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1.

前回カルディアと書きましたが、誤りです。

カルディアはタルギスから北、『嫌味美形』のフォールとキャデルの方です。

これはタルギスから東国【ナジェリーク】です。

分かりづらくてすみませんでした。


──── ◆ ◇ ◆ ────






 「……うるっさい!!」


 木目調に所々赤と金を上品に使い落ち着いた広い室内は、壁面は本棚に囲まれ、家具は執務机と応接の揃えが置いてあるだけの洗練されたものだ。

 そこに荒々しい声と共に重厚な樫の執務机がなった音が響く。

 声の主は机の上にはところ狭しと重ねられた書類の山に、今決裁したばかりの書類を乱暴に放る。

 そしてじろりと隣に立つ宰相を睨んだ。

 今宵も釣書きの束を眼下に置かれたので、つい机をこぶしで叩き不満を宰相にぶつけたのだ。

 釣書きが置かれる行為はここ二年以上も続いていて、いい加減辟易していた。

 

 「煩いのは陛下では」


 声の主の母親時代から宰相を務めているブライデン・スタインは事も無げに返答する。

 この言い争いも常には水面下で行われ、今夜のような声を荒げるものは一定期間毎の恒例にはなっている。

 現にスタイン卿は今己が怒鳴られたことより机の心配をしているようだ。

 それもそのはず、この執務机は王家初代より大事に受け継がれている由緒ある品だからだ。

 そんな態度もまた癇に触る。


 「毎日毎日よく飽きもせず同じ話が出来るな!」

 「陛下が毎日毎日お断りになりますので」

 「一日くらい『今日は何も言わずにいよう』とは思わないのか?!」

 「今のところございません」

 「……~~~~っ!!今日も返事は同じだ!断る!」

 「畏まりました」


 交わされる会話に感情の起伏はあれど、毎夜繰り返される問答だ。

 しれっとスタインに返答され大いに不満が残る。

 今更書類に目を通す気もなくなり今夜は終わりにしようと思う。

 結局自分が折れるしかない。

 幾分声の調子を落とし、彼へ声を掛ける。


 「酒肴を持て」

 「毎晩ですと体に悪いですよ」

 「誰のせいだ?」

 「ご自分かと」

 「……下がれ」

 「明日朝議に遅れませぬよう」

 

 最後の言葉には手を振るだけで答え、彼を下がらせる。

 これで明日朝までは自由の身だ。

 自分はこの国の紛れもない女王で宰相より偉いはずだ。

 しかし建国以来初めての十六歳という若さで立位し、在位五年目となった今でも宰相には小さな頃から色々と面倒を見て来て貰っている為にどうも頭が上がらない。

 彼が部屋を出て行ったのを見て深い溜息を落とす。

 いや頭が上がらないのは別にいい。

 今の自分が母や歴代の王達のように働けているかと問われれば否としか答えられないし、母親の代から引き続き宰相をしてくれているだけでも有難い話なのだ。

 優秀な人材が失われず、自分の元に残ってくれていることには感謝してる。


 ────……母上…


 一人執務室というには広い部屋で昔に思いを馳せる。

 フィオリアが女王を務めるこのナジェリーク国は女王により建国され女王の即位を継続している。

 本来であればフィオリアの母親が継位しているはずだったが、数年前のこの大地を国境を越えて襲った病が女王だったフィオリアの母にも降りかかり、病の前では国王という権威など無に等しく父親と多くの国民と共にその人生を閉じた。

 それは命だけでなく、その人の未来も、周りの人々の未来も全て変えてしまった。

 勿論フィオリアのも。

 残された一人娘のフィオリアは一年余の女王としての勉強時間を貰った。

 それまで女王になる勉強を全くしていなかったわけではないが、突然の両親の訃報から始まった一年は余りに短くけれど、国内の情勢を鑑みれば一年貰えただけでも良しとする話だ。

 そうして不安に押し潰されそうになりながらフィオリアは気丈に即位した。

 王としての責務に当たる大変さは両親の死を悼む暇などない程で、むしろ悲しみを考えなくてもいい彼女の逃げの口実にもなった。

 だがそれだけでなく、建国からの女王を至上と掲げているこの国の人々は下々から上位貴族に至るまで急ごしらえでもフィオリアが女王として即位してくれることを心から待ち望んでいてくれた。

 だから今フィオリアは、その民意に答えるべく女王として一つ一つゆっくり自分を待ってくれていた国民一人一人に返すよう女王になろうと努力している。

 そしてナジェリークの国民たちは一つのある大きなことをこの病から学んだ。

 それは次世代の女王がいないと国の継続が成り立たなくなることを。

 それ故()()が始まったのは二年程前から、フィオリアが即位して少しずつ要領を得てきてどうにか自分一人でも采配出来るようになってきた頃だった。

 母の時代から宰相を務めてくれている宰相のスタインから唐突に結婚相手の釣書の束を渡された。

 初めて置かれた日は多少の驚きと「来たか」という覚悟があり、話を聞いて事情も実情も分かった。

 分かったが今のフィオリアに必要なものは "夫" ではなく女王として力で、学ぶ時間だった。

 だから即断ったのだ。

 理解をしたのであって、納得したわけではなかったから。

 それは女王の意思と正式に認められたが、その意思は無視されたかのように毎夜同じように全く悪びれた様子もなく釣書きは用意され毎晩目を通すよう言われ続けられている。

 今夜は日頃の鬱屈が溜まってフィオリアが声を上げたところだった。

 フィオリアは目頭を揉みながら少々荒く息を吐く。


 (……夫を持つ暇があったら決裁済の書類を増やしたい……)




お読み頂きありがとうございます。

加筆しました。楽しんで頂ければ。


また続きでお会いできますよう。



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