなく、剣を投げるマリィ。普通、魔法武具はなくすと戻ってこない。アズラが驚くのも当然だ。
ヒョイッと剣を避けるリザード。そして、無手になったマリィを狙って走りだす。
「甘いですよっ!」
もう片方の輪が剣になると同時に、投げた剣がくるりと方向を変えて戻ってきた。
背に剣が突き刺さると同時に、正面から叩き斬るマリィ。
「すごい…」
二人の成長ぶりに感心するアズラ。
結局、地域一帯の魔物が全滅するのに、大した時間は要しなかった…。
「その指輪、どうしたの?」
帰り道、アズラが聞く。
「これですか?ヴァン先輩に貰いました」
「そうなんだ…。ヴェクも何か貰ったの?」
「うん、一応な。また今度見せるよ」
「うん…それにしても、二人とも、一気に強くなったよね…。やっぱりヴァンさんとファルさんのおかげ?」
「はい!アズラ様といっしょに戦いたいと思ってがんばりました!」
「もっと強くなったら、いっしょに採取とか行ってよ!」
「うん、約束するよ」
「では魔術祭の朝、起こしに行きますので、いっしょにまわりましょうね!」
そう言って寮に駆けていくマリィ。
「え、あ、ちょっと!来なくていいって!」
「諦めな、兄貴。さ、寮に戻ろうぜ」
アズラの苦労は続く…。
次回より章末イベント。今回は三年生の知り合いがいるので二本立てです。
波乱の魔術祭、開幕です!
お楽しみに!