犬小屋を百倍以上に拡大してみた
「…中は綺麗ね…」
魔王の城(?)の内装は、きらびやかでありつつも、趣を感じる不思議な雰囲気だった。…外観はどうにかならないのだろうか…?
「…魔物らしい魔物もいないね…」
先程から数匹の魔物は見かけているが、こちらに礼をするなど、襲ってくる気配など微塵もない。おそらく、この広大な城の召し使いなのであろう。
で、入口の扉を通ってから、ひたすらにまっすぐ進んでいると…
「カティ、嫌な予感しかしないんだけど…」
「奇遇ね、私もよ」
「……うん……」
「何なのでしょう…?」
突如として凄まじい不安に襲われる。そのアズラたちの不安の原因は、目の前の犬小屋である。『番犬ベールちゃんの小屋』とか書いてあるが、問題はそんなことではない。…デカイ、その一言に尽きる。入口は『実はこれ、トンネルなんだ』とか言われても信じてしまいそうなサイズ。近くの餌箱(透明)は風呂みたいに巨大。
…ここから結び付けられる結論は…?
「ガゴアアァッ!」
小屋の中から『番犬』が登場。なぜか、かなりご立腹なようだ。
「オルトロスッ…!?」
「違う、ケルベロスだ!!」
小屋から出て来たのはオルトロスの強化種――ケルベロスだった。さらに二本増えた足、三つになった頭、そして最悪の強化点が、二つに増えた心臓だ。生命活動に必要なのは一つだけなので、実際こいつは、一度死ねる…
「戦うしか、ないよね…?」
「……あっちは…やる気満々だよ……」
「ギガァッ!」
(《女神の盾!》)
襲いくるケルベロス。しかし、カティの絶対防御がみんなを守る。
「アズラ!マリィ!」
「「うん!」」
各々の剣を具現化した、アズラとマリィが左右からケルベロスを斬りにかかる。
「「ギゴアッ!」」
壁をぶち壊そうとする真ん中の頭を残して、左右の頭が二人に対処しようとするが…
「《……地縛……》」
エンカが異世術で動きを止める。まず頭二つ、潰した――?
「ベールちゃーん!ご飯遅れてごめんなさーい!」
「「「「!?」」」」
声と同時に、二人の剣が盾に阻まれ、カティの天界術が打ち消され、ケルベロスの身体に自由が戻った。
「危ないっ!」
カティが叫ぶ。…しかし、何秒たっても何も起きない。…いったい…?
「お客さんに八つ当たりしちゃダメよ!ご飯は今からあげるから、小屋に戻りなさい」
「ガオッ♪」
「「「「………」」」」
素直に小屋に戻っていった…
「ごめんなさいね。私のベールちゃん、お腹が空くと暴れだすのよ」
いかにも『魔女です!』といった女性が話し始める。
「は、はぁ…」
そういえば餌箱はカラだった…
「わらわがこの城の主よ。で、学園の生徒ね?こんな変な地域に何の用?」
…自覚あるのか…
「実はお願いが………」