決戦、封印の災厄!11
「勝った…、終わったの…よね…?」
スティンを完全に封印したことにまだ実感が湧かない三人。
「…そうだ!俺たちは勝ったんだ!」
思い切り喜ぶテムダだが…?
「…元気だね…」
「寝てたからじゃない?」
アズラとカティは表情こそ柔らかいが、身体は疲労困憊、魔力もからっぽでとても動ける状態ではない。
「まぁとりあえず、レイカさんに感謝しましょ」
「そうだね…姉さん、ありがとう…。敵は討ったよ…。後は、ゆっくり休んでね…」
「私たち三人を守り、勝利に導いてくださり、本当にありがとうございました…。安らかに眠りください…」
感謝と追悼の意を込めて、厳かに祈るアズラとカティ。
ちなみに、そんな二人を無視してはしゃいでいたテムダが、何故か崩れた天井から落ちてきた、石の塊の直撃を受け、悶絶しているのは必然だろう。天罰だ。
「…なんか祈ったら身体が少し軽くなったわ。動ける?アズラ」
「うん、大丈夫。…行こうか?」
悶絶しているバカを置いて、二人で道を戻ることにした…
「アズラさん!カティさん!無事だったのですね!」
「よくやった。…一人減ってないか?」
レイカがエリキシルを埋めていた空洞まで戻ると、ヴァンとファルが出迎えてくれた。疲労困憊の二人には強い味方のはずだが…?
「先に言っておきますが、次元、折れてしまいした。帰りは徒歩です」
綺麗に二つに折れた次元を見せるファル。とても使い物にはならない。
「ところでテムダさんは?」
「あいつならレイカさんの怒りを受けてのたうちまわってたわ。…自業自得よ」
…まったくだ。
「そうなのですか」
「わたしはてっきり死んだものかと…」
即死魔術を一度受けたので、死んだと言えば死んだ。ただ、テムダに発現したエリキシルの不思議な効果、『一番始めに受けた害のある魔術を無力化する』で助かったから生きているのだが。ちなみに、カティは『一度だけ魔力を使わず魔術を使える』、アズラは『固有魔術の発現』が発動した。レイカは、ここまで見越していたのだろうか?
「てめぇら…置いていくなんて…ひでぇぞ…」
後ろから意識朦朧としたテムダがふらふらと歩いてきた。本当にダメージは甚大だったようだ。…知ったことではないが。
「あらテムダさん。ご無事でしたの」
「どうせ調子に乗ったらバチが当たったとかその辺だろ?行くぞ」
「ま…待ってくれよぉ…」
せっかく追いついたのに、また置いていかれるテムダでした…
「うう…カティ~、もう限界~…」
ルケノとエリアスが乱入してきた辺りまで戻ると、スリートがカティに向かって高速浮遊移動してきた。そのまま、何も言わずブローチに戻ってしまった。
「お疲れ様、スリート。ゆっくり休みなさいな」
ブローチになったスリートにねぎらいの言葉をかけるカティ。その少し向こうでは…
「レム、大丈夫だった?」
「当然だ…。お前たちも、一応無事だったみたいだな?」
「うん、姉さんに何度も助けられたけど、スティンを完全に封印できたよ」
「…フッ、よくやった。主人ですらできなかったことをやってのけるとは…、一人前として認めてやるぞ?」
「あっ、今までは一人前じゃなかったってこと!?」
「当然だ。…それより、ルケノが用みたいだぞ?」
レムとアズラが話している間に、ルケノが二人に近寄っていた。
「どうしたの、ルケノ?」
「あー…ちょっとエリアスがやばいんだよ…。…まぁ、ちょっと来てくれ」
珍しく歯切れの悪い話し方をするルケノ。不思議に思いながらも、ルケノに連れられアズラはエリアスに近寄る。
「あ…ルケノ…。アズラくん…連れて来てれた…?」
「大丈夫ですか!?エリアスさん!」
「あんまり…大丈夫じゃないわ…。ちょっと力使い過ぎて…消えそうなの…」
たしかに、足や腕が少し透明になっている……気がする。
精霊は魔力の集合体である。しかし、アズラの零を筆頭に、魔力を瞬時にゼロにする手段はいくつか存在する。そういうものを受けた時、一瞬で消えないよう、予備の魔力を精霊は持っている。精霊の存在が消滅するとなると、よほどの魔力を消費したのだろう。
