四本の閃光
「っ…しまった…」
猛毒の霧を吸い込んでしまった四人。神経毒も含まれていて、動けなくなる。
「くっ…魔力にまで影響しますか…」
あげく、魔力にも干渉するらしく、魔術の発動もできない。
「アズラ…様…」
「解毒薬なんて…持って…ないし…」
「ズオオッ…」
今度は正真正銘の闇のブレスを吐こうとする屍竜。
しかし、動けないうえに、魔術も使えない四人に回避する術はない。終わりか…と思われたが…?
寸前で光の壁が現れる。言わずと知れた天界術。絶対防御は危なげなく闇のブレスを防いだ。
「間に合ったわね!《ウィンド!》《アンチ!》」
風を起こして霧を吹き飛ばし、アンチでアズラの毒を抜くカティ。
「兄貴!師匠!マリィ!大丈夫!?《アンチ!》」
同行していたヴェクも現れる。
「ありがとう、カティ!《アンチ!》」
「ヴェク、すまない。《アンチ!》」
マリィとファルの毒も抜ける。
「カティ、どうしてここが?」
戦闘中だが、もっともな疑問を口にするアズラ。
「え?さっきすごい光が起きたから。何かすごいことになってるのかと思って。そしたら、毒にやられてる四人と…なんか変なドラゴン見つけたのよ」
さきほどのグランス×4はけっして無駄ではなかったようだ。
「カティとヴェク足して、六人いれば同時に当たったりしないかな?」
「…無理だろうな。微妙にずれても失敗だから、一人が全部やらないとダメだ」
「…そっか…」
しかし、今この場には、同時に複数の魔術を扱える人がいた。
「あ、私じゃダメ?」
カティである。
「…同時に3、4の光属性を撃ち込めるなら…、できるか?」
「おそらくね。二つの歌!」
そして、詠唱を始めるカティ。詠唱するのは、術式と術歌だ。さらに、弓も具現化させている。
「みんな!カティからあいつの気をそらせ!」
ヴァンの号令で全員が気を引く行動をとる。
「《ライトッ!》」
「《スプラッシュ!》」
アズラとマリィの二人が簡易術式で牽制する。
「ズズッ…」
ダメージこそすぐに回復されたが、気を引くことには成功した。
「痛みなどないのですよね?」
いつもとは違い、居合斬りで一撃をいれるファル。足を一本、半分くらい斬り裂いたが、すぐに再生される。
「《いけっ!》」
屍竜を飛び越えながら、背中に投影で数本の剣や槍を突き刺すヴェク。刺さったまま、傷口を塞いだ。キモチワルイ…。
「ズオオッ…」
猛毒の霧を吐こうと、息を吸い込む屍竜。吐き出そうと口を開けた瞬間…。
「《メガ・シルド!》…残念だったな」
相手の口の中に盾を作り出したヴァン。霧を吐けずに、むせ返ったような反応をする屍竜。あげく、大きな盾を強引に口に引っ掛けたので、顎が外れたようだ。
「………」
目配せで五人に合図をするカティ。「準備できた、下がって」だろう。
「みんな、下がれ!」
再びかかるヴァンの号令。全員それを合図に、大きく距離をとる。
「《グランス!》《歌唱終了!》(女神の裁き!)これで…どうよっ!?」
三つの魔術に、対邪、対霊の両方を兼ねた矢。それらはキレイに一点で交錯し、屍を穿った。
「うわぁ…」
思わず感嘆の声が漏れるアズラ。四本の光が交錯するのは、かなり幻想的な光景だった。醜悪な屍竜が貫かれる光景を差し引いても、だ。
光が消える頃には、醜い屍は、跡形もなく消え去っていた。
「ふぅ…さすがに疲れるわね…」
「お疲れ様、お姉ちゃん」
「助かったよ、カティ」
「ああ…ありがと…」
アズラやマリィからねぎらいの言葉を受け、返事をするカティ。まぁ、あれだけの攻撃を同時に放てば、疲れるだろう。
「ねね!すごい光があったけど、何かあったの~?」
「……終わった……?」
エンカとサクヤが現れる。少し来るのが遅かったようだ。
「遅いわよ…もう終わったわ」
「あはは~、ゴメンね~」
「……ごめん……」
「まぁ、一通り倒したみたいだし、帰ろうか。もう日も暮れてきたしな」
「そうですね。では、空間を繋げますね」
「…何か忘れてない?」
「そう?気のせいじゃない?」
「…そうかな?」
そうして、学園に戻ったアズラたち。
「…あいつら…もしかして帰ったか…?」
忘れ物がぼやく。
「グググ…」
「冗談じゃねぇよぉー!」
今回で第十二章、通常編は終わりです。
…つまり、次回からは最終決戦が始まります。まだ学生の七人の活躍にご期待あれ?
お楽しみに。