誘拐事件、天才魔術師と究極剣士6
わたしは至って普通の魔術師の家系に生まれた―
「なに!?この子は!」
「おい!本当に俺たちの子なのか!?」
わたしが生まれたとき、両親が一番に言った言葉がこれだ。
生まれたときから異常な魔力を放ち、両親、親戚、近隣の人々に恐れられ、迫害されるようになった。
具体的には両親からは虐待をうけ、そのほかの人からはいないものとして扱われた。
小学校に入るとさらにひどい目に会った。
教師は当然、わたしを無視し、同級生はおろか、上級生、果ては下級生にまでいじめられた。
家でも外でも、精神的にも肉体的にも苦痛を受けていた。
そして中学に入ると遂に家を追い出された。
確かに、家にいるのは苦痛だったが、死なない程度には世話をしてくれた。
わたしは公園や路地裏に寝泊まりし、昼は中学、晩はアルバイト…といってもきつくて安いアルバイトだったが…をしながら暮らしていた。
中学卒業の日に、学園からスカウトが来た。
「あなたは非常に素晴らしい魔術の才能がある。学園に、来ないかね?」
スカウトには学園長自らが来た。
必要とされたかったわたしは、二つ返事でその話を受け、学園に入学した。
確かに学園の教師はわたしを邪険に扱わなかった。
しかし、生徒はそうでもなかった。
寮の部屋の窓を割られ、教室に閉じ込められ、物を盗まれもした。
そんなわたしの唯一の友人がファルだった。
わたしとは対極に位置する、アイドルのような存在だった。
彼女は、わたしを迫害しなかった。それどころか迫害から守ってくれた。
「ただ、ファルの努力も虚しく、迫害はどんどん強まった。耐えきれなくなったわたしは、一年の終わりに学園長にこのことを相談した。
学園長はわたしに独学用の教科書を与えてくれ、森林エリア―特に異世の密林の警備を条件に輝きの森一帯の土地をわたしに貸し与えてくれた。
引っ越しの前日、ファルにこの話をすると、『一緒に移り住みます』と言ってくれたんだ。
そうしてこの小屋に住み始めた訳だが、どこからかその話を聞き付けたメゾとグル…さっきの奴らだ、を中心に再び迫害が始まった。
その時にわたしは決めたのだ。この森には誰も踏み入れさせないと」
「…どうしてファルさんは一緒に移ったのですか?」
「わたくしの家の家訓に、『常に自分の思うままに進め』というのがあります。だからここでヴァンの支えにならないと、自分の心に嘘をつくことになったと思ったからです」
「そうなんですか…」
「そういうことだ。わかったか?」
「はい…あの、僕も…支えになれますか?」
「必要ない…と言いたいところだが、君は非常に見込みがある。たまに遊びに来るがいい。そしてそうだな…そろそろ無差別排除はやめにしようか」
「お待ちしていますね」
「ありがとうございます!」
「あと、治療費代わりに…ほら、烈光の実だ、持っていけ」
「ありがとうございます。…そういえばファルさん?」
「はい、なんでしょう?」
「さっきの分身はなんだったんですか?」
「あぁ、あれは片方がわたくしの契約精霊、ゲンガーで、もう片方がオリジナルの《幻影の投影》です。戦闘訓練の時にも見せたでしょう?」
「あの時は…よくわからなくて…」
「そうだな、確かにファルは速い。本気を出せばわたしでもなかなか捉えられない」
「そんなことないですよ。わたくしとヴァンの手合わせの成績はわたくしから見て202勝281敗でヴァンの勝ちです。ヴァンの方が強いですよ?」
「今は速さの話だ…っと、先にアズラを送るとしよう。ファル!」
「はい、ではまた今度、お待ちしていますね」
「あいたたた…忘れてました…」
「さて、久々に」
「手合わせと、参りますか」
―究極魔術師たちとの、繋がりができた―
次回より第六章、季節は秋に向かいます。
新しい仲間も加わって、さらにドタバタになるのか…?
お楽しみに。