天才の世界終焉術
「カカカッ!お手並み拝見じゃ!」
黒いランプを取り出すリッチ。カティが一年生の時に、臨死体験をする原因になったランプだ。
それをリッチが掲げると、黒い霧がファルに向かう。
「《ウィンド!》…何かは知りませんが、わたくしたちが損をするものなのでしょう?」
宣言した魔術こそ術式2のウィンドだが、実際に吹いたものはかなりの突風だった。黒い霧は辺りに薄く散り、あっさり消えた。
「さらに、こうすればランプは使えなくなるな?《ウォータ!》」
続けざまにヴァンがウォータを放つ。ファルのウィンドと同じように、ウォータとは思えない大きさの水弾が飛ぶ。
「カカッ!?なんじゃと!?」
余裕をかまして隙だらけだったリッチを水弾が襲う。リッチは霊体なので、ほとんどダメージは与えられなかったが、ランプに灯っていた黒い炎は簡単に消えた。
「相変わらず強いのぉ…嬢ちゃん。今日来たのにも理由があるのじゃろう?」
「勘がいいな?その通りだ。もうすぐスティンが復活するからな、しばらく再起不能にしてあいつに協力できないように、という学園からの命令だ」
「カカッ、読まれておったか。まぁ嬢ちゃんたちを倒せば解決じゃな?」
「こっちもお前を倒せば解決だからな。《セインピト!》」
二年前と同じく、聖なる火の玉を呼び出すヴァン。
「カカッ!同じ手は二度もくらわんさ」
「同じ手、でなければいいのでしょう?《縛れ!》」
「なんじゃと!?」
火の玉をテレポートで避けようとしていたリッチ。しかし、いつの間にか後ろに回っていたファルが束縛の護法で動きを止める。
「ガガッ!」
「いまだ!アズラ!」
「任せて!」
零を携えてアズラが駆ける。魔力消失の能力が効くのかどうかはわからないが、試す価値は十分にある。
「ググッ…。…その剣、普通の剣ではないな…?さしずめ、魔力消失の剣といったところか…?」
そこそこ苦しそうだが、まだまだ戦えそうな様子のリッチ。
「やはり原動力は魔力ではないか…。本当の原動力はこの森にはびこる妙な空気か?」
「カ、カッ…!正解じゃ、よ嬢ちゃん。…儂は冥力と呼んでいるがな」
話している内に少しずつ回復している様子のリッチ。かなりしぶとい。
「ヴァン!長話は損ですよ!」
カラクリに気づいたファル。ヴァンの話を中断させると同時に、次元を持ってリッチに斬りかかる。
「カカカッ!気づくのが少ーし遅かったな!もう完全回復じゃ!」
ファルの剣舞はもうあっさりかわされる。
「ちっ…わたしとした事が油断したな…。仕方ないアズラ、耳を貸せ」
近くにいたアズラを呼び寄せると、ゴニョゴニョと耳打ちするヴァン。
「うん、わかった。…でも、ファルさんは…?」
「大丈夫だ、ファルならきっとわかるさ。…始めるぞ…自然の吸収!」
まわりの木々から魔力を集めるヴァン。ほとんど魔力は使っていないが…?
「《縛れ!》」
アズラがリッチの動きを少しの間止める。
「…わかりました、アズラさん、こちらに」
ヴァンの意図を一瞬で理解し、アズラを近くに呼ぶファル。
「ではわたくしたちは離脱します!ヴァン、あとは頼みますよ!」
「ヴァン、がんばって!」
そう言い残して異次元に消える二人。残された者は…?
「カカッ!見捨てられたのか、嬢ちゃん?」
「《カオス!》…残念だが、わたし一人で終わらせられるからな…」
そう言いながら、ティルヴィングを具現化するヴァン。
「幸運の剣よ!我が魔力と引き換えに望みを叶えよ!《増幅!》」
空中で発動待機状態のカオスに増幅の強化術をかけるヴァン。大きさが二倍に膨れ上がったということは…?
「そのカオスは全魔力じゃな?ティルヴィングでさらに強化したか…?」
「そうだが、これで終わりではない!《増幅!》《増幅!》」
さらに二回ティルヴィングを使い、カオスを異常なくらいに強化する。
その大きさ、宣言時の四倍!
「…魔力を完全に失ったな、嬢ちゃん。それじゃ嬢ちゃんは避けれないし、逃げる儂を止めることは出来んぞ?…じゃあな?」
どこかにテレポートで逃げようとするリッチ。
ヴァンとリッチの背後に空間の裂け目が出来る。
ヴァンの背後からはファルの腕が伸び、リッチの背後からはアズラの腕が伸びる。
「ヴァン!」
「《縛れ!》」
ファルの腕はヴァンを救い、アズラの腕はリッチの動きを止める。
「残念だったな。今即興で名付けたが、エンド・オブ・ザ・ワールド、それでしばらく休んでおけ!」
ヴァンの全魔力の四倍の威力のカオス。使い方次第では、本当に世界を終わらせられるかもしれない…
「なんじゃとおおぉぉ………」
迫る四倍カオスになすすべなく、直撃を受けるリッチだった…