天才たちが変わった理由
「とりあえず、小屋に戻りますね。ヴァンはしばらく一切の魔力が使えませんので」
「まぁ、あれくらいしておかないと、スティンの復活の時にまた蘇る可能性があるからな。…少し不便だが…まぁ、いいだろう」
ヴァンが言い終えるのと同時に、ファルが空間の調整を終了した。次に目を開けると、もうヴァンたちの小屋の前だった…
「じゃあお茶にでもしましょう。ヴァンは紅茶でいいとして…アズラさんは?」
「あ、僕も紅茶で」
「承りましたわ。では座っておいてくださいな」
「そういえばヴァン、スティンのこと、いつから知ってたの?」
ファルの入れてくれた紅茶を飲みながら、アズラがヴァンに聞く。
「ん?あぁ、あいつの話自体は二年の頭、わたしたちがここに移り住む際に聞いてはいたが?…その時は興味のない話だったがな」
「…その当時はわたくしたちは迫害の対象でしたので。学園との最低限の約束だけ果たして、さっさと卒業しようと考えていましたわ」
「じゃあなんで…?」
「なんだ、覚えがないのか?」
「あなたのおかげでわたくしたちの考えが変わったのですよ、アズラさん」
「え!?僕ですか!?」
「誘拐の事件の時だよ。あの時、君はなにげなく言ったのかもしれないが、わたしはとても嬉しかったんだよ」
懐かしそうに、しかしながら嬉しそうに言うヴァン。
「ただあなたが言った『支えになりたい』その一言は、ヴァンが初めて言われた言葉でした。…そんな素直な人のいるこの学園を、わたくしたちも守りたいと思ったのです」
「じゃあマリィたちを鍛えてるのは、やっぱり?」
「おそらく考え通りだろう。わたしたちは年齢制限とやらで討伐戦に参加できないからな。せめてもの助けにと思ってな」
「そんな理由があったんだ…」
「まぁな。…そろそろ日が暮れるか…?」
「じゃあ学園に戻ります。報告は…?」
「わたくしといっしょに今から行きましょう。送るついでです」
「ありがとうございます、ファルさん」
「どういたしまして。行きましょうか」
「じゃあな、また来いよ」
同時刻―虚空の岩窟―
「新しい発火剤の性能はなかなかね」
そう言って微笑むミランダ。目の前の穴からは火がメラメラと燃え上がっている。
「ご苦労様。もう穴を塞がなくてもいいわ」
カティとその弟妹はまわりにぼこぼこ開いた穴をひたすらに塞いでいた。
「先生…あいつは結局なんだったんですか…?」
とても疲れた様子のカティがミランダに聞く。
「この穴、地面の深く、深~くで繋がっているのよ。だからあいつはいろんな穴から出てくるのよ」
「だから出入り口を一つにした、と?」
「そうよ。あらかじめそこに発火剤を撒いておいたから、触れれば大炎上、ね」
「なんでそんな薬を…?」
「え?戦闘用よ。決して暇つぶしとか体罰用じゃないから。…さて、帰りましょう?」
発言の一部が少し気になるが、追求はしないでおこう。そう考えた三人であった…