一年生と不良と神速の剣士
六月吉日――花嫁が喜びそうな日だが、二人にとっては悪夢の日だ。
「みんな〜がんばってね〜」
「……大丈夫…死なないから…」
「おう、行ってくるぜ!」
意気揚々と歩くテムダ。後悔の念は一欠片もないみたいだ。むしろやる気満々、完全に、壊れている。
その後ろを歩く二人。その目は虚ろ、歩き方も重いすり足、つまりゾンビそのものだ。
「では、戦闘訓練を開始したいと思います!対戦はトーナメント形式で2チーム同士で行います!勝利条件は対戦相手全員を戦闘不能にする、または戦意喪失させる事です!」
アナウンスがルールを説明する。だがやっぱりアズラとカティは聞いていない。
「よっしゃぁ!絶対に優勝だぁ!」
まったく状況が理解できてないテムダ。間違いなく一撃だ。
「第十三試合、カオスナイトメアズVSファーストルーキーズ…ふふっ…です!」
アナウンスまでもが笑う。会場はアナウンスの笑いの意味を理解していなかったが、チームの登場と同時に爆笑の渦に包まれた。
対戦相手も……
「…ハハハッ!一年坊が相手かよ!まぁ参加しちまったからには仕方ないなぁ!馬鹿な自分達の愚かさを恨みなぁ!」
明らかに不良の五人組だ。目的は訓練ではなく、対戦相手をボコボコにするつもりだろう。もっともほかのまっとうな参加者なら返り打ちにするだろうが。
だがこっちは一年三人、相手は不良とはいえ、上級生。しかも五人だ。
だが…
「よっしゃ行くぜ二人とも!」
「開始です!」
戦闘開始の合図が鳴った。突撃するテムダ。自己防衛しかする気のない二人。テムダに五人が集まる。
しかしテムダは…
「吹き飛べゴミどもぉ!」
足を強化して回し蹴り。
本当にイライラしていたのだろう、テムダのほぼ全魔力を付与された足はまさしく風の様な速さで周りを薙払う。
「「「うおっ!?」」」
それこそダメージは想像できない。直撃した三人はあっさり戦闘不能になった。…だがテムダの暴走もそこまでだった。
「あれ?俺は何やってんだ?」
治った。何がって頭が。とりあえず周りを見る。状況を把握する。そして…
「………」
真っ青になる。とりあえずアズラがてきぱきと説明する。理解すると…
「よっしゃ続きやるぞ!」
…本当に治ったのだろうか?
残ったのはわりとまともな二人。突然の出来事に動揺していたが、平常心を取り戻すと《キインッ!》という音を鳴らして槍と剣を造った。錬金術だ。
そして三人に突っ込んでくる。
「仕方ないか…」
撃退する方が早く、かつ安全と判断し、ナイフを取り出すアズラ。
そしてナイフを掲げ……
「風よ!吹き荒れろ!」
蓄積していたウィンドを解放した。
ゴオオオオオッ!!!と凄まじい音を巻き起こしながら、風が走る。もはや術式のウィンドの面影などない。風速はゆうに30mをオーバー、台風の次元だ。
そんな風に耐えられる訳もなく残り二人は撃沈。奇跡の勝利を手にした三人だった。
勝ってしまった三人に待っていたのは…
「二回戦第七試合、ファーストルーキーズVSファルです!」
二回戦だった…。
今度の相手は二年生一人。とても美人の女性だが、外見で戦闘力はわからない。もっとも一回戦を勝ち残ったので実力はあるのだろうが。
「まぁ、頑張ろうや」
もういつものテムダだ。
「試合、開始!」
「―一瞬です―」
その瞬間、女性が三人に見えた気がした――刀をどこからともなく取り出し、ありえない速さで背後に回る――
刹那――
「ガッ!」
三ヶ所でこの音が聞こえた。次の瞬間、闘技場には倒れ伏した三人の姿があった。
「安心ください、峰打ちです」
完全な強者の台詞は三人に届く事はなかった――。
気がついたのは病院室。完全に気絶していたのだろう。完璧な峰打ちだったので当然と言えば当然だが。
「痛ってー、何者だよアイツ…」
「とっても…強かったね…」
「本気で勉強するとあんなのになるのかな…」
ちなみに『あれ』は当然、特別な存在である。
「まぁ、暇つぶしにはなったな」
「僕、蓄積してた魔術使うハメになったんだけど…」
「あの刀、結構痛かったわよね…」
「え、ま、待て、話せば分かる。話せば…」
「「問答無用!!」」
「ギャアーッ!!!」
その後、アズラとカティは病院室を出た。テムダは三日間絶対安静を命じられましたとさ。
次回は章末イベントになります。三話ぐらいを想定しています。六月末の夏休みの話になります。