アズラくん争奪戦!
「あら、ヴァンちゃん、ファルちゃん。どうしたの?」
空間干渉の指定地は、エリアスの泉の前にしていた二人。到着して早々、エリアスに見つかる。
「わたくしたちの用事は、水をもらいに来ただけですが、別の用事の方もいますわ」
「そうなの?」
話の前半を聞いて水の準備を始めていたエリアスは、後半を聞いて少し動きを止める。
「あぁ…。出てこい」
開いたままの異次元の入り口に呼びかけるヴァン。
「ちょっと待てって言われたけど…どうしてかな…?」
まずアズラが出てくる。
「きゃあ~っ!アズラく~ん!久しぶり~!」
「わわっ!」
アズラが現れてすぐに、アズラに飛びつき抱きしめるエリアス。
「アズラくん!会いたかったわ!」
「…何をしてるのですか、アズラ様…?」
次に出てきたのはマリィ。ただ、笑顔が少し…いや、盛大に引き攣っている…。
「ヴァン、この子は?」
アズラを抱きしめながら、ヴァンに紹介を求めるエリアス。
「…わたくしたちの弟子のマリィですわ。前に言った『先約』の方ですので、とりあえずアズラさんを放してあげてください」
ヴァンに代わってファルが答える。
「あら…そうなの…。ふふっ…」
「わっ!エ、エリアスさん!く、苦しいです…!」
ファルの返事を聞くと、エリアスは不敵に笑い、さらにきつくアズラを抱きしめる。スラッとした外見に見合わず、案外立派なものを持っているエリアス。アズラは柔らかいものに包まれているのだが、息苦しいのでそんなことを考えていられない。
「アズラ様!大丈夫ですか!?」
「うおっ!兄貴っ!」
マリィと、今異次元から出てきたヴェクが、アズラとエリアスを引きはがそうとする。
「どう?アズラくん、柔らかいでしょ?」
「た…助け…て…」
「…うん、だいたい話はわかったわ」
数分後、なんとか解放されたアズラ。今はファルに背中をさすってもらっている。
「………」
とても怖い目でエリアスを睨んでいるマリィ。完全に敵だと判断したようだ。
「大丈夫ですか、アズラさん?」
「一応…大丈夫です…。で…エリアスさん、受けてくれますか?」
「そうねぇ…。アズラくんにはちょっと悪いことしちゃったし…そもそもほかならぬアズラくんの頼みだからねぇ…。わかった、協力するわ」
「…ありがとうございます…」
かなりムッとした様子のマリィがお礼を言う。敵と見なしていても、とりあえず礼儀は果たすようだ。
「でもね…その話だと、私より押さえておいた方がいい場所、人がいるわよ?」
「なんだと?」
「私、実は前回の戦いにも参加してるの。その時はちょっといなかったんだけど、『朧炎の火山』にも精霊はいるのよ。自由奔放な人だから、十年前はどこかに行ってて…。魔物の集団が火山経由で大量に学園に乗り込んできたわ」
「うわぁ…」
「最近、火山に戻ってきたという話を水の噂で聞いたわ。彼にも協力を頼んできたら?」
…普通は風の噂ではないだろうか?まぁ、水の上級精霊となれば水の方が信頼できるのだろう。
「そうだね…じゃあ、行ってみるよ」
「わたくしたちは別の仕事があるので同行はできませんが…。がんばってくださいね」
「じゃあこれ、水ね。この子たちは私が送るから、ヴァンちゃん、ファルちゃん、またね」
「ええ、また来ますわ」
そう言って消える二人。
「じゃあお願いします…ってマリィ?」
アズラの腕に抱き着くマリィ。
「渡しません…」
本気で警戒しているようだ。
「ふふっ…アズラくん、私と契約しない?」
「え!?そんなことってできるんですか!?」
『そんなこと』は同時に二人との契約だ。
「絶対ダメです!」
アズラの意思を無視してとりあえず否定するマリィ。
「ええ、できるわ。悪いようにはしないわよ?契約してくれたら…あなたが望むなら…なんでもするわ…」
「えっ…」
妙に顔が赤くなるアズラ。
「むーっ!」
「痛い痛い!…なんで…?」
マリィに思い切り抓られたアズラ。
「ふふっ、考えておいてね。じゃあ、送るわね」