雷帝と炎帝と、雷の少年
「んじゃ、開始とするが…、さっさとムスペイルを喚べよ、小僧」
あくまで相手はレムで、アズラはおまけとしか考えていなルケノ。
「…召喚、黄金の雷帝、レンドラーク=ムスペイル」
「負けると後に響く…本気でいくぞ、アズラ」
「うん、大丈夫」
「よし…ハッ!」
ルケノに向かって飛びかかるレム。相変わらずの高速移動、目で追えない。
「速ぇな…。だが接近戦ならこっちのテリトリーだ!」
格闘攻撃で迎撃の態勢に入るルケノ。彼のスタイルは近接格闘のようだ。
カウンターの構えをとるルケノを――
「相変わらず単純だな、ルケノ!」
飛び越え、背後にまわるレム。ルケノの頭上に置き土産を残して!
バリバリバリ!と音がして、置き土産から雷が落ちる。雷雲を仕掛けたのだ。
「ぐうっ…ちっ、姑息なマネを!」
「俺もエリアスも、真っ当に戦った事があったか?必要な勝利をつかみ取るためには手段は問わない、だろう?」
「ちっ…まぁいい、そっちがそうなら、こっちはお前のマスター…小僧を狙うだけだ!」
そう言うとアズラに向かって駆け出すルケノ。レムとはさきほどの攻撃で、ずいぶん離れてしまっている。
「《ダイダルウェイブ!》」
接近を確認するとすぐに、大津波を起こすアズラ。炎の弱点は水。相場が決まっている。
「わりかし有能だったか…《炎の壁!》」
宣言とともに地面を殴るルケノ。その瞬間、地表から溶岩が噴き出し、大きな壁を作る。
大量の白煙がおこる。水が蒸発しているのだろう。そしてすべての水が消える――
「残念だったな!」
溶岩の壁は、微動だにしなかった。
「!?」
急いで防御の準備をするが…
「遅いんだよ「遅いのはお前だ…」…なにっ!?」
ルケノがアズラに一撃入れようとしていた時には、すでにレムが戻ってきていた。
「ぐわぁっ!」
思い切り体当たりを受けるルケノ。大きく吹き飛ばされる。
「…いつまでふざけてる…。そのまま、負ける気か?」
「はん、冗談じゃねぇ。ちょっくら準備運動しただけだ」
立ちあがったルケノは一瞬戦闘の構えを解く。すると彼の周囲に炎の輪ができた。
「…覚悟しろよ、アズラ。ヤツも本気でくる」
そう言っている間にも、炎はどんどん燃え盛っている。そして、一気に炎の柱となった!
「ムスペイル…おれを本気にさせたこと、後悔するなよ?」
柱が消えると、そこにいたのは、少々ワイルドな男性ではなく、伝説上の生物、ドラゴンだった――
もっとも、俗に言う『辰』ではなく、二足で歩き、余り大きくない翼を持つ、『龍』だ。
「行くぜ…ムスペイル…」
見かけによらず、案外機敏に動くルケノ。一瞬、とまではいかなかったが、十分な速さでレムに接近する。
そこから近接格闘戦に発展した。威力ではルケノが上、速さではレムが上だ。
数回、隙をついてレムが打撃を打ち込んでいる。しかし、強固なルケノの鱗はその程度、ものともしない。
「ぐっ、うっ…」
威力で勝るルケノの攻撃がレムの防御を打ち砕いた。すかさず二撃、打撃を加える。
「レムっ!!」
近くにあった手頃な大きさの岩に叩きつけられ、止まるレム。ただ、ダメージは大きそうだ。
「小僧、お前らの負けだ」
「おい…ルケノ…。まだ負けては…いない…」
岩からボロボロのレムが叫ぶ。しかし、無理をしているのは一目瞭然だ。
「この小僧がおれに勝つと?そりゃ無理だろ!?」
「おいアズラ…俺の力を貸してやるから…意地でも勝て…」
そう言うと、レムの身体から、淡く、しかし強い光が放たれる。その光は、アズラに吸い込まれるように引き寄せられた。
「!?」
自分の身体が変だ。電撃が走るような感覚の後、とんでもない力が湧いてくる。
「あ、兄貴!」
ヴェクの声で我にかえる。って、本当に帯電してる!?
「『同調』か…。じゃあ相手にとって不足はないか…」
いきなり殴りかかってくるルケノ。とっさに腕で防御しようとすると…?
バババババ!と腕が放電現象を起こした。それもかなり、高圧電流を。
「いてっ!」
サッ、と腕を引っ込めるルケノ。
「これなら…いける!」
レム譲りの高速移動を始めるアズラ。一瞬で接近し、格闘戦に持ち込む。
「おいおい、さっきの見てなかったのか?」
余裕を見せながら応戦するルケノ。やはり威力ではルケノが上だ。
「っ…!」
あっさり防御を破られるアズラ。そこに…
「そらっ!」
会心の一撃――が入るかと思われた――
「なっ!?」
一振りの刃が身体を走っていた。言わずと知れた、無銘剣『零』――瞬時に、ルケノの姿が戻る。
「ちっ…そんなの持ってやがったか…」
精霊はすべてが魔力でできている。故に、一瞬でゼロにはならなかったが、負けは決まった…
「しゃーねぇ、負けた!」
いさぎはいいルケノ。当然、約束も…
「じゃあ…?」
「わーってるって!全力を尽くして、学園に協力するよ!」
「ありがとうございます!ルケノさん!」
「アズラと言ったか?敬語はいらねぇ。おれより強いんだからな」
「は、はぁ…」
「しっかしムスペイルよぉ、『同調』とはとんだ覚悟だな、おい」
「まぁな」
「レム、『同調』って?」
「契約精霊の力をマスターに貸す能力だよ。かわりに、双方がダメージを共有するデメリットがあるがな」
「そうなんだ」
「ま、乱用は禁止。ご利用は計画的にってことだな」
「じゃあ帰るか。報告もしなければいけないのだろう?」
「あ…勝手にやったけど、大丈夫かな…?」
いまさらな話をするアズラ。
「完全な学園へのメリットだ。泣いて喜ぶんじゃないか?」
「アハハ…そうだね…」
「じゃあな、しっかりやれよ!」
そして、火山から三人と一匹の姿は消えたのだった…
その日の晩、学園長室――
「うっ、うっ、本当に…本当にがんばってくれました…」
「はい…アズラさんたちには本当に感謝しないと…」
…本当に泣いていた…