「おいエリアス…」
何かに気づき、エリアスに話しかけるレムだったが、ルケノが止めた。
「大丈夫ですか!?」
「全然…よ…。ねぇアズラくん…お願いがあるのだけど…」
「なんですか?」
「私と…契約してほしいの…。そうすれば…失った魔力を補って…助かると思うから…」
「わ、わかりました!えっと、どうやって…?」
「おいムスペイル、お前どうやって契約したんだ?」
ルケノがレムにこっそりと聞く。アズラとレムが契約しているのに、アズラが契約の方法を知らないことを疑問に思ったのだろう。
「あいつが寝ている間にこっそりだよ。…それにしてもあいつ、何を考えている?」
だからアズラはレムが精霊だったことを知らなかったのだ。
「…知らねぇ…」
呆れたように言うルケノ。…知ってるだろ、ルケノ。
「そう…手を出して…」
「こうですか?」
その間に、二人の契約は着々と進んでいた。
「そう、後は…『我、フィルナ=エリアス、新たなる主の申し出に応え、契約に応じん!』…これで完了よ」
「これでエリアスさんは…?」
「…エリアス、いい加減に猿芝居はやめろ…」
「あら、ばれてた?ルケノ、協力ありがとね!」
「…約束は、守れよ?」
「もちろんよ。…さて、アズラくん。いや、アズラ様の方が萌えるかしら?これからよろしくね!」
「え、え!?どういうことですか!?」
急に元気になったエリアスに、疑問をぶつけるアズラ。
「まぁ単純に言うとだな、お前はエリアスにはめられたんだよ」
「え…じゃあさっきのは…」
「もちろん演技よ。私が水の精霊ってこと、忘れてた?」
つまり、水の量や質の調節で、身体の透明感くらい変えられるということだ。後は、適当に演技で騙す。
「解約は…?」
「まぁ、まず無理だろうな。解約にはマスターと精霊双方の合意が要る」
「うふふっ、これからよろしくね、アズラ様っ!」
「大変だろうが、俺は知らん」
「ルケノ~、助けて!」
ルケノに助けを求めるが…?
「なんだ、刀が折れたのか?」
「はい、手入れは熟知しているのですが、修理はまったく…」
「なら、おれが直してやるよ。こう見えて鍛冶屋のまね事は得意でね。2、3日で直してやるよ」
「まあ!ありがとうございます!」
「なあに、礼には及ばんよ」
ファルと次元の修理について話していた…。
「諦めなさい、アズラ。…そろそろあの馬鹿も追いつくだろうし、行きましょ」
たしかに、奥からズルズルという音が聞こえる。ただ、また置いていかれるようだ。
「おかえり~!疲れたよ~!」
「…負けたわけ…ないよね…?」
『二人の魔術師置いてけ』の門まで戻ると、ずっと魔力を通し続けていた二人がいた。いや、いないと門が閉まってるんだけど。
「ごめんね、サクヤ、エンカ。…悪いけど、あともう少しがんばって」
「どうしたの~?」
「…テムダが馬鹿やって…バチ当たったとか…?」
見ていないはずなのに、大当りである。
「そんなところよ。…ほら来た来た」
またしても後ろからズルズルという音が聞こえる。音からすると、ずいぶん回復したようだ。
「おい…お前ら…「…じゃあ行こうか…」………」
門は通れたが、また置いていかれたテムダだった。
「うわ!?どうなってるの、これ!?」
「ア、アズラくん!ごめん、ちょっとドジって…」
「大惨事なのデス…」
グレイシャル、ジクス、ジャラクの三人は、いまだに荒れ狂う溶岩の処理に追われていた。
「ラヴァの始末の方法間違っちゃって…。どうすればいいの!?」
とりあえずアズラたちに八つ当たりしてみるジャラク。
「…どうしよう…」
「なんだなんだ!?溶岩が暴れてんのか?」
アズラが少し早くきたため、遅れてくる形となったルケノ。
「あなたは…?」
「とりあえず適当に鎮めるぜ?おら、言うこと聞け!」
手をかざして一喝するだけで、あれほど暴れまわっていた溶岩がもとの海状態に戻った。…三人とも、ご苦労様…。
