獄炎纏う、火山の主
「…空間干渉じゃないんだ…」
火山と思わしき場所に着いて、アズラが始めに抱いた感想がこれだ。
エリアスの転送手段は、不思議な霧に三人を包み、どうやってかはわからないが、目的地で出現させることだった。つまり三人は、『霧が晴れたら火山だった』という状況だ。
「ゴガアアァァ!」
そんな感傷に浸っていると、目の前に炎の塊が現れた。去年の冬くらいに、雪山で騒動を起こしたフレイムだ。
「ブウウゥゥッ!」
アズラたちを見るや否や、炎のブレスを吹きつけるフレイム。前回と違って、炎が強化される火山なので、威力は大きく上がっている。
「うえっ!《メガ・シルド!》」
とりあえず、近くにいた二人もいっしょに守るように、盾を作るアズラ。一時的には凌げたが…
「兄貴!溶けてる!溶けてるって!」
「うそっ!?」
鮮烈な炎は、かなり強力だったらしく、盾を徐々に溶かしていた。このままでは黒焦げだ。
「待った!その辺にしておけ!」
「ブウッ?」
いきなり男の声が響いた。フレイムはその声に反応したのか、ブレスを吹くのをやめた。
「っと、悪かったな!おれがいる間は、火山の住人以外は攻撃するように命令していてな。あんたら、えーっと…そうだ!エアリスの知り合いだろ?」
…名前が違います…。
「えっと…エリアスさんだと思います…」
マリィが訂正する。
「ん?あぁ、そうだったな。いやぁ十数年会ってないと名前がわかんなくなるや」
ワハハ、と笑い飛ばす男性。どうにもこの人がエリアスの言っていた炎の上級精霊のようだ。
「えっと…炎の上級精霊さんですよね?」
「ん?あぁ、ガルゴ=ルケノってんだ。そういやあんたら、エリアスの知り合いみたいだが、なんの用だ?」
「…なんでわかるんですか…?」
「そりゃ霧の移動術を使うのは、エリアスと相場が決まってるんだよ。で、なんの用だ?」
どうにもルケノという精霊、せっかちなところがあるようだ。
「実は………」
「あー…そういや今年は『封印の災厄』の年だったな…」
めんどくさそうに頬を掻きながら言うルケノ。
「『封印の災厄』?」
聞いたことのない言葉に疑問を抱くアズラ。
「なんだ、知らないのか?スティンの一連の戦いのことを封印の災厄って言うんだよ。エリアスも言ってなかったか?」
「いえ…言いませんでした」
「ん?そうか。まぁどうでもいいや。で、封印の災厄戦で力を貸せってことだな?」
「はい、お願い…「いやだね」…え…?」
四文字で拒否するルケノ。
「たしかにここがなくなるのは困るぜ?ただ、オレは弱いヤツの言うことは聞きたくねぇ」
「はぁ…」
「じゃ、じゃあオレたちと…「ムリだ。普通の魔術師ごときがおれに敵うとでも?」…う…」
軽くヴェクの提案を一蹴するルケノ。
「俺が頼んでもか?」
ブローチ状態だったレムが猫型になる。
「お前は…えーっと…」
「ムスペイル、だ。相変わらずだな、ルケノ」
「そうだったな、悪い悪い。…なんだつまり…この小僧はお前を従えるだけの力があると?」
「力があるかどうかは知らんが、将来は非常に有望だ。…どうだ?一試合しないか?」
「ん?いいねぇ!んじゃ、そっちは小僧とムスペイルだな?」
「それでいい。こっちが勝ったら…わかってるな?」
「おう、約束するぜ」
「そういうことだ。行くぞ、アズラ」
「う、うん…」
「その調子ですよ、カティさん」
優しげな雰囲気に満ちたおばあさんが言う。
「…はい…ありがとうございます…」
返事するカティはかなり疲れている。
「少し休みましょうか?この調子なら今日中には基礎は固められますし」
天界術は、順調なようだ――