最『キョウ』の過去3
「いやな風景ねっ!」
そう言いながら弓矢を射るカティ。狙うはモノクロの偽カティだ。
「《ハイ・シルド!」
「うっ…」
気分が悪そうなカティ。自分でない物が、自分の声を、自分の意思とは関係なく発している。たしかに気分は悪くなるかもしれない。
で、肝心の矢は、偽カティの作った盾に阻まれてしまった。たいした威力で放っていないので当然といえばそれまでだが。
「ガガァッ!」
もう一体の魔物、オルトロスが襲い掛かってくる。双頭での噛み付き、とてつもない威力だが…?
「《メガ・シルド!》」
狙われたアズラは自ら盾を作って守る。しかし…
「ガァッ!」
「うそっ!?」
全体重を賭した体当たりにあっさりと破られた。守るものは何もなくなったかと思われたが…?
「グガッ!?」
いきなり現れた神々しい光の壁にぶつかるオルトロス。この壁、とんでもない強度のようだ。
「間に合ったわね」
「カティ?」
何も魔術を宣言していないカティ。本当に何かしたのだろうか?
「ググッ!」
今度はカティに向かうオルトロス。しかし何も宣言しようとしないカティ。
(《女神の盾!》)
声には出さないが、何かを願うカティ。
「ガアッ!?」
再び現れた光の壁に阻まれるオルトロス。一度諦めたようで、後退した。
「まさか…天界術!?」
「えぇ、すごいでしょ?」
最上級魔術の一つ、天界術――願うだけで発動する光の魔術だ。天界術は守りに特化している。現存する魔術で、打ち破れるものは無く、冥界術での相殺が限界だ。
その一部始終をじっと見ていた偽カティ。まさか…?
「《メガ・ブラスト!》」
テムダが巨大な魔法弾を放つが…
「なにっ!?」
予想通りだった。絶対防御の壁、天界術を偽カティも使えたのだ。攻撃が、通らない…
黒い水溜まりと呼ばれた魔物、これはこの地域に生息する『アンノウン』と呼ばれる魔物だ。能力は、『対象の外観、魔力、及び魔術のコピー』である。
さきほど、ジクスが『弱かった』と言っていたが、彼女は魔術を使わない。主力の錬金術も、現代の錬金術とは違い、自分の魔力はいらない。故に、アンノウンは魔力も魔術もコピーできず、ただの『ジクスの形をした人形』になっていたのだ。
しかし今回コピーされたのはカティ、つまり魔術師だ。さらに彼女は天界術を習得してしまっている。急いで習得したのが完全に裏目に出てしまった…
「そんな…」
愕然とするカティ。自分の力が、完全に利用されているのだ。落ち込みもするだろう。
「!?カティ!危ない!」
「え…?」
アズラの声でふっ、と上を見るカティ。なんと、上から一本の光の矢がカティを貫こうと飛んで来ていた…
―絶対、絶命―?