闇の死霊、抹殺作戦
「うわー…教頭先生の言う通りだぁ…」
学園内にいるミランダとは違い、いつも通り輝きの森にいるヴァンとファル。ターゲットの魔物と戦うための戦力は考えたのだろうが、合流するまでの事は若干手を抜いたのだろう。おかげでかなりの危険地域と化している学びの木をアズラ一人で突っ切るハメになってしまっている。
「…輝きの森まではテムダたちについて来てもらえばよかったなぁ…」
そんな事をぼやいている内に…
「グルッ!?ワオーン!!」
「うえっ!?」
一頭のウルフキングに見つかってしまい、一帯の魔物に存在を気づかれてしまった。
「冗談じゃないよ~!!!」
全力で逃走を始めるアズラ。最初は学園に向かおうとしたが、はやばやとまわりこまれて、東に、東に逃げることになった…
「《スロウ!》《スロウ!》うわっ!やっぱり無理だっ!」
全力で逃走しながら、スロウをばらまき追いつかれないようにしていたが、どんどん数が増える魔物に追い詰められていく。
「仕方ない…戦うしか…って、うわっ!」
急にどこからともなく伸びてきた腕に引っ張られる。
「あれ!?ファルさん!?」
「遅いと思って見に来れば…予想通りの展開ですね…」
アズラを引っ張った腕は異次元からのファルの腕だった。
「このままわたくしたちの小屋に繋げますので。しっかりつかまっていてくださいね!」
「ん?アズラ、遅かったじゃないか?」
のんびり紅茶を飲みながら問いかけてくるヴァン。
「やっぱり迎えに行って正解でしたわ。大量の魔物に追いかけられていて、ここに来るのも危うかったのですから」
「あぁ…。なんだ、あの程度の魔物すら対処できないのか?」
「あの程度って…大変だったんだよ…?」
「えぇ、けっこうな量でしたわ。まぁ…あなたから見れば『雑魚』の一言で片付くのかもしれませんが」
「えらく肩を持つじゃないか?なにかあったのか?」
面白そうに笑いながらヴァンが言う。
「別になにもありませんわ。強いて言うなら…そうですね、今日の仕事の『雑魚』の掃除をあなたに任せようと目論んでいるぐらいですね」
綺麗に切り返すファル。相変わらず一枚上手だ。
「…冗談だ。大変だったな、アズラ」
「う、うん…」
ファルの切り返しで一気に意見反転。労いの言葉をかけ始めたヴァン。やはり一人で面倒は背負い込みたくないようだ。
「さて、ヴァンが改心したところで、行きましょうか?」
「あ、ちょっと待ってください、ファルさん」
「はい?どうしました?」
一度具現化した『次元』を消してまで中断するファル。…やっぱり優しいなぁ…
「どうして僕たちが魔物の討伐をするんですか?先生がやるべきなんじゃ…?」
わりとまともな意見である。
「…そうですね…。理由は主に三つ、まず、ほかの先生も忙しいのですよ」
「そうなんですか?」
「えぇ。わたくしたちは仕事が森林エリアの警備ですので、このような仕事が本分ですが、ほかの先生は違います。普通に授業をしなければなりませんし、うまく才能を開花させられれば、スティンとの決戦の力になってくれるかもしれません。ですから、直前までは普通に授業をするのですよ」
「第二に、単純戦闘能力だけなら君たちの方が教師より上なんだよ」
「え!?」
「魔力は十代後半から歳とともに衰える。魔術師の常識だな?」
「う…うん…」
「ですが、半分三つ目の理由になるのですが、例えばアズラさん(17)とミランダ先生(30)が真剣勝負をして…」
「30歳なんですか!?ミランダ先生!」
「くしゅんっ!!」
「風邪ですか?ミランダ先生?」
「大丈夫よ。どこかで誰かが噂してるだけだから」
「はぁ…」
「そうですよ。若々しいですね。で、話の続きですが、その二人が真剣勝負をすればどっちが勝つと思いますか?」
「え…それは当然ミランダ先生でしょ?」
「えぇ、正解です。では、アズラさん、どうして負けると思いますか?魔力は勝っているはずですのに」
「………?」
「場数の問題だ。要するに戦い慣れているか否か、って話だ。これが第三の理由。君たちに戦い慣れさせる、これが最大の目的だ」
「わたくしたちは直接対峙したことはありませんし、対峙できませんが、やはり相当な強さらしいですし、実戦慣れは必要でしょう。…理由はこんなところでしょうか?では、行きましょうか?」
「わたしも今回はファルに同行して移動するとしよう。…今回は、『完全に』ヤツを消滅させるからな」
「…楽をしたいわけではなさそうですね…。わかりました、では、二人ともつかまってください」
『次元』を具現化し、空間を切り裂いて異世の密林に繋げるファル。
「では、行きますよ!」
「…お出迎えとは、楽でいいじゃないか」
「…嬢ちゃんが来る予感はしておったが…いつぞやの坊ちゃんと…初めて会う嬢ちゃんじゃな?」
「えぇ、ファルと申しますわ。…もっとも、意味のない挨拶になるでしょうけど」
「カカカッ!面白いことを言う!」
「じゃあおしゃべりはここまでだ…。行くぞ!」