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十六夜の月と赤い獣

薬学1編の戦闘の話です。

薬学1の授業を受けた翌日の夕方、五人は学園の南門付近に集合していた。




「おっ、アズラ」


「遅かったわね」


と言ってもサクヤとエンカは来ていない。


「ごめん、ちょっと先生のところに行ってて…」


「どうしたの?」


「うん、『今から出発しようと思います』と言ってきただけ」


「何か言ってた?」


「えっと、ただ『気をつけなさい』と…あ、あと昨日薬学1受けて病院室に送られた生徒の数も教えてくれた」


「「…何人?」」


「えっと、二十七人って言ってた」


「確か、三十人と少ししかいなかったわよね…私たち以外ほぼ全滅!?」


というか五人以外完全に全滅である。


「ほんと、助かったわよね…」


「つかあの教師知ってて言わなかったよな…絶対に…」


「今後も、あの先生の授業受ける時は質問に行こうね…」


そう、決意した。


「ごめ〜ん、遅れた〜」


「…ごめん…」


サクヤとエンカが遅れてやってきた。

学びの木での一件以来、エンカは完全な無口ではなくなり、自分の言いたいことをもっとも少ない文字数で表現するようになった。


「それじゃ、全員揃ったことだし、行くか!」




月夜の野原は始まりの草原の南、かつ南東側にある。決して南東ではない。南に十分行ってから南東だ。


月夜の野原に向かう道中、数匹のウルフに遭遇したが、五人の敵ではない。


「はぁ、ウルフなんかはもう雑魚同然だな」


「そうだね、学園案内の時は怖かったけど、もう平気だね」


「そういえばアズラ、その腰のナイフは何?」


カティがアズラの腰を指さして言う。


「これ?アルバイトの報酬で買ったんだ。1500リムだったかな?」


「ナイフ、使えるの?」


「うん。魔術師になると決めたときから父さんに習ってたんだ」


「つかアルバイトなんていつやってたんだよ!?」


「果物採取の時よ。私とアズラ、一人1400リムの儲けになったわ」


「お前ら…俺にも教えてくれよ…」


がっくりするテムダ。

その瞬間サクヤが…


「あ〜、あそこが月夜の野原じゃない〜?」


サクヤが指さす先には、ところどころ地面に光る草が生えていた。


「あぁ、あれが月光草だ…」

レムがそう答えると…


「はぁ、じゃあ、あれ採って終わりだな」


そう言ってとぼとぼと採取を始めるテムダ。

日持ちはあまりよくないが、薬にしてしまえば関係ない。

みんな腕いっぱい――と言ってもアルバイトでもらった袋があるアズラとカティは袋にもいっぱい、要するに大量の月光草を持って帰路についた。




始まりの草原の中程まで戻ったとき…


「グルグググ…」


全身真っ赤な毛皮に包まれたウルフと遭遇した。


―ブラッドウルフ――ウルフの変異種で、その外見や、共食いなどを辞さないことからその名で呼ばれる。戦闘力はウルフの比ではなく、レオと同等の強さを持つ。

もっとも…


「ガッ!」


「…ッ!」


「エンカッ!!」


レオより力はないが速い。体当たりでエンカが吹き飛ぶ、一切の防御魔術なし、でだ。

月光草を置いている隙を付かれたうえ、レオより力がないと言ってもウルフの比ではない。

強く吹き飛ぶエンカ。行く末には…大きな木!


ガツンッ!と鈍い音がする。その後…


「ピピッ、テンソウ、カイシシマス」


機械的なアナウンスが聞こえる。プロテクターがあるので怪我はしないが衝撃は受ける。軽い脳震盪でも起こしたのだろう、エンカに反応はない。


「このっ!エンカの仇っ!」


足を強化して駆けるサクヤ。


「サクヤ!くそっ、《体を硬く!》」

テムダが叫ぶ。強化術3を履修した彼は『他生物強化』ができる。


「ひゃっ!」


爪の一撃を受けるサクヤ。硬質化のおかげで戦闘不能にはならなかったサクヤ。だがその様子は苦しそうだ。

「《ウィンド!》」

詠唱をしていたカティが叫ぶ。吹き荒れる風の中、数枚の刃が走る。だが硬い毛皮を持つブラッドウルフにはほとんど効かない。

さらには風の中アズラに向かう!


飛びかかる赤い獣。対するアズラは詠唱を中断し、ブラストで迎え撃つが効果はない。

最後の手段と腰にあったナイフに手を掛ける。


「《刃を鋭く!》」


無駄だと分かっている。いくら強化してもウィンドと同等程度の切れ味しか出せない。だが切りつけるしかない。


赤い獣は止まらない。

止まらない、はずだった…。



「《…………》」

誰かが何か、呟いた。



「ハアッ!」


「ガアッ!?」


ナイフはブラッドウルフを真っ二つにしていた。文字通り真っ二つ。これには諦めかけていた三人も驚いた。いや、一番驚いているのはアズラ自身であろう。

目の前で起きたのは夢のような現実。不可能が可能になった瞬間。正常な人は夢を見ていると思うだろう。だが、真実である。


「すごいじゃない…アズラ…」


カティが賞賛するがアズラの心はここにはない。


「…おいアズラ?アズラ!」


テムダの一喝でハッとしたようにアズラが動く


「…何が…起きたの?」


ナイフを見つめるアズラ。その瞬間、ナイフに込められた魔力が消滅した。


「ふっ、なるほど『増大』の魔術だな…」


面白そうにレムが言う。


「『増大』…?」


「あぁ、魔術の効果を『増大』させる魔術だ。お前らも、強化術を学んでいけば使えるがな…。

最も、これはナイフに付与されていたみたいだから今回限りだが、面白い買い物をしたな?アズラ?」


レムは心底面白そうだ。


「…とりあえず帰ろうぜ…」


「えぇ…そうしましょう…」


月光草を集めて帰る四人。







帰り道…


「ふっ、世話がやけるな…」


そう、誰かが呟いた気がした。

えーっと、現実で模擬試験があったもので、昼休み、食事をしながら更新しています。

あと、このままでは一章が非常に長くなるのでここから思い切り飛ばしていきます。

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