空気を読まないって最悪だよね?
「《メルティ!》」
マリィの宣言で、ドロドロした溶岩の塊が現れる。
素質があるのか、はたまたヴァンたちの指導が良いのかはわからないが、二年生の終わりにして上級魔術まで全てを習得しているマリィ。
召喚された溶岩は、かなりのスピードで魔物に張り付き、溶かしてしまった。
「《エボニー!》」
アズラも一帯を覆う暗闇の術式でどんどん魔物を倒していく。
ものの数十秒でアズラたちの周囲にいた魔物はすべて消え去った…
「アズラ様、お怪我とかは…?」
「ないない。マリィががんばってるからね。…ホントすごいよね。二年生でここまで強いなんて…」
「…はふぅ…ありがとうございます…」
アズラにほめられて気絶しそうなくらい嬉しいマリィ。現に顔は真っ赤で、少しふらふらしている。
「きゃっ!」
「!?マリィッ!」
足場が比較的不安定なこの地域でふらふらしていたため、転びそうになるマリィ。
「…っ…!よし…」
アズラがマリィを抱き抱えて助けた。しかし、かなり密着しているわけで…
「アズラ様…」
頬は上気し、瞳はうるうるしているマリィ。とんでもないかわいさだ。
「…マリィ…」
さすがのアズラも、この状況でこの表情のマリィには参ったようだ。人形のようなかわいらしさを持つマリィが、自分を見つめてぼーっとしている。
そしてマリィの顔がゆっくりとアズラの顔に近づいて…
「ガグッ!」
「!?魔物!?」
抱き抱えていた両腕を離し、即座に戦闘態勢に入るアズラ。しかし…?
「…死ね…」
とんでもない小声で物騒なことを呟いたマリィが狼のような魔物に突撃する。幸いにもアズラにその言葉は届かなかった。
まさしく一瞬だった。相手にかかる直前で、二本の剣を具現化し、すれ違いざまに斬りつけ、片方を投げて足を痛めて動きを止め、バーンで焼き払ったマリィ。
あと少しでアズラを落とせたのに、この魔物のせいで台なしになってしまった。おそらくこの怒りは、この魔物をコンクリートに詰めて海に捨てたり、精肉機にかけてミンチにして家畜の餌にしても収まらないだろう。せっかくの、もう二度と訪れないかもしれないチャンスだったのに、本当に残念である。
「ア、アズラ様…」
とりあえずもう一度、アズラに詰め寄ってみるマリィ。しかしさきほどのような雰囲気はすでになくなっており、効果はなかった。
「…あの魔物さえいなければ…」
いなければ、少なくともアズラの唇を奪うことはできていただろう。あわよくば恋人になれたかもしれない。恨みは一生、残るであろう。
「あれ?アズラさんたちもここに?」
岩場からファルが現れる。何かを知って、ここに来たようだが…?
「なんだ、ファルも嗅ぎ付けたのか。…アズラたちは、たまたまだろう?」
ヴァンも現れる。やはり、何かあるようだ。
「ズオオオオ…」
「やはりこいつか…」
不気味な声とともに現れたのは、屍竜、ドラゴンゾンビ。高い再生能力と、強力な闇属性と毒属性の攻撃を持つ竜の墓場の最強魔物だ。
「…変異種ですね。気をつけてください」
「アズラ、マリィ、手伝え!」
「うん!」
「はい!」