新任講師、姉の足跡6
「なんにしても魔物だろ?オレがぶん殴って倒してやる!」
「待て!ヴェク!」
アイギスを具現化し、アブソーバー――人型のスライムみたいな魔物に突撃するヴェク。その耳にはヴァンの静止の言葉など届いていない…。
「もらったぁ!」
「やめろー!」
一切の抵抗をしないアブソーバーを、盾で殴るヴェク。スライム状に見えたが、案外固いようで、ゴスッと鈍い音がした。
「よっしゃ!決まった!」
入ったのはまさしく会心の一撃。しかしアブソーバーが何かを知っている三人は「やっちゃった…」という顔をしている。普通の魔物なら確実に倒せるダメージのはずだが…?
「…高速吸収、カイシ…」
「んなっ!?」
みるみるうちにヴェクの魔力が吸収される。一気にダメージを回復されてしまったようだ…。
「だからやめろと言ったのに…」
「ヴァン先生、いったいあれは…?」
「プロテクターのモデルだと言っただろう?ダメージを魔力で補うんだよ」
「さらに、周囲の魔力を吸収する能力があるのです。…ほぼ無尽蔵の魔力を持って、それがゼロにならない限り倒せないのに…」
「そんなやつなの!?」
「うん…おそらくこの六人と契約精霊で全力で攻撃しても倒せないね…。レイカには悪いけど、退くしかないかな…」
「退いてなんとかなるの?」
「あいつは存在するだけで魔力を浪費するから、この地域は…死ぬ」
「じゃあ今までは…?」
「あいつは生物からの吸収を優先する。今までは魔物から魔力を吸収していたのだろう」
「学園に戻って、魔術協会に報告しましょう。…言っていませんでしたが、A級危険魔物です。魔術協会の専門の除去員に頼みましょう」
「で…でも!」
「俺たちの手には負えな…?だめだ!避けろ!」
「え!?」
「魔粒子砲、ハッシャ…」
反応の早かったアズラ以外の五人。白い光線を回避するが…
「うわぁーっ!」
直撃を受け、派手に吹き飛ばされるアズラ。そのまま地域で一番大きな木に叩きつけられる。
「ぐっ…ううっ…」
「大丈夫かい!?アズラくん!」
「大丈…夫です…」
立ち上げる際に木に手をかけるアズラ。
すると…?
「また…この世界…?」
セピア色の名も無き庭園に飛ばされたアズラ。当然そこには…?
『…アズラ、役立ててね…』
地面に何かを埋めているレイカがいた…。
『魔力喪失の剣…無銘剣、零…私の代わりにあの子を守ってね…』
「姉さん!」
現実に送り返された…。
「零…?」
「逃げるよ!アズラくん!」
見れば五人とも逃げる準備をしていた。
「《空間…「待ってください!」…どうした!?」
先ほど記憶の伝達で見た場所を掘り起こす。すると銀でできた箱が埋まっていた…。
箱の中には妙な刻印のされた指輪が入っていた…。
「見つけた…」
「それがレイカの遺物かい!?じゃあ逃げるよ!」
「いえ、きっと大丈夫です。行くよ、『零』…」
その瞬間、再びアブソーバーが準備を始めていた…。
「魔粒子砲、ハッシャ…」
「アズラくん!」
再び白い光線が放たれる…。
「ハアッ!」
具現化した『零』―細身で刃に刻印をされた剣―それが閃く―
「あれは…『零』か!?」
剣が斬り裂いた光線は跡形もなく消え去った…
「これなら…どうだっ!」
アブソーバーを斬り裂くアズラ。
「魔力喪失…キュウシュウ、フノ、う…」
「やったぁ!」
「それがここのレイカの遺物か…これまた『零』とは大層な物を…」
「この剣は…?」
「レイカの愛剣だよ。斬った相手の魔力を一気に失わせる剣だね。もう一つ隠された力もあるらしいけど、それは聞いた事がないからわからないね…」
「無銘剣『零』。わたしのティルヴィングなんかより遥かに上位の魔法武具か…かなりの魔術師だったようだな、レイカとやらは」
「アウレスの宝物庫で見つけたらしい。アズラくんも行ってみたら?」
「はい。あれ…箱の中に手紙が…?」
手にとり、開くアズラ。
『アズラへ
この手紙を読んでいるという事は、私は死んでいるでしょう。
きっとシェルから聞いていると思うけど、私はあなたのためにいくつかの力を遺したわ。いずれ、その力が必要になる時がくるから…。
『零』をきっと一つ目に見つけていると思うわ。二つ目はまたいつか、学園長が教えてくれるから…。じゃあね、愛してるわ、アズラ…。
レイカ 』
「姉さん…」
「もうわかったとは思うけど、レイカが死んだのは決して『事故』なんかじゃない」
「じゃあ…?」
それにはシェルは首を横に振った。
「教えられないよ。とりあえず言えることは、強くなるんだ、アズラくん。さて、帰ろうか」
―少女の愛した地域は、少女と、その弟の手によって守られた―
今回で八章は終わりです。次回より九章、季節は夏に向かいます。
宝物庫編も予定しておりますので、お楽しみに。