決戦、封印の災厄!4
「どうしよう、これ…」
いまだに溶岩の海で足止めを喰らっているアズラたち。時間をかければ、スティンの復活に間に合わない可能性も出てくる。
「…なにか、しかけとかないかしら…」
そう言って、辺りの壁を調べるカティ。隠しスイッチやレバーを探してみる。…まぁ、そんな物はないのだが…。
「姉さんはどうやって通ったんだろう?」
アズラが疑問を口にする。
ちなみに、レイカの場合は、『翼を得る』という効果の天界術で、飛んで渡ったのだ。カティは、それを習得できていない。
「……空間干渉も…できない……」
エンカの実験も徒労に終わった。
「あぁー!どうすりゃいいんだよ!」
テムダが叫んだその時…。
「《ダイヤモンドダスト!》」
「《クウカンチエン!》」
二つの女性の声が響く。すると、溶岩の海が、みるみるうちに凍りついていく。
「みなさん、進んでくだサイ!」
そう言いながら、先陣を走るもう一人の女性…型ホムンクルス。現れたのは、グレイシャル、ジャラク、ジクスの三人だった。
「は、はい!」
凍りついて固まった溶岩の上を駆けるアズラたちとジクス。溶岩が凍りついたからか、辺りから炎を纏ったコウモリ、フレイムバットが現れた。
「邪魔デス!」
そう言うと、右手を何かに変えるジクス。変化した右手からは真っ白な粉が噴射される。
「消火器って…」
変化した右手の正体は、火事のときに魔力を使わず火を消す道具、消火器だった。たしかに、フレイムバットは火が消えると死ぬため、有効な選択かもしれないが…。
「みんな!急いで!」
グレイシャルが叫ぶ。見れば、氷が端のほうから溶け始めている。しかし、ジャラクの古代禁術のおかげで、溶けるスピードはかなり遅い。
「ヌオオオオ…」
「!?ラヴァ…」
氷が溶けた場所から、溶岩でできた雪だるまのような魔物が現れた。
「もうすぐ向こう岸デス!がんばってくだサイ!」
「うおあっ!?」
向こう岸は目の前の状況だが、ラヴァの登場によって、氷が溶けるスピードが格段に上がった。すでに最後尾を走るテムダの後ろ五歩まで迫ってきている。
「跳んでくだサイ!」
自らが跳ぶと同時に、ジクスが叫ぶ。それに従い、五人も大きく跳んだ。
「うわぁ…危なかった…」
アズラたちが岸に着くと同時に、氷は完全に溶けきった。残りの二人は、浮遊しているため大丈夫だ。
「じゃあカティちゃんたち、がんばってきてね」
「応援してるわよ~」
「ご武運を祈っていマス」
「あれ?グレイシャルさんたちは?」
「帰り道の確保よ」
そう言ってラヴァを指し示す。
「わかりました。行くわよ、みんな!」
カティの先導で、洞窟を再び突き進む五人。難関だった溶岩地帯は、助っ人のおかげで大した苦労もなく突破することができた。
その頃、洞窟前―
「余裕出てきたから来てみたが…噂以上だな…」
「あら?奇遇ね?」
「なんだよ、お前も来たのか?」
「ええ。恋人候補のお手伝いよ」
「…けっ、悪趣味な。ずいぶんな年増の分際で…」
「うふふっ、外見年齢なら問題はないわ。…それより、どうやって進む?普通に行くと、追いつかないわよ?」
「それなら、考えがある」
「うえ…行き止まりかよ…」
一本道を突き進んでいたはずの五人。しばらく走ると、袋小路にたどりついてしまった。
「そんなはずは…。通る方法が何かあるのよ」
「あれ~?何か書いてあるよ~?」
サクヤが壁に刻まれた文章に気づく。カティの言う通り、通る方法のようだが…?
「この洞窟、封印された後にこんな構造になったの!?いったい、あいつはどんな魔術師なのよ!」
壁の文章はこうだ。
『―この門をくぐるならば、二つの魔力を礎にせよ。さすれば道は開かれん―』
つまり意味するところは、『魔術師を二人置いていけ』だ。
「……ことごとく戦力…削る気だね……」
「どうする?誰が残るんだ?」
「私とアズラは進むわよ」
「なら…「じゃあアタシとエンカが残る~!」…どうす…る…」
サクヤがテムダの質問を阻んで言う。エンカも、それに同意しているようだ。
「いいのか?それで」
「……大丈夫…。…テムダは的に向いてるから……」
「なんだよそれ!」
「囮は大事ってことよ。…二人とも、ごめんね」
「……うん…。…じゃあ開けるね……」
よく見ると、近くの壁に、模様が二つあった。それにエンカとサクヤが触れると…?
「開いたね…」
「じゃあ、行ってくるわね」
「勝ってきてよ~?」
「……がんばれ……」
いつもは無表情なエンカが、少しだけ笑った気がした。
―残り三人―