実力者はつらい。本当につらい
「キャアアァッ!」
「《バーン!》」
「うおおぉっ!?」
「狙いすまして…フッ!」
現在地、幼き荒野。すでに二人の生徒を救った一同。つらつらと並べられる感謝の言葉を聞いている。
新しく対策チームに入った生徒は、士気こそ高いが、実力はアズラたちに遠く及ばない。まだ学園を出て三分も経っていない。これから何人助けることになるのか…?
答え、幼き荒野を出るまでに十三人。
魔物も総じて強力になっているとはいえ、さすがに危なっかしい。
「なぁファル、やっぱり『次元』で行かないか?」
「…士気に影響します。歩きましょう…」
現在地は命の洞穴の入り口。竜の墓場まではあと、ここと虚空の岩窟を通らなければならない。
「わあああああっ!」
「…またか…」
案外いい加減だった教頭の任務に、頭を抱え始めた…
で、結局命の洞穴を抜けるまでに十人。虚空の岩窟を抜けるまでに四人を助けた。虚空の岩窟での救出数が少ないのは、すでに倒れた生徒が多かったからであろう。実際、声はすれども姿は見えず、ということが二度ほどあった。
「やっと着いたか」
「そうですね、ヴァン。…みなさん、ここが『竜の墓場』です。普段、この先にある『封印の洞窟』は立入禁止ですので、実質ここが遺跡エリアの最難関地域となります。それで、作戦ですが…」
「《サイクロン!》…ここはあまり広くない。だから一人か二人くらいでバラバラで行動しようと思う。声がよく反響する地域だ。悲鳴くらいならよく聞こえるから、万が一のときは十分助けに行ける。…それでいいか?」
確認をとる傍ら、聞き取れないくらいの小声で、簡易術式を放っているヴァン。こちらを狙う魔物も数匹いたが、ほとんどが無視して虚空の岩窟に向かっている。それを撃退している辺り、ある意味、生徒思いの優しい先生である。
「うん、大丈夫」
ほかの六人を見渡し、異論はないことを確認してから、アズラが答える。しかし、考えが甘いヤツが一人いる…
「では組分けですが…わたくしとヴァンは単独行動です。みなさんは…一人だけ単独行動になりますね」
…一人になるのは読めたが。
「マリィ!マリィがアズラ様と!」
速攻で名乗り出るマリィ。当然、ほとんどが協力者なわけで…
「いいんじゃない?じゃあヴェク、行きましょ?」
「姉貴!がんばろうぜ!」
「エンカ~」
「……うん……」
さっさと二組が決まった。で、返事こそしていないが、アズラは流れ的にマリィとになるわけで…
「…俺は?」
「単独行動ってことになりますわ。だれも、拾おうとしませんし…」
要するに、仲間外れにされたのである。
「アズラ、三人で…」
一番組もうとしてはいけない組に声をかけてしまった。一気に五つの視線がテムダに突き刺さる。
意味は当然、「邪魔をするな、ボケ!」である。
「あ…わかった…一人で行くよ…」
かくして、竜の墓場の大掃除が始まったのだった…