魔術祭!神速鬼ごっこ!?4
第二章最終話です。鬼ごっこの結末やいかに!?
「テキ…カナァ…」
こちらに気付いたエルフは片言の共通語で状況を確認する。
対する五人は無言で戦闘体勢に入る。それを見たエルフも腕を服に入れた。武器の準備をしているのだろう。
片や五人の魔術師。無鉄砲なテムダやサクヤも突撃はしない。不用意な行動は隙を作り、一撃必殺の暗殺術の餌食になることを理解しているからだ。
片や暗殺の訓練を受けたエルフ。こちらも逃げようともせず、仕掛けようともしない。暗殺は一対一が基本。賞品が一つのこの大会で、五人もの大所帯と対峙することは今までなかった。逃げるにも残りの体力が少なく、逃げ切れるか不安なのだろう。隙を探して一人ずつ倒すつもりだ。
数分の時が過ぎた。このエルフなら一人を倒すことは容易い。しかし暗殺を生業とする以上、生還が基本と教えられていて、敵の集団に突っ込み、一人を殺ることは教えを破ることになる。良くも悪くも教えをしっかり守っている。しかしこのままではらちがあかないと考えたらしく、懐から右手を出した。指の間には投擲用のナイフが四本。
そして…
「ヤアッ!」
ナイフが飛ぶ。速く、的確に急所を狙う刃。まさしく一撃必殺の暗殺術だ。迫り来る刃に……
「「《ハイ・シルド!》」」
アズラとエンカが宣言する。大きな盾二枚に阻まれたナイフは地面に落ちる。その盾の間を縫う様にカティが矢を射る。こちらも急所を狙う技。もっとも、警戒している相手に当たる訳はない。
避け、そのまま疾風の様な速さでテムダに駆け寄り、体術で仕留めようとするエルフ。狙う場所は頭、胸、背後にまわって背骨といった致命傷になりうる点。プロテクターがあるので受けても死んだり、後遺症が残ることはないが、戦闘不能は確実だ。
テムダに打ち込む直前、
「《スロウ!》」
とアズラがエルフを捉え、幾分か動きは怠慢になった。しかしそれでも速いうえ、強い。クイックをかけてすばやく動き、強化術を使ってなんとか防ぎ切れている状態だ。
「《サンダー!》」
「《ファイア》」
姉弟が援護をする。打ち込みながらも警戒していたエルフは一気に後退して回避する。
後退したエルフを矢が狙う。その数十七本。
全て回避は隙を作ると判断したのか、ポケットからナイフ――投擲用ではなく白兵戦用だ――を取り出し矢を打ち落とす。
次の瞬間には矢を盾にしてアズラが接近する。右手には魔法銅の剣、左手にはあのナイフを持っている。さらに、クイック、ストロン、ソリッドにサクヤの強化術を受けた状態で駆け寄る。今回は相手にスロウはかかっていない。故に相手は速く、二刀でやっと打ち合えるレベルだ。
しかし……
「スキ…アリッ!」
一瞬の隙を付き、後ろに跳びながらナイフを投げる。今までのナイフとは違う、投擲用ではない白兵用のナイフだ――つまり飛距離は期待出来ないが、威力は高い。
それがアズラの胸を狙う。防御魔術は間に合わないと思われたが……
「《守りを…解放します!》」
ナイフが輝く。刹那、巨大な盾――ハイ・シルドを蓄積したものだ――がアズラの前に現れた。
ガキッ!と鈍い音を立てて落ちるナイフ。アズラを倒したと思ったエルフには隙があり、しかも無手だ。
アズラが駆け寄り二刀で切り付ける。ヒョイ、ヒョイとかろうじてかわしていたエルフだったが…
「ナ…ニッ!」
急に足が止まった。見れば足元に魔法陣が描かれている。先ほどの不良が描いた結界だろう。これ好機と見たアズラが……二刀で切り裂く!
「コ…ノッ!」
足が動くようになったエルフは、傷を負い、今の状態ではアズラの相手は不利と考えたのか、近くにいたエンカを狙って突撃する。
しかしエンカは動じることもなく、胸に下げていたチャームを握ると……チャームが光る、その光を浴びたエンカは……
「ナニッ!?」
エルフの攻撃を通り抜けていた。見ればエンカは半透明で実体ではないことが伺える。次の瞬間、エンカが元に戻ると……
「バカニシヤガッテ…オマエラ…イイカゲンニ…シロ!」
紫の薬を取り出し、飲む。暗黒剤――闇の力を得て能力を向上させる薬だ。効果は向上剤の三倍と言われている。
「フ、フフ、フ…」
怪しげな笑みを浮かべながら、じりじりと詰め寄ってくるエルフ。しかし……
「残念ね、みんな、私に任せて!」
喜々として、弓を構えたまま髪飾りに触れるカティ。刹那、カティに光が集まりだし、一本の光の矢が生まれた。その矢をつがえ、射る。
当然、その程度は避け、こちらに接近するエルフだったが……
「グワッ!」
なんと純白の矢がUターンして戻ってきた。明らかな一撃。エルフはその場で倒れた。
「何したの…カティ…?」
「あの矢?この髪飾りには光を操る力があって、それで矢を作ったの。ちょーっと魔力を追加して邪悪誘導の効果を付けたのよ」
暗黒剤の闇属性に反応したのだろう。
「ふ〜ん、エンカのは〜?」
「……魔力を込めると…対象を霊体にできる……」
「そうなんだ」
納得した二人。倒れていたエルフを見ていたテムダは…
「おい、見ろよ、こいつ人形だぜ!」
見ればカティが貫いた部分や、アズラが切り裂いた部分はショートし、バチバチと電気を纏っていた。
「ほんとだ…人形だね…」
「学園も…やることがすごいわね…」
「カティ〜、持っていきなよ〜?」
「そうね、一応私が倒したんだし」
その言葉に同意する四人。四人に微笑みかけた後、エルフの人形を抱えて歩き出すカティと四人。
『ただいま…けっちゃ〜く!』
『優勝は…一年生のカティさんで〜す!』
結局、妨害も何もなく、会場に戻れた五人。おそらく、五人の戦闘能力の高さに恐れをなしたのだろう。
『みなさ〜ん!これより閉会式を行いますので会場に集合してくださ〜い!』
『優勝者のカティさん!こちらの舞台へどうぞ!』
「あの…すみませんが…」
『ん、どうしました?』
「あの人たちも、舞台に上がることってできますか?」
四人を指差し聞くカティ。
『もちろんです!みなさんもこちらにどうぞ!』
―そして閉会式―
『今回のメインイベント、神速鬼ごっこの優勝者は〜?』
『『一年生のカティさんとその仲間たちです!』』
ワァーッと盛大な拍手と歓声が上がる。
『カティさんには商品として、属性を貯めれば何度でも使える、このマルチクリスタルと!』
『副賞として、20000リムが贈呈されます!』
賞品を受け取った後は、もう普通の閉会式だった。開会式の時より人はとても減ったけど、元気な終わり方をした。
―こうして、五人の初めての魔術祭は幕を閉じたのだった――
これで全工程の6分の1。次回より第三章。冬に向かう学園、章末イベントは超冬の予定です。