「わりぃ、名前聞かれたのに答えなかったな。おれはガルゴ=ルケノ。火の精霊だ」
「上級、が抜けたぞ、ルケノ」
猫状態に戻ったレムが冷静に補足する。
「おいおい、美人さんばっかなんだから、ちょっとくらい謙遜させてくれよ」
つまり、彼なりのカッコつけつもりだったようだ。
「とりあえずありがとう、ルケノさん。それとアズラくんたち、今からこれ、さっきの速さで渡れる?」
これ、はもちろん溶岩の海である。
「…無理ですね…」
「でしょう?でも今の私たちだけじゃ、さっきよりさらに速く渡ってもらわないといけないの。…私の娘、もう使えないでしょう?」
「たしかに…限界だったと思います…」
マスターであるカティが答える。
「…とりあえずおれが協力するとして、アズラ、エリアスの力を借りればいけるんじゃないか?」
ルケノがとてもまともな提案をする。
「…喚ばないとダメ?」
「安全に渡りたいならな」
レムが冷静に返す。
「わかったよ…。召喚!えーっと…澄水の女神、フィルナ=エリアス!」
即興で召喚の前口上を考えて言うアズラ。ちなみに、澄水をなんと読んだかは秘密です。
「あらアズラ様…。ご主人様の方がより萌えるわね…。何か用?」
どうでもいいことを考えながら現れるエリアス。
「…溶岩、渡りたいんだけど、手伝って」
なんとなくイライラしたので、ぶっきらぼうに言うアズラ。
「ご主人様のご命令とあらば」
…完全にふざけている。
「やっと追いついたぜ…」
後ろからテムダもやって来る。
「じゃあルケノさん、エリアスさん、手伝ってくださいね」
「《クウカンチエン!》」
ジャラクの古代禁術を皮切りに、残りの三人も、思い思いの方法で溶岩を制御する。
「皆さん、走ってくだサイ!」
ジクスを先頭に、走る人間たち。ルケノは溶岩くらい平気、エリアス、グレイシャル、ジャラクは浮遊能力があるので適当に行くつもりだろう。
「…ごめんなサイ、大誤算でシタ…」
余裕で向こう岸にたどり着いた八人。上級精霊ってすごい…。
「大丈夫よ。ほらみんな、行きましょ!」
「…学園遠いな…」
もっともである。
やっとの思いで洞窟の入り口まで戻ったアズラたち。
「アズラ様ぁ~!」
「うわっ!?」
アズラの姿が見えると一目散に突進し、抱き着くマリィ。今までの心配から解放された反動だろうか?
「おかえり、姉貴。…ずいぶん増えたね」
「そうね、七人くらい増えたわね。…でも助かったのよ?」
「グレイシャルさんたちにはオレたちも助けられたよ。…あれ、エリアスさん?」
抱き着くマリィと、あやすように撫でるアズラにそーっと忍び寄るエリアス。アズラが撫でているのは、マリィが泣いているからだろう。
「…あ…忘れてた!」
カティが止めようと走り出すが…?
「私を忘れちゃイヤッ!」
「ぎゃっ!?」
「きゃあっ!?」
いきなり飛びかかってきたエリアスに押し倒されるアズラとマリィ。エリアスの目的はアズラで、マリィは巻き込まれただけだろう。ちなみに下が硬い岩場だが、瞬時に後ろにまわったエリアスが受け止めたので、ダメージ自体はゼロだ。
「アズラ様、これは…?」
泣き顔から一転、ひくついた笑顔に早変わりするマリィ。
「私がアズラくん…、いやご主人様のものになったのよ」
「違うからね!マリィ!騙されて…」
「うわーん!アズラ様のばかぁーっ!」
大泣きしながら、止めに来ていたカティに抱き着くマリィ。カティも、慰めながらマリィに何か言っている。
「……そろそろ行かない…?…疲れた……」
「そうですね、皆さん!行きますよ!」
ファルが全員に呼びかける。みんな疲れているのは同じらしく、あっさり同意した。
で、洞窟の外―
「あれ?誰が空間干渉するんだ?」
ヴァンが言う。全員魔力はからっぽ、頼みの綱の次元も使えない。
「………」×14
―一応、終わり―
普段は休んでいる日曜日ですが、あと一話ですので、明日に最終話の更新をすれば、のんびりあとがきなどを書けるかと思って更新しました。
…明日で終わりです。寂しいものです。