巨大熊!闇の死霊と光の聖女
薬学2編、採取パートその2です。
敵は出現しますが……相手が相手なので…
「ガオオオオオ!!」
「「わ(きゃ)あああああっ!!」」
アズラとカティは森を走っていた。
その手にはキラリと輝く白い牙。
後ろにはとてつもなく大きな熊。
獣牙の寝床に生息するビッグベアだ。体力が高く、力も強いが足が遅い。足が遅い…はずなのだが……
ドドドドド!と50mを5秒ぐらいで走れそうな速さで追いかけてくる。何事にも例外は存在するようだ。
対する二人はクイックをかけて全力疾走で逃走中。これでやっと追いつかれない速さだ。
残りの三人は別行動。理由は大所帯になると獣たちの警戒が強くなると判断したからだ。
ひたすら逃げる二人。ただ逃げている方向がめちゃくちゃだ。学園は西、進行方向は東だ。このままでは学園ではなく、さらに危険な地域に踏みいってしまう。
かなり走った後、後ろを振り向くと、ビッグベアの姿はなかった。
「さっきの…何だったの…?」
「私たち…縄張りには気をつけてたわよね…」
しかしパニックを起こしていた頭は、ビッグベアがいなくなったことで落ち着いてきた。落ち着き、冷静になったところで……
「「…………」」
まわりの空気が怪しいことに気付く。簡単に言うと、この世の空気ではない。霊界とか冥界の類だ。
「カティ…これ…ちょっと不味くない…?」
「ここって…まさか…!」
そう言って生徒手帳を確認するカティ。
「やっぱり…ここ…『異世の密林』よ…」
そう言ってアズラを見るカティ。しかし…
「きゃあああ!!」
カティが叫ぶ。なんとアズラが倒れていたのだ。
異世の密林――森林エリアの最終地域――星6でとても危険な地域――妙な空気に包まれる密林だ。
「ア、アズラ…大丈夫…?」
しかし返事はない…。
「カカカッ、その坊っちゃんはここで終わりじゃ」
見れば肝試しの時見たような幽霊がいた。しかし禍々しさは桁違いだ。
「うっ…《祓って!祓って!》」
霊体と判断し、退魔を放つカティ。しかし効いてはいるのだろうが、相手の耐久力が高く、まったく相手にされていない。
「カカカッ!効かんが少々うるさいのぅ。放っておいても倒れるじゃろうが、儂の手で倒すのも一興じゃな」
幽霊は懐から黒いランプを取り出し、掲げる。すると、カティを黒い霧が襲う。
「えっ…こ…れは…」
バタリとその場に倒れるカティ。
「カカッ!これでさよならじゃな!」
愉快そうに笑いその場から消えようとする幽霊。
「…ハァ…またあなたか…《除霊せよ!》」
「むっ!?」
突然の来訪者に戸惑いつつも対応する幽霊。
「観念しなさい…リッチ…行きなさい!《セインピト!》」
来訪者は白く輝く炎を数匹呼び出す。
召喚術――上級魔術で使い魔などを呼び出す魔術だ――。
呼び出された炎は一直線にリッチに向かう。速く、力強い体当たりがリッチを浄化する。
「くっ…また嬢ちゃんにやられたの…だが儂はまた蘇る!」
そう言って消えるリッチ。
「ふう…これで12回目だったか…?」
来訪者――美しい女性だが、二年生のようだ。
「…一年生か…命知らずな…」
二人を抱えて空間干渉を行う女性。
ひゅっ!と音がして学園長室に三人の人影が現れる。女性と気絶しているアズラ、カティだ。
「おや…ヴァン、久しいね…」
嬉しそうに言う学園長。
「はい、お久しぶりです学園長、四ヶ月ぶりでしたか?」
「そんなところだね。………と一緒に元気でやっているかね?」
「はい、お陰様で」
「ところで…どうしたのだね?その二人は?」
「えぇ、異世の密林で倒れていたので連れて戻ってきました。…一年生ですね?」
「あぁ、すまないね…。本来は教師の仕事なのに、君に押し付けて」
「いえ、そういう約束ですし、なにより暇ですから」
「ありがとうね。えっと…あ、あれ!?アズラ君にカティさん!?」
驚く学園長。
「目をつけている生徒なのですか…?どうでもいいですが…。では私はこれで」
空間干渉で消えるヴァン。
「…異世の密林に行くとは無謀な…。…いえ、きっと理由があったのでしょう…」
そう言って教師を呼び病院室に二人を連れて行かせた。
「ヴァン…どうしてあんな優しい子が…」
二人を病院室に送った後、そう呟いた学園長だった。
次回で薬学2編は終了です。
この章の章末イベントは学園祭になっています。お楽しみに。